呼び水



 泥水は底に溜まったままだった。誘い出すための水すら周りになかった。


 彼と同じ苗字になった日から、その名を誇れと言われてきた。トップであり続けろ、他の上に立て、周囲を支配するんだ。出来ない人間は王野を名乗るな、と。

 前の父親は暴力で俺を支配していた。次の父親は、言葉で。俺の父親になる人はそういうものだと思っていた。だから、そうなるように努めるのは当たり前だった。それだけが生きる道筋だった。逆らったら、きっと昔のように俺から大切な物が消えていくんだと思い込んでいた。その時にはもう大切なものなんて既に1つも残っていなかったのに。


 だから、本当に大切にしたいものが出来た時、俺はやっと生きていけると思った。俺を汲み上げてくれるのは昔からずっと、1人しかいない。





 キリのいい所でタイピングする手を止め、空になったマグカップにコーヒーを注いだ。窓を見ると日は傾きかけていた。雪解けの季節になり、日の入りも遅くなったようだ。

 ソファーに腰掛けて一服し、もうそろそろ帰ってくる頃かもしれないと想い馳せていると、思った通り玄関の扉が開く音がした。

 引き摺るようなゆっくり歩く足音を聞いて、なんとなく彼の表情を想像して笑みを零す。ガラ……と力無くリビングのドアが開き、俺はそちらに顔を向けた。


「おかえり」

「ただいま……」


 部屋に入ってきた求は、俺の顔を見るなりしょぼくれたような顔をした。そうそうコレ!と大声で言いたくなるのを必死に我慢する。結果は分かっていても、聞かずにはいられなかった。


「どうだった?」

「……」


 求は弱々しくふるふると顔を横に振った。まあ、そうだろうな。雰囲気で全て察せた。

 俺は入り口の近くで立ち尽くしている求に近寄り、ぎゅっと抱き締めた。今朝もこうやって送り出したのに、もうこの感覚が恋しくなっていた。


「お疲れ様。大丈夫だよ、ゆっくりやろう」

「……うん」


 求は俺の背中に腕を回し、そっと力を込めた。堪らなくなり、俺の体が熱を持ち始める。首元に顔を埋めてすぅっと息を吸うと、少し潮の匂いがした。


 この街に引っ越して数ヶ月が経った。俺はなるべく家で出来る仕事がしたいと思って、ECサイトの運営を始めた。もともと前の仕事で多少勉強はしていた。それに、アイツ__斜森もそんな会社を立ち上げたと聞いた。アイツが出来て俺が出来ない事なんてない。

 この仕事は割と性に合っていた。やり取りをする人は限られているし、客の対応は他のスタッフに任せている。前職は正直無理をしていた。他人と会話をする事にストレスを感じる質だったので、今くらいで丁度いい。売り上げも軌道に乗っているし、不満はない。


 求は__未だ転職活動中だった。あまり上手くいっていないらしい。俺が稼ぐから働かなくていいと言ったけれど、求はそれを聞き入れなかった。申し訳なさすぎる、と断られたけど、俺はそれで全然いいのに。本当は求を外に出したくない。俺以外の事を考えてほしくない。でもわがままも少しは聞いてあげたい。だからこれは妥協案だ。


(このままずっと上手くいかなければいいのにな)


 そして毎日疲弊した求を、俺がお世話してあげる。もうこのまま仕事を見つけられなくてもいいや、って求が思うくらい優しくしてあげる。俺無しじゃ生きられなくしたい。


 求の首筋に唇を這わせ、襟元に音を立ててキスをする。ぴくっと身動ぐのが分かった。


「あ、あの、汚いよ。せめてシャワー……」

「ううん、そんな事ない。俺も疲れたから、求補給したい」

「え、や……」

「……丞、だめ?」

「う……」


 求が俺の顔を見て狼狽える。もう一度丞、と呼ぶと口を固く結んで顔を真っ赤にしながら頷いた。俺が求の事を下の名前で呼ぶ時は、その合図だ。

 いつまでも初な求が可愛くて、次は唇にキスをした。最近学習したのだろう、閉じた口は徐々に開いていき、俺を迎え入れる態勢になっていた。可愛すぎる。このままお子様みたいなキスだけを続けたら求がどんな反応するかも気になるけど、今は早く堪能したい。舌を口の中に差し込んで、求の舌とくっつける。瞬間、鼻息が荒くなる。やっぱりまだ慣れないらしい。そのまま求の舌を撫でるように一周し、角度を変えて舌を這わせ、最後に上顎も擦ってあげた。求はここが大層弱いらしい。撫であげる度にびくびくと腰が揺れていた。


「んッ! ん、は、ァ、ん」


 同時に求の耳の縁を優しく撫でると、声を上げて喜んだ。顎先から唾液が垂れる。ただ落ちるだけのそれを勿体無いと思ってしまう。

 暫くこれを続けていると、求は俺にしがみつきながらかくんと腰を落とした。床にしゃがみ、荒く呼吸をする。可愛いな、本当に可愛い。


「ベッド行く?」

「っは……」


 虚ろな目をして俺を見上げる求は、こくんと頷いた。俺は広角が上がるのを感じながら求を起き上がらせ、寝室に移動した。自分では多分気付いていないけど、求はそれなりに性欲が強いと思う。


 求をベッドに押し倒し、衣服を脱がせる。首元に手を当て、ネクタイを抜き取った。青色のシンプルなもの。俺があげたネクタイだ。求がスーツを着る日は必ず俺が結んであげている。最高の気分だ。もう求は完全に俺のものだ。ここに他の首輪を通す事は許さないし、勝手に外すような事もさせない。

 シャツのボタンを外し、はだけて見えた素肌に口付けを落とす。不安か期待か、唇を滑らせる度に体が震えていた。そんな求を見て、自分でも興奮しているのが分かる。可愛い、愛おしくてしょうがない。

 シャツの前立てを開けると、既に胸の飾りがちょこんと主張していた。それが面白くて軽く指で弾くと、肩がびくっと持ち上がった。自分の指を舐め、潤滑剤代わりにしてもう一度乳首を弾いてあげると求の口から嬌声が漏れた。


「っひ、あ、あ……」

「気持ちいい?」

「んっ……」


 目をきゅっと閉じ、顔を真っ赤にして頷く求が可愛くて可愛くて、もっといろんな反応が見たくなった。カリカリと抉ったり、強く押し込んでみたりした。どれも良い声をあげていたけど、ぎゅっと摘んで引っ張るのが一番好きみたいだ。


「んんんぅぅぅ〜〜〜ッ」

「ははっ!」


 ガクガクッ!と腰が痙攣している。なんだかおもちゃみたいだ。可愛くて面白い。多分まだ出てないんだろうけど、スラックス越しの中心はとっくに膨れていた。求は男なのに胸で感じるのが恥ずかしいみたいで、両腕で顔を隠していた。必死に隠す姿も可愛いけど、今日は求の全部が見たい。顔の上で交差する腕を解いて、真っ赤になっているおでこに軽くキスをした。

 存分に上半身を弄びながら、窮屈そうな中心に手を伸ばし、スラックス越しにそこをやんわりと撫でた。最初はぴくっと反応して、手の動きを続けていると、その力加減がもどかしかったみたいで、だんだんと俺の手にグイグイと押し付けてきた。ああ可愛いな。求はふうふうと息を荒くしながら腰を動かしている。求もちゃんと男の子なんだなと実感する。でも求はもう俺のものだから、ここは俺が気持ちよくさせてあげるための用途でしか使わせてあげない。

 求の腰の動きが早くなってきたところで、撫で続けていた手をぱっと離すと、求は酷くいじらしい顔で俺を見上げた。目が合う。その視界には俺しか写っていなくてゾクゾクする。きっと今求は俺の事で頭がいっぱいだ。俺しか自分を満足させてくれないって思っている。最高、最高だ。


「あ……」

「ん?どうしたの?」

「……」


 腰がカクカクと空打ちをする。可哀想に、こんなんじゃ満足できないだろう。欲しい事、言ってくれれば全部やってあげるのに。


「どうしてほしい?」

「……や」

「このままでいいの?」


 求はもう泣きそうになりながら顔を歪めた。恥ずかしいんだろう。それにいつもは何も言わなくても先に進めているから、きっとなんでって思ってる。どんな反応をするかわくわくしながら求を見ていると、いつも以上に顔を赤く染めながら、自分から俺にキスをした。俺がびっくりしていると、口の隙間から求が舌を入れ、猫の毛繕いのように可愛くぺろぺろと舐めた。そして口を離し、眉を下げながら俺の顔をじっと見つめ、泣きそうな声で呟いた。


「みなも……」


 考えるより先に手が動いていた。ベルトを抜き取りスラックスのチャックを下げ、窮屈そうな求の中心を外に出してよしよしと撫でていた。待ち望んでいた快感に、求は高い声を上げて良がった。だって、可愛すぎる。ずるいよそんなの、手を上げて降参するしかない。

 ああ、躾って難しいな。求は賢いから、命令すればきっとすぐ覚えてくれるんだろうけど、こんなに可愛かったら俺が先に妥協してしまう。俺の手に噛み付く姿も可愛かったけど、素直なのが一番可愛い。


「はぁっ!あっ、あっ!んぅ、も、もっ!いくっ……」

「うん、いいよぉ」

「〜〜〜ッ! う、っ……ん、ん、は、はぁ、ぁ」


 そんなに触っていないのに、達するのは早かった。最近していなかったから、量も多かった。求はどこか天井の一点を見つめて呼吸をしていた。俺が触ってあげるまでずっと我慢していたのだろうか。俺に触られるのが一番気持ちいいって知ってるから、我慢してるんだろうか。ああ、ほんと堪んない。俺は手のひらについた求の精液を見せつけるように舐めた。虚ろな目をしていた求が慌てて俺の手を掴んだ。


「ちょっ、あっ、え!やめて!」

「なんで?勿体無い」

「勿体無いって……」


 求は顔を赤くしてわなわなと震えていた。俺は求に自分の体液飲んでほしいって思うけど、求は違うのかな。まだ俺のを飲む時もちょっと嫌がるから、いつか美味しいって思って飲み込んでもらいたいな。


「ここ、解していい?」

「んっ」

「まあ言われなくてもやるけど」


 求の後孔に中指を当ててとんとんと叩いた。求は何も言わないけど、多分体は期待してる。擦り付ける度にきゅうっと指に吸い付いてくる感覚がする。俺は一旦指を離し、ローションを手に取って十分に指を絡めた。    

 初めて体を繋げた時は感情に任せて__致し方なく無理やりやってしまったけれど、もう求はちゃんと俺のものだし、そんな事する必要もない。恐怖で支配するのは簡単だったけど、それだと寂しい。求にもちゃんと俺の事を好きだって思わせたい。それが快楽からくるものだとしても、俺を好意的に見てくれるんならなんでもいい。ぐずぐずに溶かして、俺だけでいっぱいにして、俺しか考えられないようにしたい。


「あ、あ、あぁぁ」


 未だにこの感覚は慣れないらしい。中指を1本だけ入れてゆっくり奥に進めると、求は震えた声を出した。求が気持ちよくなれるところに指の腹を当て、優しく掻き出すように指を動かした。


「うあ!あっ、ひっ、ぃ!」

「……?」


 すぐ気持ちよくなってくれるのは良かったけれど、久しぶりなのに余りにも指が動かしやすい事に違和感を感じた。考えたくないけど、あらぬ事を考えてしまう。いや、まさか。だってここは東京からずっと離れてるし、求は車運転出来ないし。転職活動中に誰かに……は、無いか。いやいや、100%ないなんて誰が言い切れる?もしくは、誰かが求にこっそり会いに来たか……。


「……ねぇ、なんでこんなに柔らかいの?」

「あ"っ、う!ぅ、え、そん、な、こと、ない……」

「絶対嘘だよ、なんで?だって、もうすぐにでも入れられるくらい解れてる……」

「は、はぁっ、あ"あ"あっ!!や、っ!つよ、つよいの、痛い!」

「なんで、ねぇ、なんで?」

「っ……」


 あ、だめだ、いろいろ考えちゃうとまた求に酷い事してしまいそう。中の前立腺を暴力的なまでに力強く押し込むと、求は打ち上げられた魚のように体を跳ねさせた。答えが出るまでこうしていたけど、これは辛すぎるようで、はくはくと口を動かしただけで声が出てこない。仕方ないので手を止めて、代わりに胸元に口を寄せてかりっと乳首を噛んだ。


「ぅヒッ!!」


 ささやかな抵抗だろうか、求が俺の髪の毛をぬるい力で掴んだ。強請ってるようにしか見えない。噛んだ後に唾液を染み込ませるように舐め、そしてもう一度噛む。そしてまた舐める、を繰り返すと求は必死に首を振って声を荒げた。


「自分でっ!あッ!じぶんで、やった、から」

「え……」


 は?、と、俺は顔を上げて所在なさげに視線を泳がす求を見た。


「待って、いつ……」

「み、水百が、お風呂入ってる時とか、俺がお風呂入ってる時とか、買い物行ってる時とか……」

「__なんで?」

「……」


 求は恥ずかしそうに口やら目やらを固く閉じていた。その顔が可愛かったので、俺は謝るようにその顔に何度もキスをした。すると求も観念したようで、ぷるぷると口を震わせた。


「いつでもできるように」


 ……なんだそれ、なんだそれ!


 俺は気持ちがせり上がり、思わず求をぎゅうっと抱き締めた。好きな子が、俺のために、こんなに健気なの、どうしたって可愛すぎる。俺の中心に熱が溜まるのを感じる。ぐっと求のものにあてて、本能的に腰に力を入れると、求もそれに感じたようで、鼻から抜けたような声が聞こえた。このままゴリゴリと押しつぶしてぐちゃぐちゃにしたい気持ちもあるけど、やっぱり今日はとびっきり優しくしてあげたい。健気に俺を待っていた求にご褒美をあげないと。


「はぁ、丞……、可愛い、可愛い」

「ん、んぅ……」

「入れてもいい?我慢出来ない」

「うん……」


 求は恥じらいながらこくりと頷いた。俺は呼吸をなんとか整えながら下着を下ろし、完全に育った自分のものを求の後孔にあてがった。興奮で頭がくらくらした。なるべくゆっくり進めろ、と自分の中で何度も唱え、そのまま腰を動かした。


「__ッ、は、あ、あ、ァァァっ……」

「……あー……は、……」


 お互い、堪えきれないと言わんばかりの息が勝手に出てきた。求の中は温かくて柔らかくて俺を締め付けてきて、天国みたいだ。繋がりを実感すると急に目の前の男が愛おしくて大事な存在に見えてきて、その手を握った。求は汗をかきながらへらっと笑って俺の手を握り返してくれた。なんだか泣きそうになる。


 俺が異動するという話が出た日、求に「終わりにしよう」と言ったのは本音だった。

 怒りに任せて求に手を上げようとした時点で、全てが嫌になった。結局俺は、大嫌いで憎くてしょうがない、父親だった男と同じ血が流れているんだと思い知らされているようだった。頭の片隅で、下卑た笑みを浮かべる父親が俺を見てやっぱりな、と言ったような気がした。俺は、アイツとは違う。同じように暴力を振るって壊してしまうくらいなら、それならもういっそ、求を手放してしまった方がいいと思った。


「痛くない?」

「うん、っ、は、ぁ、ふふっ……」

「……なに?」

「顔が、前と全然ちがうから……。こわくない」

「!」

「だいじにされてる、感じがする」

「ハ……」


 求の中に入れたものが更に熱量を持つ感覚がした。今更ながら、自分でも求に酷い事をしたと思う。世間一般に言えば、あんなの強姦でしかない。それなのに、求は俺の手を取ってくれた。


「動くよ」

「……あ、あ……あっ、あっ!」

「はぁ……丞、丞、好き……」


 正直、そのまま求が逃げていたら、俺の側から離れて行ったら、俺はちゃんと見逃してあげていたのかは分からない。


「ひッ!あ"あっ!んっ!ううぅ!ッ、みなも、水百!」

「あは……きもちい?丞……っ」

「うんっ、うんっ!」

「ん……」


 泣きながら俺の指を握り締める求が堪らなく可愛くて、貪るように求の口に噛み付いた。求も無我夢中で舌を動かして、俺の動きを追っていた。俺も求も、本能で言葉を読み取る獣みたいだ。


 自分で終わりにしようと言ったけれど、そこで本当に逃げられたら、もしかしたら、やっぱり諦め悪く追いかけていたかもしれない。求は、俺の人生の唯一だから。


「俺も気持ちいいよ、可愛い、大好き」

「みみっ、……あっ!やめて、それっ」


 でももうそんな事はどうでもいい。最終的に求は俺を選んでくれた。最高の気分だった。求が、俺を選んでくれた!


「ンッ、ンッ、は、はぁっ!はぁっ!あ、も、い、い、いっ、……く、ぅ!」

「うん、俺も……」


 求がびくん!と大きく震えたのをきっかけに、俺も顔を歪めて中に精を放った。数回に分けて出し切ったその量はとても多く、収まり切らない精液が隙間から垂れてくる。嫌だな、全部余すこと無く、その中に注いで満たしてやりたい。

 2人の呼吸が部屋に響く。俺は倒れるように求に覆い被さった。どこにも行ってほしくなくて、求を抱き寄せた。


「んっ……ふ、重いよ……」

「……」

「……王野?」


 首元に顔を埋め、すうっと息を吸った。求の匂いだ。ずっと泣いてばかりだった小さい頃からなにも変わらない。


「時々、俺が求に捨てられる夢を見て気が狂いそうになる」

「え……」

「求は他の人を選ぶんだ。俺はそれに絶望して、でも変わらない毎日を送って、どんどん自分が空っぽになる」

「……」

「大切なもの、求だけだから、いなくなったら俺……死んじゃうかも」


 最悪な結末を思い浮かべて気を落とした。冗談なんかじゃない。求が近くに存在する心地良さを知っておきながら、求のいない世界で生きながらえるなんて、死んでるようなものだ。そんな地獄を続けるくらいなら、本当に死んだ方がマシだと思う。 

 そんな事を考えていると、自分のこめかみに柔らかくなにかが押し当てられたのが分かった。離れる瞬間、ちゅ、と音がする。顔を上げると、求が聖母のような顔をして俺を見ていた。心臓が音を立てる。息を呑みながら言葉を待った。


「死んじゃったら嫌だなぁ」

「……!」

「せっかく俺達また出会えたんだよ。離れていた時間の分まで、いっぱい一緒にいよう」

「あ……」

「あの時出来なかった事とか、やりたい事ある?」

「………………す、水族館。俺も、行きたかった」

「そっか。お仕事お休みの日、一緒に行こうよ」

「……求の家に飾ってあった大きいクリスマスツリー、綺麗で好きだった」

「来年は、大きいツリー一緒に飾ろう」

「……いいの?」

「うん、だってずっと一緒だし。2人で出来る事は2人でやろう」


 そう言って求は微睡みながら笑った。

 ああ、好きだ、大好きだ、やっぱり俺には求しかいらない。もう一度求の首元に顔を埋め、小さく息を吐いた。


 最後に求は俺を選んだ。俺は、求に選ばれた。俺は勝ったんだ!

 誰にも渡してやらないし、誰も踏み込ませてやらない。だって求は俺のものだし、俺は求のものだ。幼少期の俺を救って、今の俺も救ってくれたんなら、きっと死ぬまでずっと俺の手を取ってくれる。俺を、綺麗な外側へ連れてってくれるはずだ。


 求は間違いなく、俺だけの救世主だから。


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