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私、中野さやか十七歳。高校二年生。サッカー部のマネージャーをしている。運動は好きだけどサッカー経験はナシ。なんなら高校はバイトに励もうと思っていた私が何故サッカー部のマネージャーをしているかと言うと、一目惚れをした男の子がサッカー部にいるから。
「お疲れ様ー。破れてたボール替えてくれたの中野さん?」
「あっ! 五藤くんお疲れ様! うん、先生が部費で買ってくれたから」
「そっか。ありがとう」
話題の人物は部活後、帰る間際に私にわざわざ声をかけてくれた。嬉しくて心臓がぎゅんぎゅんする。これのために私はマネージャーしているのだ。
私の好きな人、五藤空良くん。爽やかすぎる整ったお顔と、高い身長と、全方位に思いやりのある男の子。こんなにかっこいいのに鼻に付く感じが全くなく、癖もなく、他の部員なら気付かないようなマネージャーの仕事にまで気付いて労ってくれる。頭も悪くない。率先して戦術も立てている。私はこんなに完璧な人を見たことがない。
「はぁ〜、かっこいいなぁ……。私のこと好きにならないかなあ」
部室の扉の鍵を閉め、さきほどの五藤くんの顔を思い出してため息のように独り言が出た。本当にかっこいい。私の王子様。
「何? 五藤くんを狙ってるの?」
「キャーッ」
浸りすぎて全く気付かなかった。私と同学年のもう一人の女子マネージャー、山田さんが扉横に立っていた。山田さんは不思議な人だ。別に運動もサッカーも好きではないみたいだし、五藤くん目当てでサッカー部のマネージャーになったわけでもなさそう。
「ご、五藤くんには秘密ね!」
「別に言わないよ。でも五藤くんはやめといた方がいいと思う」
「あー、まあ、競争率激高だもんね」
「そうだけど、そうじゃなくて……五藤くんって多分変だし」
「変? 変なとこなんていっこも無くない?」
「まだ何も見てないの?」
「何もって?」
「知らないならいいや」
意味深に言葉を残して、山田さんは顧問に部誌を届けに行った。
山田さんの言う変とは一体なんだろう。あんなに完璧な男の子に変なとこなんてひとつもない。あるはずがない。
その時の私は、本当にそう思っていた。
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五藤くんはこの学校に入学した時から特別だった。入学式の日から一気に話題になり、そのかっこよさを噂する人が絶えなかった。かく言う私もその中のうちの一人で、五藤くんとはクラスが離れていたので、最初のうちは休み時間になるたびに五藤くんのクラスまで行って五藤くんをチラ見していた。
どうやら五藤くんには昔からの付き合いがある友達が何人かいるらしい。類は友を呼ぶのだろうか。その友達もみんなかっこいいので、女子たちの中では派閥争いがあるとかないとか。アイドルグループを推すようなものだろう。確かにみんなかっこいいけど、私はとにかく五藤くん一筋だった。
うちの学校は帰宅部が許されるので、本気で部活をやりたい人、内申点を上げたい人、暇が嫌な人以外は滅多に部活に入らない。私は前述した通り放課後はバイトをして過ごすつもりだったけど、入学式で五藤くんを見つけてしまってからトキメキが止まらず、ただ近付きたいという不純な動機だけでサッカー部のマネージャーになることを決めた。私みたいな考えの子なんてたくさんいるんじゃないかと危惧したけど、どうやら私レベルに強欲な子はあまりいないらしく、山田さん以外のマネージャーは、もともと女子サッカーをやっていたり、サッカーが好きだからという理由でマネージャーをやる子がほとんどだった。つまりこれはチャンス。放課後単体で見ると私だけが独占市場なのだ。
少しくらい私と五藤くんの可能性を感じてもいいんじゃないかというエピソードがある。
一年の冬、練習試合の時だった。その時は冬はインフルエンザが流行しまくり、私以外のマネージャー全員がダウンしてしまった。だから、いつもの仕事量を私一人で回すことに。後期になって徐々に活動内容に慣れてきたと言えど、下っ端マネージャーの私一人で選手を支えるのが心細すぎたし、仕事量も多くて本当に心労した。
でも練習試合が終わると、絶対に選手の方が疲れているだろうに、五藤が私の元まで来て「一人で大変だっただろ? 頑張ってくれてありがとう」と頭を下げてくれた。死ぬかと思った。疲れとか寂しさとかではなく、ただただ五藤くんの完璧なまでの優しさとかっこよさに涙が流れそうだった。乙女ゲーだったら絶対にフラグ立ってた。私は今でもこの目に見えないフラグを、一方的に大事に育てている。
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さて、顔ファンの中でも五藤くんは「礼儀正しいし優しいしかっこいい」という共通の認識があるけど、もっと五藤くんに近付けたファンは「一定のライン以上は踏み込めない人」という印象も持っている。
勿論、五藤くんは誰とも分け隔てなく喋るし差別をしないので、クラスの友達やサッカー部のチームメイトとは仲が良い。冗談を言い合ったり相応に男子高校生らしい話題で盛り上がったりもする。だけど、それは本当に学校の中や部活の中だけの繋がりというか。それ以上の関係には見えない。困ってる友達や仲間には手を貸すけど、五藤くんが困った時は絶対に自分から他人に頼らないというか。とにかく、人間関係にかなり淡白な人なんだろうなと思っていた。実際、うちのサッカー部は仲が良いと思うけど、五藤くんがチームの誰かとプライベートで遊んだという話を聞いたことがない。私は五藤くんのそういうミステリアスなところも素敵だなと思っていた。
マネージャーを続けて一年が経ち、学年が一つ上がったところで、山田さんの言っていた「五藤くんは変」という言葉が真実味を帯びてくるようになる。
きっかけは、四月にある新入生に向けた部活動見学の時だった。
部活動見学は新入生が好きなタイミングで好きなだけ部活を見学していいことになっている。サッカー部に興味がある新入生の男の子たちが見学する中、女子生徒も多く見受けられた。女の子たちは大体五藤くん目当てだろう。五藤くんは自分が見物されていることに対してさして気にしていないようだった。まあ、普段から注目されているからもうなれっこなのだろう。
部活動見学ができる期間は数日程度で、その後はアンケートを取って仮入部期間、それを過ぎたら本入部というかたちになる。うちの学校は部活の数も多いので、その限られた数日間で興味のある部活を全て回らなければいけない。大体の新入生が三十分も満たないくらいで次の部活に回る中、終盤の方まで見学を続けていた男の子がいた。五藤くんは休憩のタイミングでその子の元まで駆け寄り、何かを話していた。聞いたら駄目だとは分かっていても、五藤くんがチームメイト以外の人と談笑しているのが珍しすぎて、私は近くに寄って耳をそば立てた。
「なんで一宮も見学してんの?」
「五藤のサッカーしてるとこ見たいじゃん。今なら擬態できると思って」
「上手だったな。全然気付かなかった」
「もう少し配慮しろよ」
「一宮が自虐言うから」
五藤くんはその男の子と会話し、目を垂れさせて笑っていた。見たことない五藤くんの表情だった。
どうやら相手は新入生ではなく、同い年らしい。身長は私と一緒くらいかそれよりも小さく、くるくるとした髪の毛が特徴的だった。
「で、どうだった?」
「え?」
「俺のことずっと見てたんだろ。どうだった?」
「……えー、なんでそんなこと聞くんだよ」
「じゃあなんで俺のこと見てたんだよ」
「……」
その子は口をとがらせ、渋々答えた。
「どうって、かっこよかったよ、普通に」
「ふ……」
五藤くんは片方の口角を上げ、その子の髪の毛をぐしゃっと撫でた。私は目を丸くした。
「二井は?」
「予備校で先に帰った。五藤部活まだ終わんないの?」
「あと30分以上あるな」
「俺待ってるから、一緒に帰ろう」
「待てるの?」
「待てるよ」
「フラフラすんなよ」
「ここ学校! 俺高校生!」
その子はぷんすこと怒って校舎の方に歩いて行った。五藤くんはその背中を眺めて笑っていた。
なんだあれ。なんだあの男。五藤くんのなんなんだ。一緒に帰るって? 私やチームメイトですら五藤くんと一緒に帰ったことないのに。
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一度気にしてしまうと自然とその子のことが目に留まるようになってしまった。あの日五藤くんと親しげに話していたあの子は、どうやら一宮守くんと言うらしい。五藤くんの隣のクラスの子で、五藤くんの幼馴染。なるほど、幼馴染か。じゃああの距離感も納得。……納得か? いくら幼馴染とは言え、あの五藤くんが?
「男が男に頭撫でるのって、どういう時?」
「揶揄ってるんじゃない?」
「揶揄ってないとしたら?」
「……ボーイズラブなんじゃない?」
「え」
今日は土曜日で半日練習の日。私と山田さんは、部室に溜まった資料を整理していた。山田さんは過去の日程表や同意書を容赦なく捨てながら、私の疑問に淡々と答えた。
「いやいや、ないない、だって五藤くんだよ?」
「五藤くんの話だったの?」
「あ」
完全に墓穴。
「まあ五藤くんはかなり怪しいけどねー」
「え?」
「頭撫でてたのって、もしかして一宮くんだったりする?」
「えっ!」
私は驚いて思わず手を止めて山田さんを見た。私が先日知ったばかりの名前を、山田さんは既に知っていた。しかも、どうやら私の知らない情報まで知っていそう。
「私ボーイズラブを観測するの大好きなんだけど」
「……あっ、へえ!?」
「五藤くんと一宮くんって、『そう』だと思ってる」
「……へ、へぇ〜〜〜〜〜〜」
衝撃の事実。山田さんの一推測にすぎないけど、五藤くんってそうなのか。いや、まさか。女子なんて選び放題の五藤だぞ。ましてや男の子、しかも特筆する点もないような一宮くん。信じない。だって私は入学した時からずっと五藤くん一筋だったのに。まさかそんなことが……。
「山田さんはその……BLが好きなの?」
「うん。読んでみる?」
「えっ?」
山田さんは部室に置いていた自分の鞄から漫画を取り出した。表紙には男の子二人のイラスト。所謂BL本だった。
「持ち歩いてるの……?」
「いや、貸してた子から今日返されて。たまたまだよ」
「へえ〜……。私が知らないだけで、BL好きな子は他にもいるんだね」
「一回読んでみてよ」
「え?」
「これは多分読みやすいから」
山田さんはその本を私の胸元まで差し出した。思わず受け取る。SNSを見ている時にそういう漫画が流れてくる時はたまにあったけど、じっくりと読んだことはなかった。どうしよう。これを読んで私は意識が何か変わるのだろうか。読んだところでどうにもならない気がする。でも、せっかく山田さんが貸してくれたのに読まずに返すのも申し訳ない。パラパラと読んでみてすぐに返そう。
家に帰って早速その本を読んでみた。結論だけ言うと、正直、いけた。いけたというか、むしろ、全然、本当に良かった。なんなら普通の少女漫画を読むよりドキドキしたかもしれない。初めての感情に、漫画を片手に持ちながらベッドの上に仰向けになった。堪らなくなって勢いで山田さんに電話をかけてみる。初電話だった。山田さんはすぐに電話に出てくれた。
「読んだよ」
「どうだった?」
「すっ……ごいよかった」
「でしょ!?」
私の知ってる山田さんからは想像もできないくらいテンションの高い声だった。なるほど、山田さんはこれで壁取りができるんだ。
「その、主人公普通の子で片方がスポーツマンで幼馴染みたいな……もしかして意識して買ったの?」
「たまたまだよ」
「……こういう組み合わせって、他にもあるの?」
「あるよ!」
山田さんは自室にある本棚でも確認しているのか、悩みながらオススメのタイトルを教えてくれた。月曜に貸そうかと提案してくれたけど、なんと今の私は明日にでも買って即日に読みたいくらいの熱量を持っていた。絶対に明日本屋に言って買いに行く。
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翌日。決意した通り、私は近所の本屋に向かっていた。今までこの本屋は何度も利用したことがあるけど、まさかこのコーナー地足を踏み入れるなんて思わなかった。めちゃくちゃドキドキした。何かよからぬことをしているのではという気さえおきてくる。私はそのコーナーで山田さんから教えてもらった「限りなく五藤くんと一宮くんに近い本」を教えてもらい、それを探した。もう五藤くんに似たキャラクターを見たいのか、BLが見たいのか自分でも分からない。
お目当てのタイトルを見つけられたので、それを手に取って表紙を確認すると、見れば見るほど主役の二人が五藤くんと一宮くんに見えて仕方なかった。内心小躍りしたいのを抑えてさっさと会計を済ませようとすると、どこからか聞き馴染みのある声が聞こえてきた。その声が近付き、私は一気に心臓を冷やした。なるべく俯いて視線だけそちらに動かす。
五藤くんと一宮くんだった。
なんでこんなところに。五藤くんの住んでいる場所は、学校を挟んでここから真逆の位置にあるはず。よりにもよってなんで私がこんなタイミングで。
一宮くんは五藤くんの後を着いて歩きながら、酷く疲れた表情をして口を開いた。
「もうここになかったら諦めようって」
「いや、絶対入手したい。ここが駄目だったら次は電車乗って大きい書店行くから」
「え〜……もうネットで探せばいいじゃん」
「今欲しいだろ」
五藤くんは小説──ライトノベルの新刊のコーナーに早足で向かい、そしてあった! と声を上げた。私は棚に隠れて、後ろから五藤くんが手にした表紙を見た。男の子が可愛い女の子やきれいなお姉さんに囲まれている。五藤くんってそういうの読むんだ……。
「あー、よかった。特装版ってだけでこんなに品薄になるんだ」
「電車回避でよかったな」
「ほんとによ! 軽率に付き合うって言った俺も俺だけどさ!」
「あ、一宮もう適当に他のとこ見てきていいよ」
「コイツ……」
一宮くんが雑誌のコーナーに向かうと、五藤くんはこちらに向かって動き出した。ヤバイと思って慌てて背を向けると、肩から掛けていた鞄が陳列された本に当たってバタバタと倒れてしまった。心の中で悲鳴を上げながら拾う。勘弁してくれ。
どうにか気付かないでいてくれと願っていたけど、全方位に気配りができる五藤くんがこのハプニングをスルーするわけもなく。
「伊藤さん?」
五藤くんは床に落ちた本を拾い上げて、私の顔を確認した。
「ヒッ」
「驚いたー。偶然だな」
「そっ、そっ、そうだね!」
いつもなら運命すら感じるはずなのに、今日ばかりはこの運を呪う。なんと言っても特殊な本を手にしてしまっている。あれ、そういえば私のお目当ての本は。今私の両手は空いている。嫌な予感がして床を見ると、私たちの真ん中にその本が落ちていた。絶句した。
五藤くんは私より先にそれを拾い上げ、そして表紙と裏表紙をまじまじと眺めた。いっそ殺してくれと思った。正直、表紙に描かれているキャラクターは誰が見ても五藤くんに似ていると答えられるくらい、五藤くんに似ている。絶対何か言われる、と身構えていたけど、五藤くんは特に私を揶揄ったり怪訝にする表情はしていなかった。今五藤くんはどういう気持ちなのだろう。
「これ、今から買うの?」
「え、あ、え……」
「読み終わったら貸してくれない?」
「ごっ、五藤くんに!?」
「うん」
絶句も絶句。五藤くん、一体何を考えてるんだ。あまりの提案に私は口を開けて固まった。五藤くんは「俺がいたら買いづらいよな」と言って、一宮くんがいる方に歩いて行った。
え、本当に何?
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とにかく混乱しながらもさっさと会計を済ませ、そして家に帰って混乱したまま入手した本を読んだ。
めちゃくちゃ良かった。山田さんが言っていた、「限りなく五藤くんと一宮くんに近い本」という売り文句は本当だった。絵もキャラクター性も、彼らをモデルにしているのではというくらい本人たちに似ていた。いろんな悩みを乗り越え、最終的に二人は両思いになって付き合って終わった。
すごくいい話だったんだけど。でも、これを五藤くんに貸すと? 正気? あの五藤くんに? 五藤くんがあの時手にしていたラノベならまだしも、男同士の恋愛なんだけど。いくら五藤くんの心が広いとはいえ、幅にも限度はあるだろ。
とは思いつつ、五藤くんの願いを聞かない訳にはいかないので、次の日の部活が終わった放課後、五藤くんをこっそり呼び出した。まさか告白以外でこんなシチュエーションになるとは。告白よりも先にBL本を渡すことになるとは。
これ……と一言だけ言って、紙袋に入れたその本をこっそり差し出すと、五藤くんは「ありがとう、すぐ返す」と、サラッと言ってさも当たり前のように自分の鞄の中にしまった。闇取引くらい瞬間的なやり取りだった。私は五藤くんに本を貸して以降、とにかく心臓が落ち着かなくてご飯も喉を通らなかったし夜も全く寝付けなかった。国語のテストで私の気持ちを答えろという問いが出ても、私が一番この気持ちを言葉にできないと思う。とにかく漠然とした焦りと不安と興奮が頭を支配していた。
次の日の部活が終わったの放課後、五藤くんは早速私にその本を返してくれた。丁寧に個包装のお菓子まで付いてきた。
「ありがとう」
「ああ、いや……あの、全然」
「俺も買おうかなそれ」
「えっ!?」
思わず手を口に当てる。せいぜい五藤くんから出る言葉は、本の感想くらいだと思っていた。まさか、そんなことを言われるとは。
「な、なんで?」
「気分良いから」
毎日私に挨拶をしてくれている時のような爽やかな表情だった。怖すぎて、なんでとは聞けなかった。
「……五藤くんは、その、こ、こういうの好きなの?」
「こういうの?」
「その、BLというか…」
「ああ」
五藤くんはうーんと考えていた。そもそもまず当たり前のようにBLという単語が通じる。ラノベを購読していたし、五藤くんは意外とアンダーカルチャー的なものに造詣が深いのかもしれない。
「嫌いではないけど、委員長タイプ攻めとか、チャラ男攻めとか、ダウナー攻めみたいなのは読まないな」
「な、なんて? せ、せめ?」
「あ、分かんないか。まあ、こういう二人みたいな本他にも見つけたら教えて」
「は、はい……?」
五藤くんは最後にもう一度お礼を言って、なんともなかったかのように帰って行った。
私は放心して、一人その場に立ち尽くした。
帰宅後、混乱しながら山田さんに電話を掛けた。このことを話すと、山田さんは電話口で悲鳴を上げた。その理由を山田さんから聞いて私も悲鳴を上げた。
五藤くんがあの時言ってた呪文、攻めというのはつまりBLにおいて男役の方のことで、五藤くんはそれの意味をしっかり理解していて、あの本のような二人の関係の話を五藤くんはもっと読みたがっていて。
五藤くんって、もしかしてヤバい人なのかもしれない。
五藤くんに一目惚れしたからマネージャーとして仲を深めて、ゆくゆくは彼氏になってほしいだなんて私の考えは、浅薄すぎて甚だしいにも程があったかもしれない。
だって、五藤くんは自分と幼馴染の男の子を重ねた本を読んで気分が良いとか言ってるんだ。みんなに向けたことのないような顔を、一宮くんには向けてるんだ。
そもそも土俵にすら上がれていなかった自分の恋愛に気付いてしまい、一瞬で私の恋心は冷めてしまった。
なのに、急激に熱くなるこの体はなんなんだろう。もう一度あの漫画が読みたいと駆られている衝動はなんだろう。どうにかして五藤くんと一宮くんの絡みをもう一度目に焼き付けたいと奮えるこの熱意はなんだろう。
山田さんにこの気持ちを赤裸々に話すと、「それは推しカプなんじゃない?」と答えが返ってきた。
数ヶ月前の私へ。一年以上好きだった人が推しカプの攻めになりました。
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