内定、メガバンク銀行員

お題:幼馴染オメガバース(α×Ω)


※成人向けではないですが、直接的な表現がギリあるので背後注意です

※オメガバースの説明は一切無いまま話が進むので、有識者だけお読みくださいね




1


 8月。コンクリートジャングルの都内はどこへ行けど燃えるように暑い。

 俺と朔也は涼める場所を求め、カフェに入った。席について極上の冷気を感じたのも束の間、朔也はスマホで何かを確認した後、机に顔を伏せた。


「また落ちた」


 可哀想に。就活連敗の記録が今の所更新され続けている。ちなみに俺は希望していた企業から内定を貰っている。なんと言っても俺だから。俺の優秀さをほっとける企業なんてない。


「大丈夫大丈夫。全落ちしたら俺が養ってやるっていうのに……。何をそんなに頑張ることがあるんだよ」


 俺の発言で朔也は徐々に顔を上げる。恨めしげな視線を寄越す。


「情けなさすぎるだろ。就活全敗して幼馴染に養われて生きていくって。俺の立場ないだろうが」

「いや、立場ならある。俺の旦那様……いや、この場合は奥様か」

「……………………響、そのネタで笑う人もういないって」


 俺だけは高らかに笑った。

 高校の時、俺はこれを言いまくったので周りからはカップル的な扱いをされて面白がられていた。

 大学生になった今は、朔也からガチ感が出るからやめろとまで言われてしまい、俺達のカップルムーブは終了した。


「そろそろネタじゃなくしようよ、奥様」

「はいはい」


 実はこれ、結構真剣に言ってるんだけど。

 言ってるけど、俺の言い方のせいか、それとも本当に脈無しなのか。朔也は一向に俺を恋愛対象として見てくれない。

 アルファとオメガなのに。αとΩなのに!

 生物学的には絶好の相性の良さなのに!

 それでも朔也は俺のことを一度も性的な対象として見てくれたことがない。

 そんなことより、朔也は目前の就活の檻に囚われている。こんなに魅力的なオメガよりも、就活が優先なのだ。


「ま、あんまり落ち込むなよ! 働けるとこなんていっぱいある。お前が落ちるのは、大企業ばっか受けてて高いレベルしか目指してないからだ。例えば……ドーナツ屋さんとかいいんじゃないか? フフ……似合う……よ、エプロン姿とドーナツ。可愛いじゃないか」


 机の下で思いっきり足を蹴られた。


「うごッ」


 朔也は俺を真顔で見ていた。

 おい、この、俺の完璧なボディーになんてことを。


「おま……結構本気で……」

「絶対、何があっても、良い企業に入る」

「別にそれは否定しないけどさ。最初は入れるとこ入ればいいだろ。転職だってできるし」

「早く稼ぎたい」

「なんで? お前んち太いんだし金はそこまで頑張らなくていいだろ」

「……」


 朔也は何も答えず、カバンからパソコンを取り出して作業し始めた。エントリーシートでも作っているんだろう。本当に大真面目。でもそういうとこが好き。






2


 俺が朔也が好き好き結婚したいなのは本当の話で。

 俺達のバース性が発現した中学生くらいだっただろうか。それくらいから、俺はずっと朔也のことが好きだ。

 俺と朔也は幼稚園の頃から今までずっと一緒にいる。言わば幼馴染だ。

 そして朔也はアルファで、俺はオメガ。こんなのもう運命だろ。

 実際、アルファとオメガの間には『運命』と呼ばれる100%相性が良い番がこの世に存在するらしいが、俺はこれが朔也だって本気で信じている。当の本人はアレだけど。恋愛なんて興味ないみたいな顔してるけど。俺の魅力が一切伝わってないんだけども。

 朔也は就活全落ち(未定)だし俺より成績は良くないしアルファのくせに自信もないけど、それでもあの顔と体だ。このまま社会人になって会社に入ってしまえば、社内女子及びオメガの男は黙っていない。ぽっと出の人間になんてくれてやりたくない。朔也の隣に相応しい人間は、幼馴染で完璧なオメガの俺しかいない。

 だから、俺はこの大学4年生のうちに、どうしても朔也を番にしなければいけない。学生結婚すらも辞さない勢いだ。結婚に慎重な今の時代、俺みたいな男は重宝すべし。


 ところで、今月は俺の誕生日がある。

 俺は朔也におねだりしていた。


「ねえ朔也ー、俺の誕生日、プールに連れてって連れてってほしいなー」

「は? プール? 勝手に行けばいいじゃん」

「必要以上に冷たくてウケるね。市民プールだと思ってるだろ、ノンノンだぞ」


 わざとらしく指を振ると、朔也は舌打ちした。ウケるね。


「ナイトプールがいい! 一緒に行こうよ〜♡」


 思いっきり甘えると、思いっきり顔をしかめられた。その反応は想定内だ。朔也はそういうタイプではないので。


「ね、学生最後の夏だよー、俺の誕生日だよー、キラキラしたとこでお酒とか飲んでプールにダイブしてお祝いされたいな〜」


 朔也はとにかく嫌そうな顔をした。俺だって別にナイトプールがめちゃくちゃ好きというわけではない。でも、ナイトプールって色仕掛けするのに最適なのではと考えた。俺の誕生日だからとお願いしない限り、朔也は絶対に乗ってくれないだろうし、ベストタイミングなのだ。

 芳しくない反応の朔也に近寄り、耳を寄越せと引っ張った。そして、耳孔に細く淡い息を吹きかけた。朔也の肩がびくっと震える。


「ね、お願い」


 朔也、俺を見ろ。この俺を。エロすぎる俺を。これで落ちない方が不健全なのだ。落ちろ! 落ちないとEDって呼ぶ!


「イーッ」


 朔也は、俺が息を吹きかけた耳をゴシゴシと手のひらで擦っていた。必死に。こいつ絶対EDだ。


「分かった。分かったから、これ以上ねだるなよ」

「ついでに俺達が泊まるホテルもとっといて。ダブルベッドで1部屋な」

「……」

「はっはっは、なんだよそのキュートなお顔は。俺だって負けないくらい可愛いぞ」


 俺がぷうっと頬を膨らますと、目に見えてわかるほど朔也がイライラした。面白すぎる。こんなに可愛くてかっこよくて美しい俺がここまでしてもこの態度。実におもしれー男と評価できる。






3


 俺と朔也は世間的に格式の高い幼稚園に通っていた。ほとんどの家の親がアルファだったり、大企業の令息令嬢だったり。そういう子どもが通う幼稚園だった。

 かくいう俺達もそうで、朔也はお父さんがアルファだし、俺の家に関しては両親ともにアルファだ。

 俺達はその幼稚園で出会い、意気投合し……というか、俺が一方的に朔也を連れ回していた。この頃から、俺は朔也のことが好きだったんだろう。絶対にこの男を俺のものにしたかった。

 中学生になっても変わらず朔也と一緒に毎日を過ごしていたところ、健康診断の時に生徒全員受けさせられたバース検査で、俺はオメガだと発覚した。

 俺はアルファ同士の親から生まれた子なのに、オメガ。珍しい事例だが、ないこともない。近親者にオメガがいたりするとこういう場合もある。

 これがもし他の人だったら、落胆したり絶望を感じたり、もしかしたら家庭問題にも発展するところもあるだろう。


 しかし、この俺だ。

 俺は俺だ。

 アルファとアルファがかけ合わさって生まれた俺の性別が、たまたまオメガだっただけ。

 才能と日々の鍛錬により、能力はオメガと変わらないのだ。全く問題視しなかった。

 だって俺はいつだって完璧で、素晴らしい人間。

 たかがバース性ごときで振り回される人生にしない。絶対ならない。

 それどころか、アルファだと分かった朔也と番になれる可能性が一気に高まったのだ。これはもう自分の性別を利用するしかない。人の上に立つべき俺のような高尚な人間こそ、自分の手札を上手く使うべきだ。


 俺達のバース性が発覚してから一度、朔也にちゃんと告白したこともある。

 番になってくれと。

 そしたらあいつ、「え、駄目」と断ってきた。

 駄目ってなんだよ。嫌とか無理とか好きな人いるとか興味ないとかなら分かるけど、駄目って。断るんならちゃんと断れよとすら思った。

 結果振られたけど、俺はここで折れるような人間ではない。朔也の番は、俺しかいないと確信している。




「あっ」

「えっ?」

「しまった」


 時は来たりて、俺の誕生日当日。

 朔也はちゃんとナイトプールとホテルを予約してくれた。そして、ナイトプールの受付前でポスターを見ていきなり慌て出した。


「ここアルファとベータ限定だ」

「ナニッ」


 まあ、そりゃそうだよな。

 ナイトプールなんてただでさえ何があってもおかしくない場所なんだから、バース性は選ばれて当然だ。


「響、悪いけど今日はやめよ。また他の場所探すからさ」

「でもここのホテル取ってくれたんだよな?」

「まあ、そうだけど。それはそれでいいじゃん」


 このナイトプールは、朔也が予約してくれたホテルと直結している。正直俺は、ナイトプールで遊んでお酒飲んで最高のテンション感のままホテルに直行できるなんて、めちゃくちゃ事に及びやすいじゃん♪ と呑気に考えていた。


「いいじゃん。ここで遊ぼうよ」

「だから、アルファ限定なんだって」

「俺がアルファに見えなかったことあるか?」

「……」


 俺は自信満々に受付の前に行った。当然バース証明証の提示を求められたが、忘れちゃって……としおらしくすると、スタッフは俺と朔也を一瞥だけして中へ通してくれた


「フン、チョロいもんだぜ」

「ほんとにいけた……」

「わあ、朔也、プールキラキラで綺麗だね♡」


 そのまま進んで足を水にでもつけようとしたが、その前に朔也に着ていた上着のフードをぐいっと引っ張られた。


「グェ」

「いやいやいやいや」


 そして近くの壁に押しやられる。朔也の腕の中に収まってしまった。


「キャッ……壁ドン……♡」

「やっぱり出よう。危なすぎる。思ったより人多いし」

「危ないって?」

「お前な……。ここにいる人間、男も女も関係なく、響以外が全員アルファかベータなんだぞ。響はオメガだ。分かれよ」


 オメガのとこだけ小声にして呟かれる。こういうとこ配慮出来る人間で大好き。


「俺発情期終わったばっかだから大丈夫。抗フェロモン剤飲んだし」

「そういう問題じゃない」

「それに俺強いよ。多分この中で一番」


 俺は美しい上に空手は黒帯なのだ。顔身長頭脳カリスマ性を持ってしても、まだ足りなかった。強さまで求めてしまった俺に敵う人間なんていない。


「いやいや、アルファが見境無くなったときの力の強さ舐めんなって」

「じゃ、朔也が俺のこと守ればいいじゃん」


 人差し指を朔也の顎に当て、クイッと上を向かせた。朔也の方が身長が高いので、俺を見下ろすような視線になる。俺の王子様、今日もかっこいいな。


「ね? 俺今日誕生日だぜ」


 なんだかんだ、朔也は俺のお願いに弱いことを知っている。いつだって最後は朔也が折れてくれるんだ。


「……はぁ……。分かった。なるべく俺から離れるなよ」

「ヤッタ〜」


 朔也の腕に抱きつくと、朔也は鳥肌を立てて俺から離れた。面白すぎ。そっちが俺から離れるなとか言ったくせに。






4


 まずは乾杯をしようということで、ドリンクスタンドに向かった。


「朔也何にする?」

「ジンジャエール」

「えー、かわいー。じゃ、ジンバック2つで」

「おい」


 朔也はお酒が飲めないことはないが、強くはない。でも、今日酔わせなくてどうする。シラフの朔也には俺の色仕掛けは全く効かない。まず酒に酔わせて理性の壁を崩さないといけない。

 これを飲ませて、プールの中では何をしようかと考えていると、突然肩を叩かれた。


「あれ、見たことないよね」


 知らない男の人だった。若いけど社会人ではありそう。多分雰囲気的にアルファだ。

 俺の教え、モブでも使えるものは使え。


「はじめましてでーす」

「あ、やっぱりここ初めてなんだ。いくつ?」

「今日で22歳になりましたー」

「え、誕生日? おめでとう、1杯おごるよ」

「え〜、嬉し〜♡」


 なんてやり取りをしながら、男の背に隠れてしまった朔也を見ると、険悪な顔をしていた。オホホ、愉快愉快。もっとやきもきすればいい。


「俺らあっちで飲んだり泳いだりしてんだけど、お兄さんも来ない?」

「俺が?」


 男の人が指差す方を見ると、男女混合のグループが盛り上がっていた。というか、普通に絡み合ってキスとかもしてる。これはオメガ禁制だな。


「お兄さんイケメンだし、女受け良さそう。てか普通に男にも人気だと思う」

「えー、俺のこと客寄せパンダにしようとしてます?」


 確かに、俺は男女関係なくモテるけど。今まで百人は告白断ってきたけど。俺の美しさは簡単に他人に享受してはいけない。


「そんなんじゃないけど! 誕生日ならさ、どうせならちょっとくらいハメ外して楽しもうよ」

「……まあ、俺もそのつもりなんですけど」


 というか、ハメ外させるんだけど。朔也を。


「いいね。じゃ、行こ」


 男は俺の腕を掴んだ。俺を引っ張った拍子に顔が近付く。そして、何かに気付いたようだった。


「あれ、君……」


 あ、バレたかも。しまったな、俺の強すぎるフェロモンは薬では抑制しきれないのかも。だって俺ってばオメガとしての魅力がありすぎる。でもこんなしょうもない男にバレても面白くない。

 どうしようかと一瞬考えているうちに、大きな声が響き渡った。


「あーーーーー!!」


 びっくりして声の方を見ると、朔也が叫んでいた。


「朔也?」

「お兄さん、背中にデカい蛾が」

「え!?!?」


 朔也は真顔で男に訴えた。

 男は絵に描いたように慌てふためき、必死に背中に手を伸ばしている。動きがコミカルで笑顔になれる。


「え、どこどこどこ!?!?」

「わー、真ん中に……わあ……凄い……大きい……」

「うわあ!! 取って!! 取って!!」

「無理です! 俺虫駄目なんで! プール飛び込んでください!」

「うわあああああ」


 瞬間、男はすぐさまプールに飛び込んだ。水しぶきが高く上がる。周りにいた人は何が起きたか分かっていないので、見事な飛び込みっぷりを披露した男に拍手を送っていた。

 勿論男の背中に蛾なんていなかった。


 朔也は、俺が男に握られていた方の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。反抗期の娘に苦悩する父親のような表情だ。


「なんでお前はいっつもいっつも……」

「……ははは!」


 衝動的に抱きつきたくなったのをぐっと堪えた。

 さっそく有言実行じゃないか。争いを好まない朔也らしい。朔也はいつでもかっこいいな。


「ほら、俺達も楽しも!」

「ちょ、酒が……」


 俺は朔也を引っ張ってここから一番離れたプールサイドに移動した。

 お酒を飲んで、プールに浸かって、泳いで、水とか掛け合っちゃったりして。朔也もちゃんと楽しんでいた。こんなの、誰が見てもカップルだ。

 俺達の空間に入ってくる人は、以降一人もいなかった。





5


 俺が調子づいて朔也に結構酒を飲ませたせいで、一瞬プールで溺れかかったところで切り上げてホテルに向かうことにした。

 ホテルは学生が泊まるにしては割とランクの高そうな部屋で、俺がお願いした通りダブルベッドが一つだけ置かれていた。

 もう、この男は。もう。俺とちちくり合う気はないのに、こういうところは守ってくれるんだ。


「朔也、朔也」

「んん〜」

「ほら、シャワーだけ浴びて」


 朔也はフラフラだった。あ、俺が洗ってあげようか? と聞いたが、それには頑なに首を横に振って否定していた。こんな時まで鉄壁だ。

 ベッドで待機していると、朔也は5分くらいでお風呂から出てきた。多分手がおぼつかなくて諦めたのだろう。ホテルのバスローブを着て、髪は濡れたまま俺の座るベッドに雪崩れた。

 火照った顔、濡れた髪、バスローブ、少し荒い息遣い。かろうじてまだ意識はあるが、夢見心地な状態。


「朔也、そんなに無防備だとチューしちゃうぞ」

「ん〜」


 これだけ無防備にさせたの俺なんだけども。

 朔也の唇に人差し指を当てたが、苦しそうに返事をするだけで嫌がらなかった。


 これ、もう、既成事実作れるのでは。

 俺が今ちょっとだけ本気出してわざとフェロモン垂れ流せば、恐らく理性が弱まっている今の朔也なら俺に手を出してくれるのでは……?

 真面目な朔也のことだから、手を出した責任は取るとか言ってくれそうだし。

 あ、じゃあ、これがうまくいけば、俺は今日脱バージンでこいつも脱童で、明日は俺達が付き合った記念日で……!?


 ヤバい興奮してきた。

 絶対中綺麗にしとこう。


「朔也、絶対寝るなよ!」

「んんぅ」

「いや寝そうじゃん! 起きろよ! 俺今日誕生日なんだから! 祝え! 祝う気持ちを強く持て! 祝いとは生命の営みのことだ!」

「んん……うるっさい……」

「コイツ……」


 朔也が寝てしまうまでに準備しないと。

 俺はとりあえず体だけくまなく洗い、水圧をマックスにして中も洗い、ヘロヘロになりつつも15分程度で風呂から出た。

 朔也は寝ていなかった。半目くらいは開いている。ただ、冷たさを求めたのか、さっき俺が買ってあげた2Lのペットボトルに抱きついていた。


「はぁ、俺じゃなくて水を抱くのか」

「母なる大地」

「よこせ、俺がお前の母なる大地になってやる」


 朔也からペットボトルを奪い、そのまま空いた空間に飛び込んだ。朔也は何が起こったか分からないというような顔をしつつも、俺を受け入れていた。いつもだったら絶対鳥肌を立たせて俺を剥がすのに、今日はそれがない。フム、絶対いける。

 朔也を押し倒した俺は、朔也のバスローブの胸元をゆっくりと開き、しっとりとした肌に何度も口づけをした。

 ヤバい、いい筋肉。筋肉が良い。こいつなんでこんなにいい体してんだよ。なんで黒帯の俺より筋肉育ってるんだよ。こいつ部活も禄にしてなかったのに。


「う……」


 朔也は俺を見下ろし、なんとも情けない表情で、目を潤ませて頬を真っ赤にしていた。

 あ〜……♡ もう♡ 童貞くん、こんな簡単に流されちゃ駄目だぞ♡ 俺に限り許す♡


「ふふ……俺のことも気持ち良くしろよ」

「っだ、え、」

「俺自己研鑽済みだから、いっぱい触っていーよ」


 セルフ開発は終えている。こういうところも俺の日々の鍛錬ゆえ。朔也をメロメロにさせる完全生命体となるにはこれくらいしとかないと。

 朔也に跨ったまま、朔也の右手を取って俺の胸に当てさせた。大きな手のひらですっぽりと覆われ、それだけでもう気持ちが良かった。

 朔也は酔っているからかはたまた緊張から、指先が微かに揺れていた。それにすら感じてしまう俺。鍛錬が過ぎたかもしれない。


「朔也っ……」


 俺の胸を凝視していた朔也は、名前を呼ぶと俺に視線を寄越した。昂ぶっている朔也を見て、俺も一気にそういうモードになってしまった。自分でもフェロモンが出ているのが分かる。確か、薬の効果はもう切れていたはず。

 オメガのフェロモンに当てられた朔也は、更にもう一段階酔ったような心地になり、俺の目を見つめながらとろっと目尻を落とした。


「ひ、響」

「うん……」


 か、かわいー。可愛いよー。めちゃくちゃにしたい。いや、めちゃくちゃにしてください。俺の体全部お触りください。

 どうしようもなく興奮し、俺は朔也の手を動かし、指先を乳首に押し当てた。

 あ、ヤバイかも、と微かに思った次の瞬間には、朔也は指先をカリッと動かして俺の乳首を弾いた。


「──ッ、ぅ゛ひ……」


 ヤバい、ヤバい!

 朔也がその気になってる! てか、こいつ上手いかも! 今の一瞬だけであられもない声出そうになった! え、もう、サイコー!! 早く、早く朔也とエッチしたい!!

 さあ、こい、もっとこい!!


「朔也……♡」

「……」

「……あれ……」


 が、待てども次の動きがない。

 どうしたものかと思い見下ろすと、朔也は声を押し殺してボロボロに泣いていた。


「え!?」

「うう……」

「えっ!? 待って、なにっ、そんな……俺の乳首痛かった!?」

「ちが、そうじゃなくて……」


 どうした。こいつの泣き顔なんて見たことないぞ。就活10社連敗しても泣かなかったのに。俺の乳首で泣かれた……。


「あ、あれ、なんか、ごめんね、俺が性急すぎましたか」

「い、いや……分かってる、分かってた、響がずっとこういうことしたかったことも、俺がずっと待たせてることも」

「え」

「でも駄目だ……」

「……いやいやお前、一手目結構ノリノリだったじゃん。テクニカルな動きしてたよ」

「それは……、あの、でも、マジで、駄目なんだって。この先は……」

「この先はって……」


 途中まで受け入れてたじゃん!

 そういう目してたじゃん!

 朔也だって興奮してたし!


「あのさ、俺が襲ったみたいな感じになったのは申し訳ないけど。俺もお前ももう22歳だぜ? 受け入れる側の俺がこんなにオッケーオーラ全開なんだよ。だからさっさと手出せよ! ここまできてんだから! てか俺がそう仕向けてんだよ! 手を出せ! 漢を見せろ!」

「うう……できないんだよぉ……」


 朔也はまたメソメソと泣いた。

 ええ〜……、こいつやっぱりEDなんじゃないか。


「俺、そんなに魅力なかった? これでも今まで告白百人切りしてきたんだよ、お前のために」

「ちが……、俺……、響のこと好き。ずっと好きだ……」

「……っはぇ」

「お前みたいな人に、俺みたいな普通の男が絆されないわけない……」

「え!? 朔也、俺のこと好きだったの!? 恋愛的に!?」

「そうだよ……」


 それは嬉しい誤算だ。嬉しすぎる。いや、まあ、朔也は俺から離れることないだろうなとは思ってたけど。ちゃんと俺のこと好きだったとは。

 てかこいつ、自分のこと普通の男だとでも思ってんのか。俺がどれだけこいつから恋敵を追い払っていたか、ぜひ一度知ってもらいたい。


「ならもういいじゃん! さっさと俺のこと番にしろよ!」

「だから、駄目なんだって!」

「前からさ、その駄目ってなんなんだよ!」

「お前のこと好きすぎるから、親に今はやめろって止められてんだよ!」

「へっ……?」


 言い切って、朔也はじわじわと頬を染めて後悔に浸るように顔を手で覆った。

 ……なんだよそれ!


「え、え、待って、その、お前が俺のことを好きなのは、親公認……? なの……?」

「そうだよ……幼稚園の頃からバレてた……」

「幼稚園!?」


 俺より片思い歴長いの!?

 じゃあ俺ら中学からずっと両片思いだったの!?


「多分、お、俺が、響と付き合ったら絶対箍が外れてヤバいのバレてるから、せめて責任取れる社会人になってから、手出せって……」

「あ、え、え、え、あ、そ、そっ……そう、すか……」


 え?

 だから、今までずっと律儀にそれを守ってたの?

 二十歳も過ぎて、お酒もタバコも風俗だっていける歳はとっくに超えたのに、まだ自分の力で稼いでないから、俺に手出さないの?

 てか、EDどころか、付き合ったらヤバいの?

 朔也、俺のこと好きすぎるの?

 俺達の関係に進展があったら、朔也は絶対責任とってくれるの?

 え?


「だから、俺に色仕掛けするの、本当にやめてくれませんか………耐えられない……」

「あ、はい……」


 朔也の本気の声色。耳まで真っ赤だ。

 俺が朔也にいろいろやっても全く靡かなかったのは、俺の魅力が無かったからじゃなくて、めちゃくちゃ我慢してくれてたからなんだ……。


「……社会人になったら、ちゃんと、俺の方から告白するから、だから、誘惑するのやめて……。でも、さっきみたいに、他の男と絡むのも、やめて……ください……」


 朔也はズビズビと鼻を鳴らした。

 もう全然かっこよくない。他人にすがる朔也なんて見たくなかったよ。嘘です。俺にだけは大正解。だってね、今俺凄いもん。


「あへっ……」


 アヘ声が出ました。

 もう、ヤバい。

 朔也が可愛すぎて、愛おしすぎる。

 今まで頑張って我慢して耐えてたのに、俺の乳首触って遂に我慢できなくなって、でも我慢したくて泣いちゃったんだ。

 可愛すぎてどうにかなりそう。何もされてないのに、朔也が可愛すぎて一人でイキそうになった。危ない。

 社会人になったら告白するなんて、それもう今告白してるようなもんじゃん。


 あーーー!! 俺、幸せすぎ!!


「……ふふ、じゃあ俺は、朔也が社会人になれたら朔也と番えるの確定してるし、ちゃんと手も出してくれるってこと?」

「……はい……」

「えー♡ えーーー♡ 俺カラーはシルバーグレーのシンプルでオシャレなやつがいいなー♡」

「はい……」

「んふふふ……。じゃ、俺の扶養に入らないように就活頑張ってね、旦那様♡」

「……………………はいっ……」


 朔也は忠犬のように頷き、そして口元を抑えながらトイレに駆け込んだ。ずっとゲロ我慢してたんだ。


 そして俺は、体を起こして壁掛けの鏡を見て、まだ何も嵌めていない首元をニマニマと眺めた。うなじだって完璧に綺麗。誰にも触らせたことすらない。朔也が最初で最後の男だ。朔也だって、俺が最初で最後の男。俺達はなんて誠実でまっすぐでかっこいい人間なんだ。

 明日、二日酔いの朔也に、これだけ待ち続けた上でうなじを噛まれるのってどれだけ気持ちいいかなって聞いてみようかな。あいつ、どんな反応するだろう。






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