じゃあ、可愛くなろっと

1

 俺、タナカオウカの目の前でイケメンが頭を下げ、誠心誠意謝っている。


「ごめん、許されることじゃないと思うけど、謝らせてほしい」


 45度の角度で、最早美しさを感じさせるお辞儀をしているのは、マナカショウくん。


 俺の友達で、俺がストーカーしていた思い人の幼馴染で、そして俺の事をストーカーしていた人だ。なんだこの説明文は。


 俺の思い人であるミサオくんへのストーカー行為を辞めた途端、逆に俺がストーカー被害に合ってしまった。それをショウくん相談した結果、安全のためショウくんと一緒にいる事を提案されたが、まさかその本人が俺のストーカーだとは思いもしなかった。

 そのネタバラシをされた時、ショックやら恐怖やらなんやらで、ショウくんを突き飛ばしてショウくんから逃げてしまった。


 そして今、久しぶりに再開して、その謝罪を受けている。ずっと45度の角度をキープしている。しんどそうだ。


「……頭上げてよ」

「……」

「俺、本当に怖かったんだから。……まあ、俺もどうやらミサオくんのストーカーだったらしいし、人の事言えないんだけど」

「正真正銘ストーカーだったでしょ」

「うるさいな!口を挟まない!けど、もういいよ」

「え?」

「謝ってくれたし……。普通の、友達に戻ってくれるなら許す」


 ショウくんは口を開けてポカンとしている。


「……オウカくんって本当……。いや、いいや。うん、ごめん。今まで通り、普通の友達になろう」

「ん。それならいいよ。もう怖い事絶対しないでよ」

「うん……。分かった」


 ショウくんは顔を綻ばせた。イケメンの笑顔は心臓に悪いな。

 すると、ショウくんはさっきまでの謝罪モードの態度は何処へやら、またいつもの飄々とした顔になって俺の手を掴んだ。


「仲直りできたし!じゃ、遊び行こ」

「え?なんで?」

「俺、オウカくんに絶交された〜って思ってから、本当にずっと元気なくて、ご飯も食べられなくて、家にひきこもってたの。だから、今すっごい嬉しくてさ!遊びに付き合ってよ」

「え〜……めっちゃ自己中じゃん」

「いいでしょ。駄目?」


 ショウくんはこてん、と頭を傾けて、俺に聞いてきた。めちゃくちゃあざといな!顔がいい。


「んー、まあいっか。あ、変な事しないでよ!!」

「うん、大丈夫だよ。もうオウカくんに嫌われたくないし」

「……うん」


 深堀すると変な話になりそうだったので、あえて聞かなかったけれど、なんでショウくんは俺の事なんか好きになったのだろう。不思議すぎる。


 まあ、もう普通の友達に戻ってくれるって言ってるし、なんでもいっか。





2

 俺はショウくんに連れられて、少し……いや、とても高そうなイタリアンのお店に入ることになった。


「や、ショウくん。俺はこんなお食事代、払えないですが」


 だって、いつも俺が食べてるご飯の3倍はする。


「いいよ。俺が払うし」

「ええ」

「知らなかった?俺の家、金持ちなの」

「どうりでショウくんちのマンション、豪華だと思ったよ……」

「謝罪も兼ねてるんだしさ、俺に奢られてよ」

「え〜?そこまで言うならさあ……ご馳走様です!」

「はは、ゲンキンな男〜」


 こんな所でご飯食べるなんて、そうそう無い。俺はショウくんに甘えてご飯をご馳走様してもらうことにした。


「んっ!ピザ!凄い!めっちゃ美味しい!!」

「急がなくても取ったりしないよ」

「だって!美味しいよコレ!見て、すげーチーズ伸びる!」

「ふふ、本当だね」

「……ショウくんも食べなよ」

「ちゃんと食べてるよ」


 微笑みながらショウくんがこちらを見ている。見れば見るほどイケメンだな。ちょっとガラの悪そうな顔をしてるのに、とても優しいのでこれは女の子にも好かれるだろう。


「あ、ソースついてるよ」

「どこ?」

「取ったげる。……はい」


 俺の口元についたソースをショウくんが指で拭い、ペロリと舐めた。


「……え、なんで舐めたの」

「え?普通じゃない?」

「普通なの?コレ」

「うん。そんな意識しなくてもいいよ」

「そっ……かぁ。なんかゴメン」


 そうなのか。もしかしたらショウくんのお友達間ではこれが普通なのかもしれない。

 いろいろあってショウくんの事を警戒していたけど、警戒しすぎだったのかも。


 ショウくんへ向ける目を改め、俺はまたご飯を食べ進めた。


「本当チョロ……」

「ん?なんか言った?」

「いや、何でも」


 ショウくんも止めていた手を動かして、食べ始めた。


「この後どこ行くの?」

「オウカくん、映画好きだよね」

「うん。映画見に行く?」

「実はさ、じゃん!」

「……え!!これ!!」


 そう言ってショウくんが出してきたのは、映画のチケットだった。


「これー!!俺が好きでずっと追ってるシリーズの新作じゃん!しかも4DX!?」

「そうそう。まだ見てなかった?」

「見てなかった!!」

「よかった。これ見に行こうよ」


 チケットも用意されているということは、映画もタダで見れるということだ。めちゃくちゃ嬉しい。金持ちのイケメンはやっぱり違うな。


 俺達は食事を済ませ、それはもうルンルン気分で映画館に向った。





3

「はい、これオウカくんの分ね」

「ありがとう、まさかポップコーンとジュースまで奢ってくれるなんて……」

「いいのいいの。俺が好きでやってるんだし」


 映画館に着いて、ショウくんはポップコーンとジュースも奢ってくれた。なんと、俺は今日一日一銭も出していない。


 指定された数字のシアターに向かい、座席に座った。

 今回見た映画はシリーズもののアクション映画で、スピード感のあるアクションシーンが最高に気持ちいい作品だ。

 物語も終盤になり、黒幕が主人公のかつての相棒だということが判明し、手に汗握った。


『お前の相棒は俺しかいないはずだろ!?』


 その人物が顔を悲痛そうに歪めながら叫んだ。思わず俺も拳を握ってしまった。すると、


(……え)


 俺の手の上に、ショウくんの手が重なった。

 え、なんで?

 俺の手の動きを鎮めたかった?

 ショウくんもこのしんどいシーンが耐えられなくなって俺に助けを求めた?


 思わずショウくんの顔を見たが、何ともないような顔で映画を見続けていた。


 何も分からなかったが、取り敢えずこの手を振り解こうと思い、自分の手を動かした。

 けれども、全く動かなかった。なんて力の強さだ。

 動かないので、諦めてこのまま放置することにした。


 なんとなく映画に集中できず、ショウくんの事を考えてしまう。

 そういえば、前もショウくんと映画見に行ったよな、と思い、その時の事を思い出していた。


 ラブストーリーのような、スリラーのような作品で、最終的に主人公が好きな人を殺してしまう話。

 何故好きだったのにもかかわらずその人を殺してしまったのか、その主人公の思考が分からず、俺はショウくんにその事をポロッと溢した。ショウくんはその主人公の事を解釈して話してくれた。

 

『好きすぎて、じゃない?』

『好きすぎて……』

『うん。自分のものにならないのなら、いっそ自分の手で殺して、永遠にしたかった』

『んん……。なんでそんな事するの』

『ははは、オウカくんには難しかったかな?』

『うるさいな。逆になんでショウくんは理解できんの』

『うーん……。好きな人を殺したくなる気持ち、俺はちょっと分かる』

『え……』

『……なーんてね。殺したりはしないけど』


 この後に、あんな事が。

 今思うとゾッとするな。

 俺は動かせない手に汗をかきながら、意識を映画に向けることにした。

 いつの間にかもうエンドロールに差し掛かっていた。




「なかなか面白かったね。俺4DXって初めてだった」

「あ、あのさ……」

「ん?何?」

「あの、なんで、手、俺の手の上に置いてたの?」

「だって、手置きたかったもん。そしたらオウカくんが手すり使ってるし」

「う……ごめん。でも、だからって上に置くのおかしくない!?」

「え?普通じゃない?」

「普通!?これも普通なの!?」

「うん。俺の周りじゃよくやるけど」

「……ほ、ほ〜〜〜ん、そうなんだ……」


 そうなのか。やっぱり俺がまた意識しすぎたのか?

 だとしたら、ここまで過剰にショウくんの行動に反応してしまって、流石に申し訳無い。もうあれやこれやと考えるのは辞めよう。


「オウカくん、まだ時間大丈夫?」

「うん。今日は一日予定ないよ」

「俺の家にさ、実家から送られてきた美味しいお酒たくさんあるんだ。オウカくんもう20歳なったでしょ?飲みに来る?」

「えっ……!?いいの!?」

「うん。一人じゃ飲みきれないしさ、よかったら来てよ」

「やったー!!お邪魔します!!」


 この後、俺達はショウくんの家で家飲みをすることになった。

 最近20歳になってお酒が解禁されたので、お酒にはとても興味があった。凄く楽しみだ。




 そして、俺はもうすっかりショウくんの事を安心安全な人物だと思ってしまっていた。





4

「んへはははははは、……ハッハッハッ!!」

「オウカくん酒弱〜、秒じゃん」


 俺はショウくんに作ってもらった、名前もよく分からないカクテルを数杯飲んで、完全に酔っ払ってしまった。


「な〜んでこんな美味しいの作れんのォ!?イケメンなのにカクテルも作れるの!?ずるいよ〜ずるい〜!!どーせ女の子はこうやって落としてるんでしょ!?もっと作って〜!!」

「ハハッ!いいよ、もっと美味しいやつ作ってあげる」

「んん〜……。美味しいじゃんこえ!ふへへへへ、たのひいね!おさけさいこぉ〜!」

「そう?よかった」


 俺はカクテルを飲み干して、ゴロンと横になった。もうだいぶ滑舌も危うい。

 なんだか全ての物事が愉快に感じてしまう。


「ふ、あははは、なんれショウくん、はは、こんなひろ〜い部屋にひとりですんでんの」

「親が金持ちだからだよ」

「それもずるいよぉ〜……ショウくん、ぜんぶもってるぅ」

「そりゃどーも。でもさ、やっぱりこんなに広いのに一人だと時々寂しいんだよ」

「え〜?そっかぁ。んふふ、ショウくんみたいにイケメンでもさみしくなるの?」

「寂しいよ?ね、オウカくんが慰めてくれない?」

「んん、いいよぉ。なにする?よしよしする?」

「ふ、よしよししてくれるの?」

「うん!よしよ〜〜〜し」


 俺はショウくんの正面に回って座り、ショウくんの頭を動物にする時のように、わしゃわしゃっと撫で回した。


「さみしいね〜。でもだいじょぶ!おれがいるよぉ」

「……本当?」

「うんっ!」


 するとショウくんは俺にぎゅっと抱きついてきた。


 俺に謝るまで、この部屋にひきこもってずっと反省していたのだろう。それは寂しくなる気持ちも分かる。

 俺は撫でる手の速度を落とし、一生懸命ショウくんを慰めた。


 すると、背中に違和感を感じた。

 ショウくんの手が服の中に入ってきて、俺の背中を直接触っている。


「んいっ」

「ね、オウカくん。もっと慰めてよ」

「ど、どやって」

「俺もオウカくんの事撫でさせて」


 ショウくんは、俺の背中を撫で始めた。


「ひひっ、くすぐったいよぉ」

「くすぐったい?そのうち気持ちよくなってくるよ」

「んええ……?」


 気持ちいい?くすぐったいのに気持ちよくなるんだろうか。

 暫くショウくんは撫で続けていたが、最初は背中の中心だけだった往復が、だんだん尾てい骨まで下がり、肩甲骨の上まで上がるようになっていった。


「……ふ、ぅ」

「……気持ちよくなってきた?」

「ん、ん、わかんない……」


 だんだんくすぐったいという感覚から、ゾワゾワとするよく分からない感覚になってきた。

 特に……。


「ううっ、うっ」

「尾てい骨弱いのかな?ここ撫でるとピクピクするね」

「!!ぅあっ、や、やだ、そこ」


 ショウくんが尾てい骨を重点的に撫でてきた。何故か体が震えるのが止まらず、変な声も出てしまう。


「ンッ、し、ショウくん、んぁっ、ん、やめて、やめてっ」

「じゃあ、ここは?」

「え、え?」


 ショウくんの手は俺の正面に回り、胸を弄り出した。

 え、こんなとこ、なんで触るの?


「ショウくん、ショウくんっ、ん、おかしいよ、これ」

「なんで?」

「だって、だって……こういうのは、ともだちやらない」


 俺はだんだん酔いが冷めてきて、少し冷静な頭になってショウくんに抗議した。


「え?普通じゃない?」

「ふつうなのぉ!?!?」

「うん。大学生は、男友達どうしでもこういうことするよ。知らないの?」

「え、え、ほんと?」

「うん。本当だよ。オウカくん、世間知らずだね。ちゃんと流行に乗らなきゃ」

「えぇ……そうなのぉ?」

「オウカくん。はい、お酒飲んで飲んで」

「う、ぷ、ン」


 そう言ってショウくんは片手を俺の服から抜き、近くに置いてあった飲みかけのお酒を俺に無理やり飲ませてきた。


 さっきまでショウくんが飲んでいたお酒なんだろう。かなりアルコール度数が強い物なのか、俺はいっきに頭がグラグラしだした。


「ふ、は、はァ、」

「オウカくんには強かったかな?まあいっか。こういうのは前後不覚になった方が楽しめるよ」

「う、ひ、」


 ショウくんはまた手の動きを再開して、俺の胸を触り始めた。

 すりすり、と中心を避け、優しく撫で回している。


「ふ、ふ、ふぅ……そえ、へんん……」

「変?」

「ん……」


 男だから何も感じないはずなのに、ショウくんの触り方が絶妙なせいか、むずむずとした違和感を感じる。それを続けられたら、だんだん感覚がそこに集中してきて、敏感になってきた。


「もっ、もういいっ、やめてっ、そこ、いらないっ」

「そ?じゃあこっちにする?」

「!っん、……ん、ンぅ、あ、やぁ」


 ショウくんが指を移動させ、胸の中心を擦り始めた。おい、おい、それこそ完全に男は感じないはずだぞ、何が楽しいんだ。


 と、思っていたけれど、優しく撫で続けられると、妙な感覚になってくる。さっきみたいに、むずむずとしているが、さっきよりもその感じ方が大きい。だんだん呼吸も浅くなってくる。


「ふっ、ふっ、やっ、ア、ァぁ、へ、へん、へんっ」

「んふふ、これも変になってきた?嫌?」

「うんっ、いや、やめてっ、んっ、ン……っ!?ンァッ!あっ、アッ!それっやめて」

「いっぱいすりすりされた後だと気持ちいいでしょ?」


 それまで優しく撫でていたのに、いきなり爪を立ててカリカリと擦り出した。神経が集中してしまったので、今の俺にはその感覚は強すぎた。


「アッ、ふっ、ぅあっ!ぁ、やらっ……やめてよぉ」

「そんなに嫌?ごめんね」


 そう言って、ショウくんはひたすら弄っていた手をパッと離した。

 手を止めてくれたのはよかったが、止まったら止まったで行き場のない快感がぐるぐると身体の内側を巡った。


「ふぅっ、んっ、ひ、ひどいぃ……へんなことしないってゆったあ……」

「変な事じゃないもん。俺の事慰めてくれるんでしょ?」

「うあっ」


 今までカーペットの上に座っていたけれど、ショウくんが俺の体を押し倒してきた。

 え?この体制ってまずいのではないか?と、酔ってまともに思考できない頭でぐるぐると考えた。

 俺はショウくんの腕の中から抜けようと、力の限りショウくんの腕を掴んで剥がそうとしたが、ピクリとも動かなかった。


「オウカくん、俺より小さいし酔ってるから絶対抜け出せないと思うよ」

「……えっ、あっ、まって……」


 ショウくんがスルッと自然に俺の衣服を脱がしてきた。精一杯抵抗したが、何も成果は出なかった。

 くそ、酔うとこんなに力って出ないのか。抵抗して頭を動かしたせいか、さっきより余計視界がグラグラする。

 そして、あっという間に俺は丸裸にされてしまった。こんな貧相な体を見せるのが恥ずかしすぎて、情けなさ過ぎて、横になって丸まり、胎児のようなポーズを取って体を隠そうとした。


「そんな隠されると余計暴きたくなるよ」

「えっ、や、ちょっ……と、まってよぉ!」


 ショウくんの馬鹿力で体を仰向けに押さえつけられ、ついでに両手も体の上で纏め上げられ、隠せる術が何も無くなってしまった。俺は訳も分からなくなって、涙を流してしまった。


「うっ……うっ、なんれ、こんなことするの……、おれ、ミ、ミサオくんにかおむけできないよ……」

「でも付き合ってないんでしょ?」

「……ほ?」


 ……え?俺とミサオくんって付き合ってないの?

 

 と思ったけれど、よくよく考えればお互い好きって言い合ったし、やることもやったけど(ほぼ無理矢理)、そういえば付き合ってと言われた覚えも、俺が言った覚えも無い。


 じゃあ、俺とミサオくんはどういう関係?

 ただの友達?


 酔が回った頭でぐるぐる考えても答えは出なかった。


「おれ、つきあってなかった……」

「でしょ?それに、ミサオはこういう事たくさんする子の方が好きって言ってたよ」

「え、」

「だから、今のうちにいっぱい経験した方がいいんじゃない?」

「……ほんと?」

「本当本当。流石にこの先は同意の上じゃないと俺も気が引けるからなぁ。どうする?続ける?」


 ショウくんが俺をじっと見つめて、俺の答えを待っている。

 いつもの、飄々とした顔だ。


 俺は……ミサオくんが好きだから、ミサオくんのためならなんでもできるから……。


「……つ、つづける」

「……あは、じゃあもっとやろっか。痛かったら言ってね」

「わか、った……ぅアッ!?まっ、まって、そこっ……」

「人の手って気持ちいいよね」


 ショウくんが俺の中心を、それはもう優しく扱いてきた。しかもどこから持ち出してきたか分からない、ローションでベタベタになった手で。

 ヤバイ、これならまだ強くやってくれる方がマシだ。どうにもできない熱が俺の脳をおかしくさせる。


「く、ぅう、〜〜〜〜〜ッ、あ"、ハ"ァ、んンン〜〜〜っ♡も、もっ、それっ!やだ!やだぁ!!ンッ、ぅアッ」

「ゆっくりやるのたまんないでしょ」

「ふぅう"ぅ"ぅ"ぅ"ッ〜〜〜〜〜ッ♡」


 確実にいいところを攻め立ててるのに、決定的な快感は与えてくれない。いつまでこの快感が続くか分からず、俺は泣いてショウくんに縋った。


「ウッ、あ"っ、ン"ン〜〜〜ッッ、ふぅ、いやだ、いや、これ、い、い"かせて、ふゥ"、いかせて、ショウくんっ……ン"アアッ♡」

「はぁ、可愛いね、オウカくん。一人でやってるの盗聴した時の、何倍も可愛いね。イかせてほしい?」

「うん、うんっ、♡ん"、ハァ、ふぅぅっ、イかせてほしっ」

「じゃあ強くするね」

「ん、ん、っ、ぅ……あ"あ"あ"ぁァァっ!?アッ!!ア"ッ!」


 ショウくんはぎゅっと俺のものを握りしめ、さっきよりも強く上下に動かした。


「ん"ヒィッ!!う"や"あアアァァッ♡むい、むり、イ"く、イッ、くぅ"ぅっ、」

「イきそ?このままイきたい?」

「ん"っ!♡ンッ♡」


 俺は必死に頷いた。

 ショウくんはもっと早く手を動かして、そして俺はもうずっと待ち望んだ快感を迎え__


「……はい、やめた♡」

「〜〜〜〜〜っア"ア"♡ン"ゥ"ッ……ぅ……、あ……、あ、ふぅ、う、ッ……な、なんで、なんでぇ、ふ、う、」


 迎えられなかった。

 ショウくんは、俺をイかせることなく、動かしていた手をパッと離した。

 それが辛すぎて辛すぎて、またボロボロと泣いてしまった。


「最初のうちはね、射精する前に入れたほうが楽らしいよ」

「は、は、ぁ、う、も、もう、はやく、はやく」

「……あー、いいね。本当に可愛いね、オウカくん」


 もう何でもいいから、早くこのぐるぐると内側を巡ってどうにもできない快感から解き放たれたい。

 ショウくんは俺をギラギラとした目で見つめている。

 ローションを手に取り、俺の後孔に指を当ててすりっ、と優しく撫でてきた。


「ぅ、あ、ァ……?」

「ふはっ、もう気持ちいの?敏感なんだ」

「わ、わかんない、もう、いいから、はやくしてっ」

「うん、わかった。……指入れるから、ここ、ちょっと力入れて……」

「ンッ、こ、こう?……ん、あッ」

「そうそう、上手だね。動かしてもいい?」

「い、いいよ……」


 そう言うとショウくんはにこっと笑って、俺の中に入ってきた指をゆっくりと動かし始めた。


「……ふ、……ぅ……ンッ」

「痛くない?」

「うん……。へん、へんなかんじする……」

「最初はね。多分オウカくん素質あるし、後から気持ちよくなるよ。まだ我慢してね」

「わ、わかっ、た」


 一定のスピードで指が出たり入ったりしている。むずむずとした感覚だけれど、まだ痛くも苦しくもない。これが本当に気持ちよくなるのだろうか。


「慣れてきたかな。指、増やしてもいい?」

「う、ン。……ふ、いいよ……」

「ありがとう。……さっきより苦しいかも」

「ん、んんっ……う"っ、あ、……ふぅぅ」

「痛い?」

「い、いたくない、けどぉ……、ふ、くるしっ」

「ごめんね。ちょっとだけ我慢してね。」

「ン……」


 そう言って、ショウくんは空いている手で俺の頭を撫でてきた。ショウくんの手は大きくて温かくて、少しだけ安心した。


 括約筋を慣らすように動いているショウくんの指はまた増えて、今は3本俺の中に入っている。

 いつまでこの作業は続くんだろう、と思い始めた時だった。


「……ゥ、あ、アッ?ん、なに、あっ、ここ?」

「前立腺。男の子が気持ちよくなれるとこだよ。感じてきた?」

「あ、あ、あ、きもち?、の、これっ……んっ」

「気持ちいいんだよ」


 ショウくんの指が直腸の謎の部分を掠め、一定の間隔でぐぐっと押し込んできた。押されるたびにぞわっとした何かが、お腹から足先に巡った。


「偉いね。気持いいね、オウカくん。ほら、だんだん、もっと気持ちよくなってくるよ」

「ゥ、アァ、あ、あっ……ん、あ、ァ……」


 ショウくんは俺の耳元に顔を近づけて囁いた。この感覚が何か分からなかったが、気持いい気持いいと刷り込まれるたびに、本当に気持いいものなんだと思えてしまった。


「慣れてきたかな?ちょっと強くするよ」

「あ、あ、__ぁあ" ア"ァ"っ!?あ"ッ!〜〜〜ッッ!!ふ、ヒ、ぃッ、は、あ"あァァ!ア"アッ♡」


 一点を押し込める指がさらに強くなり、その感覚も早くなった。もう気持ちのいいものと教え込まれた脳はバカみたいに、"気持いい"としか考えられなくなった。


 ヤバイ。このままだと、俺の体がおかしくなってしまう。


「ンぁあ"あァア"ア"ッッ!!や"あ"っ、こ、こ、こえ"っ、う"うぅッ!ん"アッ!アッ!」

「うんうん、気持ちいいよね。気持ちよくてたまらないね。いっぱい気持ちよくなれて嬉しいね。ね、オウカくん」

「〜〜〜ッ♡ぁはァ"っ、はァ"っ、う、うん"っ、うんっ」


 そんなに、気持いいって、連呼しないでほしい。 

 脳みそがなんだかおかしい。

 気持いいと言われるたびに、その言葉だけで快感が増えてしまう感じがする。


「そうだよね。俺も気持ちよくなりたいなあ。……入れてもいい?オウカくんも、もっと気持ちよくなれるよ」 

「も、ぉ、もっと、?」

「うん。もっと気持ちよくなりたいよね?」

「ハ、あ、あ"ッ"」

「ね、気持ちよくなりたいでしょ?」

「あ"うううぅ"ぅ"ゥ"ゥ"っっ♡」

「気持ちよくなりたい、って言って?」


 ショウくんがその一点を2本の指でギュッと挟み込んできた。


 こんなに長い時間攻められているのに、俺はまだ1回もイけていない。こんなの拷問だ。


 気持ちよくなりたいと言ったら、この熱から解放されるのだろうか。

 もっと気持ちよくなれたら、ミサオくんも喜んでくれるのだろうか。


「〜〜〜〜〜ッ♡なる、う、なりたい、ふぅ"、ア"ッ、きもちく、なりたいぃッ♡」

「ン、わかった♡ちゃんと言えたね」


 ショウくんは俺の中からズルっと指を抜き、自分のジーンズを脱ぎ出した。そして下着を下ろして、……ここから先は恥ずかしくて視線を逸らしてしまった。


 まだ快感が抜け切らず、息を整えていると俺の後孔にぴとっ、と熱い何かが宛てがわれるのが分かった。見なくてもなんとなく何か分かってしまった。


「入れるね。……もっかい、力入れて……」

「ふ、ゥ、ぅ、ん、……ン"ン"、んあ"、あ、あ、あ、あ、」

「……は、ァ、あ、ふ、入った……大丈夫?痛くない?」

「ん、ん、だいじょぶ、ふぅ、ゥ、ゥ」

「……はぁ、ッ、あ〜〜、」

「!?ぅ、ぐえっ」


 ショウくんは自身の上体を俺に被せて、ギュッと抱きしめてきた。苦しい。


「はァ〜〜〜〜〜ッ、オウカくん、オウカくん……。ヤバイ、はぁ、好き、すき、すき……」

「っあ、え、」

「なんで、なんで、ミサオなの……。あんな腹黒より、俺のになればいいのに……俺の方が、オウカくんのこと、好きだよ……」

「……」


 抱きしめる力が強くなった。

 ショウくんは今、どんな顔をしているのだろう。


 俺は、それに何も答えられなかった。


「あったかいね、オウカくんの中。……動いてもいい?」

「……ん、うん……」


 駄目だ。あんな事言われたら、何も嫌だって言えない。本当にズルい人だ。


 ショウくんは上体を起こし、俺の腰をぐっと持ち上げて、動き出した。


「__ッ、ゥ、あ、あ"あアアッ!、んあっ!あっ!ア"アッ!」

「ハッ、ハッ、オウカくん、オウカくんっ♡」

「ン、あ"あ"あ"ッ!?ぅ、ひぃっ!?そ、こ、ぉ、ああ、あ"あ"ア"ア"ア"ッ〜〜〜!!♡」


 ショウくんの熱が、さっきの俺を狂わせた一点をゴリゴリっと何回も押してきた。

 それだけではなく、指では届かなかった奥の奥まで行き来する。腸液も手伝ってかズルズルと押し込まれるそこは、ショウくんの熱が動くたび、脳にバチバチっと電撃が走る感じがした。


「ひっ、ひっ、は、あ"あ"あ"、ア"、アア、ア"ッ、や、や、や、ぅぅ、う"、くる、くる、ショウくん、ショウくん、やだ、これ"ぇ"っ"♡」

「ふ、ハ、ァ♡ん?イく?、はぁ、おれも、イきそ……。ちょっと、激しくする、ね」

「!?っ、は、ア"ア"ア"ア"ア"っっ!!ア"!!ア"ッ"」


 もう今の快感でもギブアップしたいのに、ショウくんがさらにガツガツと俺のいいところを力強く突いてきた。もう、こんなことをされたら、どうにかなってしまう。


「も"っ、む"り"っ!いく、い"く"、う"うぅっ♡」

「んっ、♡おれもっ……」

「ん"ア"ア"、んん、ん"ぅっ、で、でう、う、ぅ"、ぅ"、ぅ"……、ゥう"う"う"!!……〜〜〜〜〜ッッ!!……ん、はァ、ふ、ハァ、ハァ……ア……」


 お腹の中が熱くなるのを感じた。

 俺は、前を触ることなく果ててしまった。

 精液がどくどくと音をたてて竿を伝っていった。


「ハァーっ、ハァーっ、ん、んっ♡はっ、はっ」

「はーーーっ、はぁ、はぁ、」


 ショウくんのものがズルリと俺の中から出ていった。


 あ……ゴムしてるんだ……。


 ショウくん、俺のストーカーのくせに、そういうとこはちゃんとしてるんだ……。


「ふ、はぁ、あ、」

「オウカくん……」


 お互い、だいぶ息を整えられたか、という時だった。


 ショウくんが俺の頬に手を添えて、顔を近づけてきた。

 まるで何かを慈しむみたいな顔だった。


 ショウくんのキレイな顔が近づいてきて、

 そして__


「……っはぁ、あぶな……」

「……ふ、え、?」


 鼻と鼻が掠めるくらいの所でピタッと止まった。

 心臓がどくどくと鳴っている。


「はは、さすがにこれは好きどうしじゃないと嫌だよね」

「あ……」


 俺は前、ミサオくんとキスをした。好きどうしだったから、ミサオくんにいいよって言って、キスしてもらった。

 そう、キスは、好きな人と。


「……」

「ふ、ごめんね。そんな顔しないでよ。体、キレイにしてあげる。立てる?」

「……あれ、た、立てない……」

「お風呂まで運ぶよ。シャワー浴びよっか」





5

 俺はショウくんに運んでもらって、お風呂でショウくんに体を洗ってもらった。

 そしてわざわざ沸かしてもらったひろ〜い湯船に、今ショウくんと一緒に浸かっている。ショウくんの脚の間に俺が入り、ショウくんに体を預けている。なんで?


 ……これって、本当に友達どうしでやることか?


「ショウくん」

「んー?」

「……やっと気付いたんだけど」

「なにー?」

「俺、絶対流されてるよね、いろんな事に」

「今更?」

「今更って……、え、騙してたのォ!?」

「本当にチョロいよね〜、オウカくん」

「あうううぅぅぅ……、俺は、なんて事を……。ミサオくぅん……」


 え、じゃあミサオくんが性的なことに経験豊富な人が好きってのも、嘘?え、マジで?


「俺はなんのために体を張ったんだ……」

「……てか、なんでそこまでミサオの事好きなの?」

「……だって、世界一可愛いもん」

「ふーん……。俺も可愛いよ?」

「や、ショウくんは別に可愛いとかじゃないじゃん。比べられないよ」

「そう?でも顔いいじゃん、俺。可愛くもなれるよ」

「可愛くなれる……?」

「オウカくん、体こっちに向けられる?」


 可愛くなれるとは……?

 ショウくんの指示で、俺は体を動かしてショウくんと向き合う形になった。


「オウカくん、片手出して。手のひらを上に向ける感じで」

「……?こう?」

「そうそう」


 すると、ショウくんがぽふっと顎を俺の手のひらに乗せてきた。

 目は俺の方を向いていて、上目遣いになっている。


 これは……!


「……!!これ、実家で飼ってた犬もやってたよ!?可愛い!!ショウくん、可愛いかも!!」

「でしょでしょ?もっと可愛がってもいいよ」

「わ〜!可愛い!よ〜しよしよし……いや、そうじゃない!まあ可愛いけども!!」


 俺は手を離し、勢い良く首を横に振った。


「はは、オウカくん、本当に面白いよね。……もしも俺がこれからどんどん可愛くなっていったらどうする?」

「え?」

「ミサオに負けないくらい可愛くなったら、どうする」

「……う〜ん」


 ミサオくんに負けないくらい可愛い?

 多分それはありえない話だとは思うが、少しだけ考えてみる。

 確かに、さっきのきゅるきゅるとした、まるでご飯を待っているかのような上目遣いの顔はとても可愛かった。

 あれくらいのレベルの可愛さが連発されるとなると……。


「う〜ん……。わかんないけど、ファンになっちゃうかも」

「ファンかぁ……。フフ、まあいっか。じゃ、キャラチェンしよ」

「え?そんな簡単に……」


 ショウくんは俺を見てニコッと笑った。

 ……少しだけ、可愛いかもしれない。

 

 こうして、ショウくんの可愛いキャラチェンジ大作戦が幕を開けたのである。


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