お題:自身が病弱なことを逆手にとってグイグイ迫る攻め×真面目な受け
1
俺は昔から体が弱く、ありとあらゆる病や体調不良を一年間でコンプリートしてしまうくらいの免疫の無さだった。季節の変わり目には確実に風邪を引くし、低気圧で頭はやられるし、いろんなアレルギーにひっかかるし、勿論流行り病にも誰よりも早く感染する。
特に俺の小さい頃は病弱そのものだった。
遡ること、小学五年生のとある夏休みの日。
その日は内輪の中で大事な日だった。
お盆前の、いろんな家庭が親戚の家に遊びに行ってしまう前に、俺の幼馴染であるトモはクラスの友達を招集しようとしていた。
トモが何を企んでいたのかと言うと、校区外の廃ホテルの探索だった。
当時校区外に有名な廃ホテルがあり、そこの一室にある金庫には莫大な紙幣や金塊が仕舞われているとの噂がまことしやかに囁かれていた。
こんなネタ、冒険を夢見る男の子たちに刺さらないはずもなく。
「……聖太(せいた)も来る?」
「うん、行きたい!」
その探検が決行される一週間ほど前、俺の家でトモと遊んでいると、トモは顔に似合わず、恐る恐るといった感じで俺に聞いてきた。
俺が病弱すぎて休日のほとんどを家で過ごしているからだろう。仲の良い友達をたくさんを誘った手前、一応俺にも聞いておかないといけないと思ったからなのか、それかどうせ断られると思って聞いたからなのか。
とにかく、俺の返事を聞き、トモは意外そうな口振りでオッケーと答えた。
トモは小学生の頃、クラスの中心人物だった。それも、わんぱくが度を過ぎて少々やんちゃなたちではあったと思う。いつも元気だし、声は大きいし、すぐ友達と喧嘩するし、宿題はやってこないし。
廃ホテルだって、本当は立ち入ってはいけない。校区外へは大人の同伴なく友達だけで出歩いてはいけないし、そもそも不法侵入だし。
それでもそれを嬉々としてやろうとする。トモは昔そんな感じの男の子だったのだ。
対して俺は、病弱で夏も冬も、春秋すらもアレルギーであまり外に出歩かない、トモと真逆のような人だった。トモと俺との共通点はほとんどなかったけど、幼馴染で親同士が仲がいいという点だけで繋がっていたと思う。
そしてトモの誘いから一週間後、廃ホテルの探索は決行された。
俺は滅多にない心が踊るようなイベントに乗り気だったけど、その日はとにかく体調が優れなかった。朝起きた時から体がだるかったし、頭もぼーっとしたけど、なるべく親にはそれを見せないようにした。
トモは俺を家まで迎えに来てくれた。が、幼馴染で長い時間を一緒に過ごしただけあり、トモは俺の顔をひと目見て「今日外に出るのはやめときな」と忠告してくれた。
でも俺は、どうしても行きたかった。
いつもはトモと遊んでも俺の家の中でしか遊ばせてあげられず、活発なトモにつまらない思いばかりさせていた。今日一日くらいは、何がなんでもトモと一緒に外で冒険をしてみたかった。
「大丈夫だよ。薬飲んだし、昨日いっぱい寝たから」
「本当か?」
何度も必死に首肯すると、トモはなんとも言えない顔をして分かった、と言った。
そして、俺達は校区外の廃ホテルへと向かった。
そもそも俺は、家から学校以上の距離を自分の足で移動したことがない。トモと並んで自転車を漕いでいるだけでわくわくした。俺の中で冒険はもう始まっていた。
トモは他の友達と、こういうふうに自転車で移動して、特に夏休みはしょっちゅう遊び回っているらしいけど、俺にとっては初めての経験だった。自転車を漕ぎながら「ここの犬は見つかると怖いからすぐ抜けるぞ」だとか、「ここの川に靴片方流された」とかを楽しそうに話してくれるトモの背中を追いかけて、その時を一緒に過ごした友達全員に嫉妬した。
俺も、健康だったらトモとたくさん出掛けられたのにな。
自転車を漕いで三十分ほど、廃ホテル前に到着した。
ホテル前でみんなと待ち合わせだったので、そこには自転車を停めたクラスの友達が五人集まっていた。みんなトモに誘われて楽しそうだと乗ってきた人達だ。いつもはこの中に俺がいないので、トモ以外のみんなは俺を見てびっくりしていた。この子達はクラス内では仲良くしてくれるし、休み時間も一緒に話したりしているけど、放課後に遊ぶことは滅多にない。
俺はこの時、既に体の限界を感じていた。今までに経験したことのない距離を自転車で移動してしまった。しかも元々体調が優れなかった。呼吸は苦しく、足取りも重かった。でも一人だけ外で休むなんてできず、俺はみんなの後を着いて廃ホテルの中へ入った。
廃ホテルの中の探索は楽しかった、と思う。
映画や漫画の中で見るような世界だった。日の光が十分に届かない屋内はどこかじめじめしていて、割れた窓ガラスが床に散らばっていたし、壁にはスプレー缶で描かれた落書きがたくさんあった。体の不調さえなければ、俺もトモの横に並んで金庫を探したかった。
「ここさ、出るらしいぞ」
「出るって?」
「バカ、分かるだろ!」
トモ達が前方で会話するのを、俺はぼんやりと聞き流しながら歩いていた。いっちょ前にトモが持参していた懐中電灯の灯りがなんだか頼りない。
階段を上がるにつれ、俺は本格的に苦しくなり、先を歩くみんなと距離が空いてしまった。
その場で蹲って呼吸をしていると、先頭を歩いていたトモがすぐに俺の様態に気付き、走って駆けつけた。
「聖太!」
トモも俺と一緒にしゃがみ込んで、慌てたように俺の背中を撫でた。他のみんなは俺を見て幽霊だおばけだと騒いでいたが、俺はそんな話より、胃からせり上がる酸い液体を止められないことに涙が出そうだった。
そして俺は、聖太に背中を撫でられながらその場で嘔吐した。
そこからはもうみんながパニックだった。
周りのみんなは呪いだ! と叫んで一目散に逃げ、トモは俺を放って逃げることもできず終始うろたえ、最終的に俺をおぶって外まで出た。自分の背が他人の吐瀉物にまみれることも厭わず、ただ不安そうに泣いていた。
トモは近くの公衆電話まで向かい、泣きながら俺の家に電話を掛けてくれた。
その後は散々だった。俺の親が迎えに来て、トモは何回も親に謝って、俺はそのまま病院に運ばれて、親にこっぴどく叱られ、そしてトモも両親からこの上なく叱られたらしい。
それが、活発でやんちゃでみんなの人気者だったトモの最後だった。
この夏休み以降、トモは人が変わったかのように生真面目な男の子になってしまった。
あの日、あそこで俺が倒れたのはトモのせいではない。俺がトモの忠告も無視して着いて行った結果起きてしまったので、完全に自業自得である。
それでもトモは俺に対する罪悪感が拭いきれなかったらしい。
校区外の廃ホテルなんかに行かなければこんなことにはならなかったという考えから、そもそも学校で決められたルールを破らなければこんなことにはならなかったという根本的な真理に辿り着いたそうだ。今まで楽しいと思って友達とやっていたやんちゃなことも、すっかりやらなくなった。
そして、同じような失敗を繰り返さないようにと、トモは事あるごとに俺の体調を気遣いながら生活するようになった。朝おはようと顔を合わせて登校する瞬間から、また明日と俺の家まで送り届けてくれる瞬間まで。学校にいる間も、しょっちゅう俺を見張るようになった。先生もクラスメイトも俺達の両親でさえも、変わりきったトモの姿に言葉を失っていた。
そんなトモは、もう面白くなかったのだろう。
あの廃ホテルを探索に行った他のみんなは、徐々にトモから離れて行った。そうなると、クラスの中心人物もまた違う人物になっていく。
小学校を卒業する頃には、トモがみんなの中心で輝いていた過去なんてとっくに忘れ去られた。
俺とトモは卒業式の後、誰にも声を掛けられずに、俺達二人と、俺達の親と一緒にそのまままっすぐ家に帰った。
こうして、ただ真面目で面白みもなく、過保護で俺しか友達のいないトモが完成してしまったのであった。
2
「え?」
「だから、今日の合コン」
「え?」
「さっき林田くんに聞いたら、こっちの人数一人足りないんだってさ。トモも来る?」
時は進み、大学三年生の夏。あの頃と同じくらいの、夏休みの時期。
トモは俺の横の席でラーメンを啜りながら、浮かない顔をした。
「聖太は行くって言ったのかよ」
「うん。だって頼まれたし」
「……はぁ。俺も行く」
トモは眉をひそめてため息を吐き、諦観したような目でラーメンを咀嚼した。
俺は了解、と返事をし、スマホを取り出して同じ学部の友達の林田くんに『トモも行っていい?』とメッセージを送った。
数秒後、取り繕うことを全くせず、林田くんから『えー』『マジか』『他にいないの』『まあいいけどさ』と返ってきて、苦笑いをした。こんなことトモには言えない。
これは「せっかく誘った女の子達をトモに取られる」みたいな、そういう可愛い反応ではない。トモがいると、空気が乱れるのだ。単純に嫌がられている。
「おい、スープ飲み干すなよ」
「いいじゃん、トモだって飲んでるし」
「いやだって」
トモの言葉を無視し、器を持ち上げてスープを完飲した。どうせ塩分が多いからとか体に悪いからとかで止めたかったのだろう。
呆れたような顔をしているトモの手元にあるラーメンの器に俺のレンゲを入れようとすると、トモは躍起になって器を傾け、スープを飲み干した。
ご覧の通り、俺とトモは大学生になった今でも一緒にいる。同じ大学に通い、住んでいるマンションだって階違いなだけで一緒だ。
別に俺が自分からトモに頼んだわけではない。俺が進路や生活拠点を決めた一日後に、トモが「俺もそこにする」と言って、トモ自身が決めたのだ。
昔はどちらかと言うと俺がトモの金魚のフンのような存在だったのに、今では大学の友達からトモが俺の腰巾着と言われる始末。トモは友達がいない。とっつきにくいから、みんなからはそんな風に思われている。
トモは自分がおかしくなっちゃったこと、自覚しているんだろうか。
「合コンまで時間あるから、どこかで遊んでから行こうよ」
「家帰って休むぞ」
「ケチ」
ラーメン屋を出た俺達は、どこも寄らずにマンションへと帰った。過保護め。
「てかこの格好のまま行ったらまずかったよな」
マンションのエレベーターに乗っている間、防犯対策の全身鏡で服装をチェックして、どっちにしろこのまま合コンは無理だったなと自覚する。Tシャツにジャージに安いスライドサンダル。それはトモも同じだった。
「普通の飲み会だったらこれでもいいけどさ、合コンって何着てけばいいかいつも迷うんだよな」
「……お前さ、彼女ほしいの?」
「ええ?」
トモが目も合わせず呟いたが、ちょうどのタイミングでトモの部屋のある階にエレベーターが止まり、すたすたと出て行った。
トモは可愛いな。
3
トモは飲み会自体は嫌いではないと思う。性格が性格なので周りからはあまり相手にされないし、気がつけばトモの四方には空間ができているけど、みんなが手を付けなくなった料理を全部食べられるのがいいと言っていた。小柄な割に大食らいなのだ。
でも、合コンは違う。合コンは飲み食いより女の子との交流がメインだ。トモは口にしていないけど合コンは嫌いだと思う。俺が行くと言ったら必ず着いて来るけど、いつも嫌そうな顔をしていた。
多分、女の子が苦手なんだと思う。小学生の頃も、確かにクラスの中心人物ではあったけど、いつも一緒に遊んでいたのは男子ばかりだったし、女の子と喋る機会なんて必要に駆られたとき以外は無かったように感じる。こんな性格になってしまったからというよりは、元々女の子が不得意みたい。勿論トモの浮いた話なんて今まで一つも上がってこなかった。
「おい、お前アルコール弱いんだからあんまり飲みすぎるなよ」
「えー、大丈夫だよ」
飲み会の会場に着いて席に座った俺は、早速トモから忠告を受けた。トモが俺の参加する飲み会に絶対着いて来てくれる理由は、俺がアルコールを摂取しすぎないか見守りたいからだった。
男6人女6人の計12人。それぞれの手元にはどしどしドリンクが運ばれてきて、全員がそわそわしていた。
「あ、そこ男男の順番やめよ! せっかく同じ人数なんだから」
目の前にいた女の子が俺達を指差した。俺とトモは隣に座っていた。ここと交代、と元いた俺の位置に女の子が派遣され、俺はその子が座っていた席に移動した。
両隣の女の子がよろしく、と声を掛けてきたので、挨拶を返す。凄く、女の子の匂いがする。
女の子達は可愛いとは思うけど、俺は別にこの子達と仲良くなろうと思って合コンに参加してない。
「とりあえず、今日は楽しみましょう! 乾杯!」
幹事をやってくれた林田くんの乾杯の音頭を皮切りに、全員が酒を煽った。薄目で端っこにいるトモを見ていたが、手にしたレモンサワーをちまっと飲んで、一瞬で口を離していた。
「えっと、●●大だよね? 私女子大の方で」
「ああ、うん。林田くんから聞いてるよ」
隣にいた女の子に話し掛けられたので視線を戻す。朗らかで優しそうで可愛い子だった。会話も上手に繋げてくれるし、がっついた感じもしない。少し話が盛り上がると、周りの人も話に入ってきてくれた。つられてお酒も進む。林田くんはありとあらゆる女の子から連絡先を聞き出せていた。この会は盛り上がり方で言うと、一見大成功のように思われる。
一角を除いては。
端っこに座っているトモをチラッと見た。
どこの輪にも入れず、ただお酒を飲みながら、俺をじっと見守っている。
誰とも話さず、全く楽しそうにせず、まるで無いものとされているかのようなトモは、ずっと俺だけを見ていた。
ゾクゾクして鳥肌が立った。
4
「グラス空だけど、何か飲む?」
「あー、ダメダメ、俺もう、結構酔っちゃったし」
「えー、大丈夫?」
飲み放題の時間が終わりかけの頃。俺の隣にいた女の子は俺のグラスを指した。最初にいた女の子とは違う。入れ替わり立ち替わりいろんな人がここに座ったので、俺は女の子全員と喋れた気がする。
「実は私もあんまりお酒強くなくて……よかったら外で一緒に涼まない?」
「あー……」
隣にいた子は俺の服の裾を軽く摘んだ。
おお……、これは……。したたかな人だ。経験値の高さを感じる。
なんと返そうか迷っていると、無理やり右腕を引っ張られて強制的に立ち上げられた。引っ張ったのが誰か見るまでもない。言わずもがな、トモだった。
「ごめん、こいつ酔うと面倒だから……みんなに迷惑掛ける前に帰すな」
「あ、ちょ、待ってよ」
トモに強引に引っ張られ、慌てて着いて行った。その場にいたみんなはぽかんとした顔をしていて、林田くんだけは苦虫を噛み潰したような表情でトモを見ていた。
「うー、頭ふわふわする」
「飲みすぎだバカ……」
俺を引き連れて店を出たトモは、俺の腕を自分の肩に回し、とぼとぼと歩いた。
俺を責めるように言うが、トモの足取りは重い。俺の腕の重みで今にも潰されそうだ。
トモの顔を見ると、虚ろな目をしながら顔を赤くしていた。
「だから、俺、いっつも、飲みすぎるなって言ってるのに」
「うん……」
一直線に歩けない足。いつもより出てくるのが遅い言葉。首や耳まで赤くなった皮膚。
本当にお酒が弱いのはトモの方だ。
俺がお酒弱いってのは、嘘でーす。
全部酔ったフリです。最初から最後まで、俺が二十歳になって初めてお酒を飲んだ時から今までずっと、ずーっと。
昔からこんなに一緒にいるのに、俺が酔った演技に気付けずすぐ信じるんだから。
「トモ、俺の部屋まで俺のこと送ってくれる?」
「……」
トモは無言で頷いた。誰がどう見ても、介抱されなければいけないのはトモの方だろう。
トモは千鳥足気味に歩き進めており、俺の足取りも覚束ない。トモが横にフラついたのを腕でぐっと受け止めた。どっちが支えてんだという話だ。
トモを支えてなんとかマンションに辿り着き、エレベーターに乗ると、トモは約束通り俺の階まで乗ってくれた。
俺を介抱しているつもりのトモは俺の部屋の合鍵を鞄から取り出してよたよたと鍵を開け、俺を部屋のベッドまで運んでくれた。酔っているので、ベッドに寝かせると言うよりは、俺をベッドに落とすくらいの乱雑さだった。
トモは今更自分の熱くなった顔を気にしたのか、顔を手のひらで覆い、俯いて呟いた。
「じゃ、俺帰る……」
「トモ、俺なんかしんどーい。熱あるかも……」
「え……」
「ね、どうしよ」
俺の言葉を聞き、トモはフラフラと俺の家の冷蔵庫まで向かい、その中から慣れた手つきで冷却シートを取り出した。そしてまた見ていて不安げな足取りで俺の方に向かって来る。
「も、これ何回目……」
うだうだ文句を垂れながら側まで来たトモの腕を捕まえて、そのままベッド押し倒した。握力が最低限に弱まったトモの手から冷却シートの袋が床に落ちて行く。
急な上下運動で更に酔が回ったのだろう。トモは押し倒されたベッドの上で俺を見上げ、声も出さずにただ呆然としていた。
「俺の看病しないの?」
「……。……あー、うん、ねつ、はかるぞ……」
「ん」
トモの腕が伸び、俺の額にトモの手のひらが重なった。少しひんやりとしていて気持ちがいい。
「んん……、熱、あんのか」
「あるよ、ね」
俺の額に伸ばしていた手を掴み、その手を俺の服の中に突っ込ませた。そして、腹や胸の辺りを無理やり撫でさせる。
トモは更に顔を赤くしながらたじろいでいた。
「自分の体と比べてみて」
素直に俺の言葉を聞き、トモはもう片方の手を自分の服の中に突っ込んで皮膚を触った。
「わ、かんない……俺の方があついかも……」
「えー?」
じゃ、失礼して……と、今度は俺がトモの服の中に手を入れてお腹を撫でると、トモはびくりと体を震えさせた。
「あ……」
「確かに、なるほど、熱いね」
そのままトモのお腹を撫で続ける。犬の腹を撫でる感覚だ。
ただ手のひらを上下させているだけなのに、トモは顔を真っ赤にしながら目の膜にじわじわと水分を溜めていった。
「せいた、」
あーーー。かわいーーー。
堪らなくなり、トモの唇に静かにキスをした。トモはそれを無抵抗に受け入れる。
これが初めてではない。
なんならシラフの時にキスは済ませている。
俺が体調を崩して寝込んでいるとき、看病をしてくれていたトモに「なんとなく、キスしてくれたら元気になる気がする……」と嘘をついてみると、うろたえながらもトモの方からしてくれた。
トモは俺に対してとにかくなんでもしてくれる。
俺に対して、箍を外してしまっている。
トモは自分がおかしくなっちゃったこと、きっと自覚できていない。
「んっ、ん、ぅ」
もう一度キスをすると、トモの方から自然と口を開けてくれたので、遠慮なく舌を差し込んだ。ねっとりと絡みつく粘膜が熱く、トモの匂いが色濃く鼻腔を掠め、腹の奥がふつふつと暴れ出しそうになる。
トモは鼻に抜けたような声を上げ、角度を変える合間合間に必死で呼吸をしていた。キスの仕方を教えてあげていないから、息継ぎが下手くそなままでいつまで経っても可愛い。
「ん、んっ……はぁっ」
口を離すと、重力に負けた唾液の糸がトモの口の中に落ちていき、トモはそれをごくりと飲み込んだ。
そして、はあはあと荒く呼吸をしながら、熱く湿った視線を俺に向けた。
「ね、熱……」
「ん、そうだね。俺熱かった?」
「……」
「口ん中だと分かりやすいよね」
舌を出して再度トモの口に近付けると、トモは目を細めてゆっくりと俺の舌を食んだ。興奮して俺の方が酔いそうになる。
優越感を抱かないはずがない。
あの人気者だったトモが、クラスの中心人物だったトモが、今は俺だけのトモになっている。
俺にしか靡かず、俺のことだけを考えて、俺だけを守ってくれる唯一の存在。
俺がトモに罪悪感を植え付けてしまったという負い目はあるけど、俺はその罪悪感を利用して過ごしている自覚がある。
「ふ……智己、必死すぎ」
「ん……」
貪るように俺に口付けするトモの口を離すと、自覚のなかったトモは恥ずかしそうに俯いた。キス好きなんだろうか。本当に可愛い。
俺は酒の匂いを纏ったトモをぎゅうぎゅうに抱きしめながら、何度も顔にキスを降らせた。
これ以上はしない。
ここまでのことはこれからもいっぱいするつもりだし、自分の特権だってたくさん使ってやるけど、付き合うとか、身体を繋げるとか、そういうのは、トモの方から言ってほしい。トモに絶対言わせたい。だって、今までも俺が何を言わなくてもトモは俺を選んでくれたし。
こんなに、全部俺のこと一番にしてくれるのに、なんでまだ俺のこと恋人にしようとしてくれないんだろ。
「も……、聖太、飲み会とか、合コンとか、あんま行くなよ……」
「うん、分かった」
俺のキス攻撃を宥めるように、トモは俺の頭をよしよしと撫で、限界だったらしいトモは眠りについた。俺はトモの寝顔を見てもう一度強く抱き締め、体温と鼓動を感じながら目を瞑った。
翌朝。
冷房の効いた部屋で布団もかけずに眠ったせいで、俺はちゃんと発熱してしまい、一方で二日酔いもなく通常通りピンピンだったトモは、一日中献身的に俺を看病してくれたのだった。
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