2024.09.19 12:10あかりとテクノと部員たち1.あかりが聞く「おはざーす、あーす、うーす、お、……うおおぉぉ!?」 人って朝からこんなに大声出せるんだ、と我ながら感心した。眠気眼で部室に入って来た部員達に流れ作業で挨拶をし、挨拶をし、挨拶をしようとしたが、流せない視覚情報が目に飛び込んできた。俺がガン見しているその男は気恥ずかしそうに目を逸らした。「……うす」「テクノ! 髪! テクノじゃなくなってる!」 テクノの髪がテクノカットじゃなくなっていた。 目の前の男──テクノは俺と同じ学年、ついでに言うと俺と同じクラスの男だ。高校に入って出会った時からずっと、全く同じテクノカットをしていた。同じバスケ部に入り、新入部員の半強制通過儀礼であるバリカン刈りなるものをうまいこと避けに避けまくって、この男はそ...
2024.09.19 12:09イチオシだからダイジョーブ!1 その案内がグループチャットに届いたのは2週間ほど前。 課題や卒論や未だにお祈りメールを見ることしかできない就活に追われているさなか、それは俺の心がさらにどんよりと重くなるお誘いだった。「心よりお祈り申し上げてるんなら採用しろよクソ……」 ベッドに身を投げ出し、虚ろな目でスマホを眺めた。『末筆ながら、四ツ谷様の今後のご活躍とご健闘を心よりお祈り申し上げます。』 また落ちた。期待はしていなかったけど、こうも不採用が続くと気が滅入ってしまう。今の所10社連続で落ちている。これを兄に言ったら「そんなのまだまだ大丈夫! もし50社受けてうまくいかなかったら俺が天音の面倒見るし」と返ってきた。「それはいいですねぇ……。誰か養ってくんねーかな」 俺の兄はブラコン...
2024.09.19 11:47恋と言い難いが文とどまれない1 今年は九月一日が月曜だったから、キリよく九月頭から登校だった。八月いっぱい夏休みだったからか、余計長い長い夏休みに感じた。 そんな憂鬱な九月一日の朝、黒野家リビング。「お母さん、俺のシャツ知らない?」「はぁ? ないことないでしょ」「ないから聞いてるんだって」「……あ、クリーニング預けたままだったな」「え、俺何着ればいいの」「お父さんの着てけばいいじゃん」「絶対デカイし絶対服装検査引っかかるけど」「あーもう朝からうるさいな。じゃあパジャマで行けば? こっちは気効かせてクリーニング出したんですが?」「……」 これが俺のお母さん、黒野由実。多分、アリかナシかで言うと難アリな方の人間だ。気効かせてクリーニング出すんなら間に合うように取りに行くべきだろ。ちな...