もしも一宮くんの幼馴染があの4人ではなく、千田くんだったら①


⚠注意⚠

こちらは、「もしも一宮くんの幼馴染があの4人ではなく、千田くんだったら」というパラレルワールドの話です。高校1年生です。世界線が違うので、彼らの性格や言葉遣いも少し違います。解釈違いだ!という方は見ないでくださいね!

※サクッと読める話なので、本編のような盛り上がりはありません。






1

「なんていうかさ、ほら、まもるももうちょっとこっち側に寄れば? 楽しいよ」

「は?」


 そう言って、俺の唯一の幼馴染である千田環(めぐる)は同じような外見の仲間たちに連れ去られて遠くへ行ってしまった。


 俺は暫くその言葉の意味を考えていたが、馬鹿な頭なりに噛み砕いて理解した途端、猛烈な怒りに襲われた。

 あれは恐らく、皮肉みたいなもんだろう。いつまで経ってもめぐるのグループのようなノリについていけない俺への。


 だって俺は、めぐるの好きなスケートボードもパルクールもライブもSNSも何一つだって楽しいと思えない。





2

 多分、中学卒業ギリギリくらいまでは、めぐると遊ぶ事を楽しいと思えていた気がする。ただ、中学生ともなると幼馴染であるめぐると俺との違いをハッキリ感じるようになっていた。顔、性格、成績、人望。どれをとってもめぐるに勝てる事なんて一つも無かった。

 それでも俺はこの輝かしい幼馴染の事が好きなので、俺自身は普通に一緒にいられるだけで充分だった。

 まあ、それも高校に入るまでだったけど。


(なんだよ! 馬鹿にしやがって!!)


 俺はイライラしながらひとり寂しく家に帰った。


 放課後、本当はめぐると二人で遊ぶつもりだった。が、めぐるは高校に入ってかなりイケイケなお友達がたくさんできたようで、最近はその人たちとよく遊んでいる。今日もその人たちとどこか遊びに出かけてしまった。

 何回か一緒に混じって遊ばせてもらったけど、なにもついていけなかった。体動かす系の遊びはポンコツすぎてみんなに笑われたし、一緒に行ったバンドのライブだって揉みくちゃにされてヘロヘロになって帰った。でもめぐるはこれ以上ないくらい楽しそうにしていた。


 そう、めぐると俺は明らかに住む世界が違うのである。

 多分めぐるはもう俺と部屋に篭ってゲームとか川遊びとか森探検とか一緒にやってくれない。そりゃそうだ。だって、めぐるは今時のイケイケな男だから。


「あーあ、せっかく新作入ったのになあ……」


 思わず独り言も言っちゃう。

 新作。クレーンゲーム専用の、俺が大好きなアニメキャラのぬいぐるみだ。うさぎのような、猫のようなよく分からない宇宙人のキャラクター。一時期だけ、めぐるもハマってくれていたアニメだ。


 俺はクレーンゲームが好きだけど下手なので、お目当てのものがある時は大体めぐるに取って貰っていた。自分で取れよ、と言いつつも、なんだかんだいっつも数ターンで取ってくれるのだ。めぐるはクレーンゲームが上手だ。でも、俺とのクレーンゲームはめぐるの友達に負けてしまった。


 もうちょっとこっち側に寄れば、か。


 めぐるも頑張って俺と歩調を合わせてくれていたけど、やっぱりもう「違う」って感じてるんだろうな。

 頑張ってみたけど俺はめぐるに合わせられなかったし、めぐるも俺に合わせられなかった。俺達はもうみんなと仲良くしましょうが実現できる年齢じゃないし、これは仕方の無い事なのだろう。


 仕方ない、と諦めつつも、俺はモヤモヤとした気持ちを抱えたまま眠りについた。





3

「まもる、怒っちゃった?」

「怒っちゃったよ。でも俺は心が広いのですぐ許しました」

「素敵〜。また埋め合わせするからさ」

「ん、ゲーセンね」

「また? 好きだね」


 次の日の朝、俺との予定を破っためぐるはへらへらっとしながら謝ってきた。高校生になって何回目だろう。最初は俺もいちいち怒って詰め寄ったが、いい加減諦めモードに入ってしまった。


「今日の放課後は? 空いてる?」

「んー、今日はカラオケ行く。まもるも一緒に来る?」

「……や、いい」


 俺の歌声をあの軍団に聴かせるという事か、死んでも嫌だ。また「一生懸命だね〜!」って馬鹿にされる。一生懸命、って場合によっては辱めの言葉でしかないからな。


「どこから毎日遊べるような金出てくんの?」

「お小遣いだけど」

「裕福……!」


 ますますついていけない。俺は必要に駆られた時のみ、母親から必要額だけ貰っている。ゲーセンで遊ぶ時は、貯金したお年玉から少しずつ崩している。

 俺ははあ、と溜息をついてめぐるの左頬を抓った。なんかムカついたのだ。


「いたたたた!!」

「めぐるのバカ、一軍陽キャめ、痛い目見ろ」

「今痛い目見てるよ!」


 最後に1度ぎゅっと力を入れ、手を離した。めぐるの左頬に赤い跡が咲いた。俺はそれに満足をして、自分の席に着いた。めぐるは友達の所へ向かって行った。





4

 馬鹿な俺に一番似合わない場所第1位、図書館。休日なのに、今、俺はその場所にいる。


 何故かというと、テスト期間であるのにも関わらず俺があまりにも家で勉強をしないので、お怒りの母に無理矢理ここまで連れて来られ、「夕方になるまで迎えに来ないから!」と言われ、置いてきぼりにされてしまったから。歩いて帰るにしても30分以上かかるし、この炎天下の中では流石に無理すぎる。なので、仕方なく勉強をする事にした。

 1時間程勉強したところで集中力が途切れてしまい、せっかくだから何か面白そうな本でも読もうかと本棚を物色していたら、気になる1冊が目にとまった。


『星空の歩き方』


 恐らく、星空の写真集だった。

 俺は星が好きだった。単純に、キレイだから。入学した高校にはもともと天文部があったそうだが、人数不足で廃部になったらしい。

 分厚くて重そうな上、絶対に俺の身長では届かない一番上の段に並べてあった。無理だろうな、と思いつつ一縷の望みにかけて背伸びをして手を伸ばしてみたけどやっぱり無理だった。諦めて台でも探そうと思ったら、俺の後ろから影が伸び、取ろうとしていた写真集が誰かに取られてしまった。びっくりして、俺は後ろを振り返った。


「はい、どうぞ」

「えっ……」

「……あ、違う本でしたか?」


 と言って、その人は俺に写真集を渡してくれた。俺は瞠目した。だって、めちゃくちゃイケメンだったから。美丈夫という言葉がぴったり似合うような男の人だった。


「あ、いや、これです。ありがとうございます!」


 写真集を受け取ると、その男はふっと笑った。


「俺の家の近くの高校だ」


 そう言って、俺の制服の校章を指差した。彼が着ている制服は、俺の通っている学校から少し離れた所にある偏差値の高い学校のものだ。

 

「ああ、そうなんですね。えっと……先輩? は……」

「いや、俺高1ですよ」

「えっ!? 同い年だ……!!」


 あまりにもオーラがありすぎるのと、雰囲気が落ち着いていたのでてっきり年上だと思っていたが、俺と同い年だった。俺はそれが信じられず、彼の上から下まで凝視した。彼も同い年と知ってか、少しフランクになった。


「はは、老けてるって、よく言われる」

「いや、老けてるっていうか……」


 凄く大人っぽくてかっこいい。俺の周りにこんな人はいなかった。いや、俺の周りって言ってもほぼめぐるしかいないけど。

 彼は俺が持っていた写真集を指差した


「星、好きなのか?」

「あ、うん。テスト勉強してたんだけど、集中力切れちゃって」

「俺もそう。テスト期間ってどの学校も同じなんだな」


 どうやら彼もテスト勉強をしに図書館へ来たようだ。これだけ頭がよさそうな人と同じ空間で勉強をしているなんて、なんだか自分まで賢くなった気分だ。

 彼はその綺麗な顔を俺に向け、ある提案をしてきた。


「よかったら、一緒に勉強しないか?」

「え」

「周りに勉強している人がいる方が、頑張れるし。お互いつまずいた所を教えられるしな」

「いや、でも俺……多分めっちゃ馬鹿だよ。何も教えられる事ないよ」

「俺が教えれば、その分俺の勉強にもなるし」


 と、微笑みかけられた。こんなの、断れるはずもない。


「じゃあ……お願いします。えっと、よろしくね……」


 ここまで来て、互いに名乗り出てなかった事に気付いた。不思議な事に、初めて会話したとは思えないくらい自然にやり取りができてしまっていた。


「俺、一宮守って言うんだ。一宮でいいよ」

「いちみや」


 俺の名前を呟くと、彼は一緒だ、と言った。


「一緒?」

「ああ。数字が付く名前、一緒」


 彼は律儀に制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出して、それを俺に見せてきた。


「二井虎太郎。よろしくな」





5

 二井でいい、と言ったので二井と口にしてみた。何故か、妙に口馴染みのある言葉だった。

 そして二井は本当に頭がいいらしく、俺が分からないと言った問題を教科関係なく全て丁寧に解説してくれた。


「凄いね、二井ってマジで賢いんだ」

「ありがとう。勉強しか取り柄ないから」


 はは、と笑っていたが、絶対にそんな子とはない。だって顔が良すぎるから。勉強モードに入った時にメガネをかけ始めたが、その姿すらも綺麗だった。


「二井はよくここに来るの?」

「まあ、そうだな。放課後とかは予備校で勉強するから、しょっちゅうって訳じゃないけど」

「へえ、凄いな。じゃあ遊ぶ時間とかないんだ」

「いや、そうでもない。俺も息抜きに遊ぶ時くらいはある」

「そうなんだ。意外だな、二井真面目そうだし」

「そうか? ゲームとか散歩とか大好きだぞ」

「そーなの!? 俺も俺も!」

「一緒だな」


 めぐるは、ゲーム性のあるものは好きだけど、家にこもってゲームするのはしんどいって言うし、散歩もそんなジジくさいの楽しくないでしょ、って言う。だから、二井みたいな人は貴重だ。


「俺、ゲームも散歩も大好きだけど、一緒に遊んでくれる人いないんだ。二井はそういう友達いるの?」

「あー……。まあ、いなくもないな」

「いいな、1人でもいるのが羨ましいよ」

「1人……いや、3人いる。幼馴染が」

「3人も!?」

「ああ。まあ、みんな学校も違うし性格も違いすぎるからバラバラではあるんだが」


 本当にみんな協調性が無くて困っているんだ、と苦笑した。なんだそれ、羨ましすぎる。俺なんてずっと大切にしてきたたった1人の幼馴染すら離れていこうとしているのに。


「大切にしたほうがいいよ、その人たち」

「……ああ。一宮も今度一緒に遊ぶか?」

「え?」

「よく分からんが、今度秘密基地を作るらしい」

「秘密基地!?」


 何歳だよ! とツッコむ人間はこの空間にいなかった。


「楽しそうすぎるでしょ……! 俺、そういうの大好きなんだけど!!」

「じゃあ、今度誘うな。多分あいつらも喜ぶと思うし」

「大丈夫? いきなりこんなやつが1人で参加しても……。しかもみんな幼馴染なんでしょ? よそ者じゃん俺」


 すると二井は俺の方を少し見て考え、目尻をたらっと下げた。


「すぐ仲良くなれる。なんでだろうな、そんな気がする」


 何の根拠もなしに、そう言った。なんとなく説得力がある。一見気難しそうな二井だが、こうしてすぐ仲良くなれた。二井の幼馴染ともそうなれるかもしれない。


「じゃあ、遊んでみたいかも。俺、ずっと暇だからいつでも呼んでよ」

「分かった」


 その日は連絡先を交換して解散になった。

 不思議な人だった。俺ともめぐるとも全然違うタイプなのに、隣にいるのが随分しっくりきた。


 まるで、長年の友達だったみたいに。





6

「じゃあ適当に5人グループになってー。誰がリーダになるかとかは任せるから」


 歴史の教科担任がかなり投げやりに生徒にそう指示した。内容的にはその時代の年表をまとめて方眼紙に書く、という簡単なものだったが、グループを作って協力してやるという厄介な枷付きだった。

 教室からは、めんどくさいやら一緒にやろうやら二人組いない? やら賑やかな声が飛び交っていた。俺は勿論めぐるの元へ向かった。なんと言っても、「ペアを作って」と言われて指名できる人間なんて俺にはめぐるしかいない。

 が、俺は少し動くのが遅かったらしい。


「めぐる、一緒にやろ」

「あーーー……」


 めぐるは気まずそうにチラチラと周りの人を見た。めぐるの友達が、めぐるの机を囲って作業を始めようとしていた。

 ちょうど、めぐるを合わせて5人。


「……」

「えっと……ごめん。もうグループ作っちゃった……」


 俺と組んだとしても、あと3人はめぐるの友達で構成されるんだろうなとは思っていた。でもまさか、俺の入る隙すらないなんて。今までこういう事があったら、悪態をつきつつもめぐるは俺と組んでくれたのに。


「……分かった」


 俺は手に持っていた教科書と筆記用具をぎゅっと握りしめて後ずさった。顔を見られたくなくて、俯いたまま自分の席に帰って行った。

 結局俺は残った者同士のグループを組む事になった。まともな友達なんて1人しかいないのに、5人グループを作るなんて俺には困難すぎる。

 みんな真面目だったので進行には困らなかったが、心いっぱいにめぐるの事で埋め尽くされた俺は、なんだか悲しくなり、作業が全く手につかなかった。おかげでみんなに迷惑をかけてしまった。


「一宮くん、体調悪いの?」

「……え?」

「しんどそうだけど」

「あ、いや……大丈夫」


 まともに会話した事のないクラスメイトにまで心配されてしまった。俺は下手くそな字で方眼紙に年代を書いた。ヘニャヘニャっとしたその字は、完全に気を落としてしまった俺を表しているようだった。


 そんな俺を、めぐるがチラチラと遠くの島から見ていたなんて俺は知る由もなかった。





7

「めぐる、今日は、」

「……ごめん、えっと、ボーリング行くんだ。……来る?」

「……行かない。俺が投げてもガーターにしかならないし」

「そんな事ないと思うけどなあ……」 


 放課後、めぐるを誘ってみたが、また俺との予定を優先してくれなかった。

 俺はしかめっ面をめぐるに向け、もう粘る気力もなく教室を出ようとした。


「まもる!」


 呼び止められ振り返ると、なんとも形容しがたい表情をしためぐるがいた。


「なに?」

「……あー、……えーっと」


 呼び止めたくせに、口にする言葉を考えているようだった。

 遠くから、行くぞーと急かすめぐるの友達の声が聞こえた。


「呼ばれてるよ」

「……ああ」


 めぐるはもう一度何か言おうと口を開閉し、そしてやっぱり何も言わずに去って行った。


 めぐるが一緒にグループを組んでくれなかったこと、いつまで経っても一緒にゲーセンに行ってくれないこと、勿体ぶって何も言わなかったこと、全てにモヤモヤしてしまい、俺はめぐるの席を足でコツンと蹴って教室を出た。





8

 学校から離れた俺はなんだかすごすごと家に帰る気持ちにもなれず、1人でゲーセンに向かっていた。

 そして例のうさぎなのか猫なのかよく分からない宇宙人のぬいぐるみと格闘すること数十分。

 

『オメデトウゴザイマス!! スゴイスゴイ!!』

「えっ、えっ、マジで」


 ……取れてしまった。筐体のスピーカーだけが俺を祝ってくれた。


 恥ずかしい話だが、クレーンゲームが好きとか言っておきながら、自力で景品を取れたのは初めてだった。いっつも最後にめぐるに泣きついて取ってもらうから。

 そして、初めて自分で景品を取ってみて思った。


 こんな難しいのをアイツはポンポン取ってくれてたの? しかも全部俺に景品くれるし、お金も出してくれるし、下手な俺にどれだけでも付き合ってくれるし。

 俺がめぐるの立場だったら絶対嫌だ。自分のためにならない事を見返り無しで付き合ってあげるなんて、退屈すぎる。心が広いのはむしろめぐるの方だったかもしれない。


 もしかして、めぐるが一緒に遊んでくれないのって、やっぱり俺が原因なのかな。じゃあ、もっと頑張らないと。


 俺は性懲りもなくまた100円玉を投入して、同じ筐体に向かい直した。でも全然うまくいかない。さっきのは多分本当にまぐれなのだろう。どうにかコツが掴めないかと、ガチャガチャとレバーを弄り倒していた時だった。


「ヘタクソ」

「え?」


 いつの間にか真横にめぐるが立っていた。

 俺はまるでキュウリを見た猫のように飛び跳ねてしまった。


「……!? っ、え、!?」

「ハハハ!! めっちゃ驚いてる」


 そう言うと、めぐるはレバーを握っていた俺の手の上から自分の手を重ね、動かし始めた。


「これはね、アームの強さ的に一発じゃ取れないから、まずこの穴に近づけるの。で、あの首と顔のあたりを挟んだほうがいいよ」

「あ……」

「多分これ、前も教えたけど」


 たしなめられたが、めぐるは怒ったり呆れている様子は無く、寧ろ少し笑っていた。

 そして俺が数十分格闘したぬいぐるみを、ものの数ターンで取ってしまった。


「ほら、取れた」

「すごっ……。やっぱ上手いなあ」


 俺なんてまだまだだ。めぐるに教えてもらったコツの1つすら覚えられない。

 覚えられなかったけど、あのアドバイスはどこかで聞いたことがある気がしてきた。なんでだろう。


「……ソレ、1人で取ったの?」

「あ、ああ、うん。時間かかったけど……」


 俺が取ったほうのぬいぐるみを見つめて、めぐるはフウンと小さく呟いた。なんだよ、もっと褒めてくれてもいいのに。

 俺は躍起になって、そのぬいぐるみをめぐるに差しだした。


「ん」

「え、なに?くれんの?」

「うん」

「……冗談?」

「失礼だな。もともと1個はお前にあげようと思ってたから」

「……マジ?」

「だからほんとだって」


 いつも取ってくれた景品をいやしく持って帰っていたからなのか、めぐるは信じられないものを見るかのような目でこちらを見ていた。口をぽかんと開けたまま、礼も言わずにゆっくりとぬいぐるみを受け取ってくれた。


「……なんで?」

「なんでってのは」

「なんで、いきなり俺に……」

「……だって」


 俺はなんとなくめぐるを見るのが恥ずかしくなり、またさっきの筐体の方を見た。


「いっつも俺が取って貰うばっかだから。……それに、俺がクレーンゲーム上手くなれば、めぐるももっと俺と遊んでくれるでしょ」


 気恥ずかしくて、俺は意味もなくレバーを上下左右にガチャガチャと動かした。横から盛大な溜息が聞こえてきて、俺はチラッとめぐるの方を見た。


「あ"ー……もう、敵わんな」

「え?……なにが」

「……いや、なんでもない。仕方ないからお友達が俺だけのまもるクンともっと遊んであげよう」


 と言って、めぐるは俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 嬉しいけど、訂正したい箇所はある。


「や、俺友達出来たし」

「ハ?」

「二井って言うの、めっちゃかっこいいよ」


 俺はスマホの画面をめぐるに見せた。そこに写っているのは、先日連絡先を交換した二井のトプ画の写真。

 それを見ためぐるは俺のスマホをガッと掴み、眉間にシワを寄せながら俺に猛抗議した。


「はあ? 俺のがかっこよくない? こんな堅物そうなやつより俺のが今時で断然良くない? なあ?」

「な、なんでそんなムキになんの……」


 珍しい。確かにめぐるはイケメンだけど、別にそれをひけらかしたり誰かと比べてどうこう言う人ではないのに。何がそんなに逆鱗に触れたのだろうか。

 そして、めぐるは曖昧な返事をする俺にぐいぐいと迫ってきた。


「なあ、俺のがかっこいいよな、まもる」

「ええ……うーん、それはちょっと微妙だけど……」


 俺の言葉を聞いて、めぐるはがっくりと項垂れた。なんで、そこまで絶望しなくていいのに。

 俺は、でも、と続けた。


「どっちがかっこいいかとかは分からないけど、俺はめぐるの顔が1番好き」


 そして、めぐるの左頬をきゅっと摘んだ。今度は軽く。開いた口から、間抜けに息がもれた。めぐるは垂れ目がちな目をぱちくりと見開いていた。その顔がなんか可愛くて、俺はちょっと笑ってしまった。


「かっ……」

「か?」

「敵わねえよ!!!!!」

「だから何に!!!!!」





9

「めぐる、そういえばなんでここにいるの? ボーリングは?」

「あー、あー……。あーーー……。……ボーリング場、休みだった」

「え? そうなの? あのボーリング場って、定休日なんてあったっけ」

「いや、まあ、ハハ、緊急メンテナンス? みたいなの? らしくてさ」

「ふーん、そっか」

「ウン……」

「……」

「……」

「……俺、別にめぐるだけならボーリング行ってもいいよ。あとカラオケも」

「えっ、そうなの!?」

「うん。他の人は怖いけど、めぐるなら大丈夫だから」

「ッアーーー。もう、ほんと敵わん……」








●一宮 守

あっちの世界の一宮くんより割と排他的。若者の流れについていけないのは一緒。頭の出来はあっちと一緒だけど、こっちのが根暗で消極的。

でもやっぱり一宮くんは人を狂わせるのが上手みたい!


●千田 環

あっちの世界の千田くんとほぼ一緒だけど、一宮が側にいて当たり前感は強い。一宮に友達が出来るのはいい事だと思ってたが、まさかあんなイケメンがひっかかるなんて思いもしなかった。

実はあと3人もバックにイケメンがいるんですよ。



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