2024.12.20 04:32可愛くて、やぶさかではない 下12「寿太郎!」「ししょ……うおっ」 走ってきた風賀が寿太郎の体に飛び込んで来て、寿太郎は咄嗟にキャッチした。後ろで慶が「こら!」と軽く叱る。 風賀がどうしても寿太郎と遊びたいと言ったので、保護者の慶も参加して今日は三人で出かけている。十二月に入り外はめっきり寒くなった。手袋をした風賀が寿太郎に手を伸ばす。手を繋げ、ということだ。寿太郎はおずおずと風賀の手を握った。「今日僕と寿太郎はプリンセスなので、にいちゃんがナイトになって守ってね」「ええ……」 絶対、心身ともに二人の方が強いのに。力不足すぎる。ナイトはこっち、と慶は車道側を歩かされた。その横に寿太郎、風賀と並んでいる。「師匠、今日はなにをするんだ」「公園で遊ぼうと思ったんだけど、寒いからやめた」「...
2024.12.20 04:30可愛くて、やぶさかではない 上1 慶(けい)の弟、風賀(ふうが)は「弟子を連れてきた」と言って帰ってきた。 平日の放課後。慶はあまりの睡魔に、夜ご飯まで仮眠しようとリビングのソファーに寝そべっていた時だった。 今弟子って言ったか。小三にして弟子。またお友達のことをそんなふうに呼んで。風賀は周りの人のことを駒だと思ってる節があるからな、と慶は半目で扉の方を見た。「お友達でしょ。そんな呼び方しちゃいけないよ……」 ソファの肘掛けに頭を乗せたまま、可能な限り首を後方に逸らす。慶は反転した視線の先にとんでもないものを見た気がした。数秒固まって瞬きを数回繰り返し、コンタクトがずれていないことを確認する。慌てて上体を起こし、次はしっかりと扉の方に体を向けた。 風賀が扉を開けてそこに立っている。...
2024.12.01 11:55もし幼千②●一宮 守通常の世界線より更に根暗で捻くれている。友達が全くいない。最初は千田くんのグループに入れてもらってたけど系統が違いすぎてついていけなくなって離脱→新しく友達を作るタイミングを失って今に至る。●千田 環健全な男子高校生なりに気の合う友達と遊びたいし、はしゃぎたいお年頃。一宮のことはもうタイプ違うなーと思い新しい人間関係を築きつつも、いつもどこかで気に掛けている。一宮が離れたら離れたで焦る。ある程度側に置いておきたいという気持ちはある。※なんか時間経過がおかしい気がするので、一宮の学校は冬休みがめっちゃ早く始まると思ってください。※↓前回リンク
2024.10.24 12:27誰のハッピーハロウィン?1「俺最近すげえ体重くてさ……」「え、俺も。起きてからずっとぼやぼやしてんだよ」「だよな!? 俺授業も集中力続かなくて」「ぼーっとしてる間に一日が始まって、ぼーっとしてる間に一日が終わる感じ」 分かる分かる、俺も最近そうなんだよ、と思わずクラスメイト達の会話に混ざりたくなった。なんならさっきまでやってた古文の授業も記憶がない。途中で爆睡をかましていたらしい。ヤバイ、と思って体を起こしたらクラスのほぼ大半が死んでいた。教科担任、一体どういう気持ちで授業やってたんだろう。「早乙女、帰ろ」「あ、うん」 古文の授業で今日は終わりだった。支度を終えた水上は俺に声を掛けた。一緒に帰ると言っても、俺は寮生で水上は実家暮らしだからほぼ玄関までだけど。 寝起きのせいか、...
2024.09.19 12:10あかりとテクノと部員たち1.あかりが聞く「おはざーす、あーす、うーす、お、……うおおぉぉ!?」 人って朝からこんなに大声出せるんだ、と我ながら感心した。眠気眼で部室に入って来た部員達に流れ作業で挨拶をし、挨拶をし、挨拶をしようとしたが、流せない視覚情報が目に飛び込んできた。俺がガン見しているその男は気恥ずかしそうに目を逸らした。「……うす」「テクノ! 髪! テクノじゃなくなってる!」 テクノの髪がテクノカットじゃなくなっていた。 目の前の男──テクノは俺と同じ学年、ついでに言うと俺と同じクラスの男だ。高校に入って出会った時からずっと、全く同じテクノカットをしていた。同じバスケ部に入り、新入部員の半強制通過儀礼であるバリカン刈りなるものをうまいこと避けに避けまくって、この男はそ...
2024.09.19 12:09イチオシだからダイジョーブ!1 その案内がグループチャットに届いたのは2週間ほど前。 課題や卒論や未だにお祈りメールを見ることしかできない就活に追われているさなか、それは俺の心がさらにどんよりと重くなるお誘いだった。「心よりお祈り申し上げてるんなら採用しろよクソ……」 ベッドに身を投げ出し、虚ろな目でスマホを眺めた。『末筆ながら、四ツ谷様の今後のご活躍とご健闘を心よりお祈り申し上げます。』 また落ちた。期待はしていなかったけど、こうも不採用が続くと気が滅入ってしまう。今の所10社連続で落ちている。これを兄に言ったら「そんなのまだまだ大丈夫! もし50社受けてうまくいかなかったら俺が天音の面倒見るし」と返ってきた。「それはいいですねぇ……。誰か養ってくんねーかな」 俺の兄はブラコン...
2024.09.19 11:47恋と言い難いが文とどまれない1 今年は九月一日が月曜だったから、キリよく九月頭から登校だった。八月いっぱい夏休みだったからか、余計長い長い夏休みに感じた。 そんな憂鬱な九月一日の朝、黒野家リビング。「お母さん、俺のシャツ知らない?」「はぁ? ないことないでしょ」「ないから聞いてるんだって」「……あ、クリーニング預けたままだったな」「え、俺何着ればいいの」「お父さんの着てけばいいじゃん」「絶対デカイし絶対服装検査引っかかるけど」「あーもう朝からうるさいな。じゃあパジャマで行けば? こっちは気効かせてクリーニング出したんですが?」「……」 これが俺のお母さん、黒野由実。多分、アリかナシかで言うと難アリな方の人間だ。気効かせてクリーニング出すんなら間に合うように取りに行くべきだろ。ちな...
2024.05.06 09:06ゴコイチが肝試しに行った話⚠注意⚠整合性がなくなったので非公開にしていたやつです。ゴコイチが中学時代に肝試しに行く話です。が、本編では一応この時期は三好が荒れていてこんな展開にはなっていないはずなので、これは別世界線ということにしておきます。
2024.05.06 07:27拗らせ男と捻くれ男のハッピー逃避行(結果論)310 射手矢の場合⑤「で、ケータリングのお土産持って帰って渡したら、早乙女が目輝かせててさぁ。昔一回だけ友達から貰って食べたことあるお土産だったらしくって、それが美味しかったのが記憶に残ってたけどなかなか食えないから嬉しいって……さぁ……そんなの俺がいくらでも買ってやるんだけど。つーかその友達誰だよ、俺知らないんだが!?」「うるさっ、クレッシェンドやめろよ……」「あと部屋の浴室のシャンプー切れてたみたいで、早乙女が扉から顔だけ出して気まずそうにシャンプー無くなった、って言ってたの、マジメッチャ良かった。と同時に、俺が紳士で良かったなとも思った。警戒意識が無さすぎる。まだそこらへんの女子小学生の方が警戒心あるだろ」「男にそこまで思わねえよってか本当にうる...
2024.05.06 07:23拗らせ男と捻くれ男のハッピー逃避行(結果論)26 射手矢の場合③「芸能科の寮生の部屋ってみんなこんなもんなの? 差別じゃない? 平等な学生の人権にここまで差をつけてもいいもんなの?」「うるさいブス黙れ」「お前は会話もできないの? 全部顔に持ってかれたのか?」「うるさいブス追い出すぞ」 チッ! と舌打ちした音が聞こえてきた。表情は見れない。なんせ、俺は早乙女の顔を見れないから。見れるわけない。俺の部屋に、早乙女がいる。なんのために早乙女が俺の部屋に来たかと言うと。「俺どこで寝ればいい?」「……」「……え、なんだよ」「……」 俺は早乙女に背を向けたまま逡巡した。どこで寝るって、一択しかないだろ。金がある家の生徒にしか許されないこの無駄にデカいベッド、なんのための無駄なデカさだと思ってるんだ。なんのため...
2024.05.06 07:19拗らせ男と捻くれ男のハッピー逃避行(結果論)11 早乙女の場合① 江戸幕府を治めた十五人の将軍すら名前を覚えられないのに、幼少期の数年間に見ていた戦隊ヒーローたちの名前は系列順で全て言える。授業で習った小難しい数式は数カ月もたてば思い出せなくなるのに、小学校低学年でやった国語の話は今でも冒頭を暗唱できる。親に言われた小言のひとつやふたつ、数分のうちに忘れるのに、幼稚園で描いた親の似顔絵を大層褒められたことは鮮明に記憶に残っている。 つまり、ガキの頃の経験や知識や言葉というのは忘れようにも忘れられないものも多く。『こっち見んなブス』 小学三年生にしてこんな事を言われてしまった俺は、当時のやわやわな柔軟すぎる心にその言葉が深く突き刺さってしまい、高校生になった今も心の形が変わったままだった。 そうか、...
2024.05.06 07:16関係とかなんでもいっか1 ずっと一緒に暮らすって。ずっとって、いつまでだろう。「あっ、ましゅうくん!」 偶然廊下ですれ違うことができた俺の可愛い弟に声を掛けた。両隣には真秀くんのお友達がいる。大学生になってもちゃんと交友関係を築けているようで、兄としては安心する。「あの、実習で作ったんだ、これ」 バッグからクッキーを取り出した。栄養学部なので、授業に調理実習もある。今日はカロリーや糖質を抑えたクッキーを作った。調理実習で作った物は、大体真秀くんにあげることにしている。真秀くんはじっと立ち止まったまま、両隣にいるお友達がうまそう、いいなと感想を溢していた。「俺今日バイトで帰り遅いから、今のうちに渡したくて、えっと……、夜ご飯は作り置きしたやつ冷蔵庫にあるし、チンして食べてて」...