オンリーワンのわん

ゴコイチの番外編🔞です。今回のお相手は…?


⚠注意⚠

こちらは本編とはまた別の世界線です。パラレルワールドです。似て非なる世界なので、本編の将来がこの話とは限りません。

ゴコイチのエロ書こ♪と思って、軽い気持ちで書きました。ですが、エロと呼べるほどの内容じゃないです。挿入無しどころか、それ以下も…トホホ、って感じです。






1

 世の中には言葉では説明できない、理屈抜きのパワーが存在したりする。どこが好き、とか、どこがいいのか、とか質問されてもなんとなく返答に困るし、多分客観的に見ればもっと魅力的な人なんていっぱいいる。でも、一宮にはよく分からないキューシンリョク的なものがあると思う。キューシンリョクって、俺が専門学校に通ってる時に誰かが使ってた。


「三好、幼馴染ってだけで、ここまで出来るの?」


 目の前から、滑舌が定まらないふやふやとした声が聞こえ、少し考えた。

 二井は勿論一宮の事が好きだ。ずっと前、かなり昔から。好きっていうのは、恋愛的な意味で。四ツ谷も多分そうなんだろう。自覚が少し遅かっただけで。五藤は……うん、どうなんだろう。でも、普通の友達に向ける感情ではない。じゃあ、俺は?


「……出来るよ。だって俺達、ただの幼馴染じゃないでしょ」


 へ、とだらしなく口を開けた一宮に手を伸ばした。ほんのちょっとの罪悪感と、とてつもない高揚感。みんなには申し訳ないけど、一宮を恋人にするわけではないから許してほしい。これはアレと一緒だ、我が家の犬を可愛がるのと同じ。だってほら、目の前でだらしなく泣き喚いてる一宮はこんなにも可愛いし。





2

 少し珍しいけど、俺と一宮の2人で下校するのが当たり前になっていた期間があった。高3の秋以降くらいだった気がする。というのも、俺も一宮もみんなより早く進路が確定していたからだった。俺は美容系の専門学校にAOで受かり、一宮は既に就活を終えて地元の工場への就職が内定していた。あとの3人は順当に大学入試を受ける事になっていたので、俺達は1抜けで精神的に身軽になっていた。

 他に進路が決まっている友達と遊んだり、普通に彼女を作ってみたり、なんて放課後の過ごし方もあったんだろう。けど、それをやるよりまず先に一宮から「これからは俺と一緒に下校して」と頼まれたし、過保護な二井からも「あいつを1人で帰らせるな」と釘刺された。受験勉強により放課後一宮と一緒に帰れない日々が続いた二井は、あの時冗談抜きで20歳くらい老けていた気がする。そんな二井に血を吐くような形相で頼まれれば、素直に頷くしかなかった。というか、普通に2人に言われるより先に「暫くは俺が一宮の保護者かぁ」と当たり前のようにそう思った自分がいた。受験で仕方ないとはいえ、誰にも相手にされない一宮が俺達の知らないところで何をしでかすかが分からない。だから、俺がちゃんと見張ってないと。昔の俺ならまだしも、こんな不安定な時期に一宮をほっとくことなんて出来なかった。これは使命に近い。


「俺なー、もうすぐ18歳になるんだぞ。凄くない?」

「凄いの?」


 そんな、一宮と2人で下校していたとある日。9月に入っても残暑はまだまだ続いていた。9月は一宮の誕生月だった。まだまだ誕生日が嬉しいらしい一宮はわくわくとしながら話していた。


「だって、お酒もタバコも解禁だろ。もう俺も大人だ」

「……? え?」

「え?」

「勘違いしてない?」

「え?」

「お酒とタバコは20歳からだよ」

「え!? 嘘!?」

「……本当だよ」

「お、俺、誕生日にコンビニでお酒買おうとしてた……」

「……」


 一宮は馬鹿なのだ。俺も馬鹿だけど、これは流石に笑えない。もうツッコミすら入れる気力もなかった。そして、一宮は何かに気付いたのか、ハッとして顔を上げた。


「じゃあ、もしかして、ああいうのも20歳にならないと……」

「ああいうのって?」

「……えっと」


 その時、ちょうどタイミングよくスマホが鳴った。画面を見るとうちの2番目の姉ちゃんの名前が表示されていて、最大級に広角と眉を下げて仕方なく電話に出た。


「はぁ〜い……」

『コーラ、ポテチ、チータラ!』

「自分で行ってよ! 俺もうほぼ家に近いとこまで来てんの!」

『なに?電波悪いな、よく聞こえねえ』

「嘘つけよ! 俺は行かないからね!」

『叶斗にジャストサイズなワンピースでも作ろうかな。ちょうどいいとこにリメイク出来そうなお前の服あるじゃん』

「マジで最悪! 分かったよ、買って帰るから!」


 盛大にため息をついて通話を切った。実の姉が害悪過ぎて泣きそう。しかもこんなのがあと3人もいるのだ。三好家の女は強い。俺は父さんと一緒になって尻にしかれるしかない。

 一宮に謝ってここで解散しようと思って横を見ると、その存在が無かった。辺りを見渡すとすぐそばの公園に移動していて、手入れされていなさそうな、草木が雑然と生えている所にしゃがんでじっとしている一宮の後ろ姿が見えた。なんか怪しいな。俺は後ろからそっと一宮に近付いた。


「なにしてんの?」

「ウワーーーッ」


 俺の声にびっくりしたのか、一宮はその場で尻もちをついた。どうやら床に落ちている何かを見ていたようだった。そんなの、当然なんなのか気になるので、首を伸ばしてそれを確認した。一宮は顔を赤くしながら手のひらで必死に隠そうとしていた。


「なんでもないっ! 帰ろ、帰ろ!」

「なんだよその反応、あやし〜。エロ本か?」

「う……」


 一宮の動きがピタッと止まった。え、と思い、一宮の手元を確認して、それが正にビンゴだったので、凄い勢いでそれを奪い取った。ページタイトル、「綺麗なお姉さんに甘くいじわるに責められたい。」


「ちょっとォ!?」

「違う! 違うって! だって、なんか落ちてたから、近寄ったらたまたまそれで!」

「何ページ読んだ!?」

「そのページだけ!!」

「嘘だよ、だって目めっちゃ泳いでるもん!」

「……は、8ページくらい……」

「……結構ガッツリ読んでんじゃん……」


 顔を真っ赤にする一宮と、真っ青にする俺。一宮にこういう娯楽は与えないようにしていたのに。だって、絶対興味持つもん。コンビニの雑誌コーナーを横切る時すら雑誌側を俺達が歩くくらい徹底してたのに。まさか、こんな所に罠が落ちていたなんて。


「一宮、帰るよ」

「そ、それ、どーすんの?」

「俺が責任もって捨てます」

「え!?」

「えって……いや、……絶対許さないからね!?」

「やっぱ、条例違反になるのか?」

「ン“ッ、フフ、……うん、そう」


 至極真面目そうな顔で一宮がそう聞いてきたので、思わず笑いそうになったのを堪える。

 一宮はこの情報社会に生まれておきながら、びっくりするくらい純粋培養で育った。俺達はそんな一宮に、こういう18禁コンテンツは高校卒業までに見ちゃうと条例違反で警察に捕まるという嘘の刷り込みをずっとしてきた。一宮はそれを疑いもせず信じているらしい。その疑いのないまなこが俺を見る。


「こういうのも、20歳になるまで駄目?」

「こういうのってのは……えっと、閲覧? それとも、こういう行為ってこと?」

「……行為」

「………………高校卒業までは絶対駄目。20までとは言わないけど、……いや、……20まで辞めといた方がいいよ」

「なんで?」

「……」


 テキトーな事言っちゃったな。頭の中にいる幼馴染3人が軽率な事を言うなと騒いでいる。俺はみんなのために、この『確実に一宮に貞操を守らせる時期』を伸ばしてるんだよ。あくまでみんなのためだから。俺の馬鹿故のテキトーであり適当な口八丁、もとい嘘が顔を出す。


「アレだよ、20までにそういう事すると免疫がズタズタになって性病にかかりやすくなる。最悪死ぬ」

「死ッ!?」

「そう、20歳にならないと免疫が完成しないから、マジでやめといた方がいいよ。長生きしたいんなら」

「な、なんっ……エエ!? お、俺のお母さん、俺の事19で産んだって……じゃあ、俺のお母さん死ななかったの、凄い奇跡!?」

「いきなり生々しいな」

「帰ったらお母さんにありがとうって言わないと」

「頼むから、お母さんありがとうの言葉だけで止めといてね」


 ほえ〜、と口を開けている一宮を見下ろし、なんだか悲しくなってきた。一宮が本当に馬鹿だ。なんでこんなに馬鹿なんだ。誰がどう育てたらこうなるんだ。俺達だな。こんな馬鹿を騙している自分にも悲しくなってくる。


「どうしよう、俺エロ本見ちゃった。8ページも見ちゃった。警察の人に怒られるかな」

「警察には秘密にしといてあげる」

「……三好、いいヤツだな!」

「……はは」


 キラキラとしてる顔から目を背けて苦笑いした。本当にいいヤツはまずこんなしょうもない洗脳をしない。

 めんどくさいけど、なんとなく一宮を家まで送った方がいいと思い歩き出した。でも一宮は俺が手にしている雑誌をじっと見つめてその場で固まっていた。ダメダメ、一宮にはまだ早い。


「帰ろう」


 無理やり一宮の手を繋いで引っ張った。何も言わず着いてきてくれたけど、多分さっき見たエロ本の事考えてんだろうなと分かるくらい、黙りこくっていた。だから、気を紛らわせるために強引に話題転換しようとした。


「この前スコーン作ったんだけど、美味しかったから今度一宮にも作ってあげ」

「大人になったら、俺も綺麗なお姉さんにああいうのやってもらいたい」

「るーーーーーー」


 話題転換、不発。

 負けた、普通に、俺のお手製スコーンはエロ本に負けた。俺は握っていた一宮の手をミシミシと締め付けた。


「いてぇよ!」

「は? なんて?」

「……いや、冗談だって! 三好ならノってくれると思ったから……まさかそこまで条例に厳しいとは……」


 一宮は気まずそうに俺を見て怯えていた。いけない、と思い必死にいつもの笑顔を浮かべる。


「俺でよかったね。特に二井と五藤の前でそういうの言わない方がいいよ。ってか、絶対言わないで」

「なんで? あいつらも条例に厳しいの?」

「うん。めちゃくちゃ厳しい。もういいでしょ、俺のスコーンの話の方が楽しいよ」

「スコーンって、あの酸っぱいの食べた時の口みたいなやつ?」

「……それは多分カヌレじゃない?」

「え? カヌレって海のやつじゃないの?」

「カヌーかな、それは」

「カヌーとボートとカヤックって何が違うんだ?」

「スコーンからその議題に持っていくの凄いね」


 一宮は馬鹿なので話題をすり替える事が出来たらこっちのもんだ。この事件は俺が早めに隠蔽したので、一宮は高校卒業までちゃんとこの条例を守ってくれた。

 そして、数年後自分でも思い返す事になる。あの時この馬鹿みたいな条例を守っていたのは一宮だけではなく、俺もそうだった。一宮はこの条例があるからこそ条例に守られていた。なんと、俺から。





3

 高校を卒業してから数年が経った。俺は今年から社会人になったし、一宮に関してはもう社会人3年目だった。立派な大人である。他の3人はまだ大学3年生だし、これだけ立場が違うと、やっぱりみんなで会うことがなかなか出来ていなかった。一宮の事とか、みんなの事を蔑ろにしていたわけではない。サロンで働きながら学生時代のツテでモデル業もしていたので、普通に忙しかったのだ。そのおかげでお金はあったけど、どこに使うわけでもなく、ただ実家で飼っているペットのためだけに貯めていた。なんとなく、「俺こんなに顔も性格もいいのにこんな人生でいいのか」と悩んでたりもした。まあいいか、動物はなによりも可愛い。


「ハナぁ、俺疲れちゃった」

「わふっ」

「おー、おー、ハナは賢いな」


 休日なのに撮影の仕事が入って、それだけで貴重な休みがほぼ終わってしまった。疲労により、リビングに入ってその場にいた愛犬のハナに抱きつくと労うかのように俺の体をぺろぺろと舐めてくれた。可愛い。小さい犬は可愛いけど、ハナみたいに大きい犬も正義である。俺がハナをわしゃわしゃと撫でていると、他の子達も俺に寄ってきた。現在三好家では犬2匹、猫、インコ、うさぎ、熱帯魚を飼っている。親や姉ちゃん達はもっと増やしたいと言っていた。軽く動物園だ。このせいというか、このおかげというか、俺が独り暮らしを出来ないでいる理由の全てだ。だって俺んちのペットみんな可愛いから。今更1人で暮らすなんて寂しくて死んじゃいそう。

 そんなペット達に囲まれてしまったので、嬉しくて写真を撮った。そこそこフォロワー数のいるSNSにそれを投稿すると、数分後に誰かからのメッセージが届く。可愛い、と一言。ユーザーID的に、多分一宮だろう。一宮は高校を卒業してこういうSNSもやり始めた。今まで興味がなかったらしいけど、みんなと離れたのが寂しかったのか、いきなりやり始めた。SNS上ですら最近全く会話していない一宮からの反応が少し嬉しくて、俺とハナの自撮りをDMに送ってみたりした。すると、すぐに一宮から返信がくる。


『可愛い、触りたい』

『今日仕事終わり暇だったらおいでよ』

『行く!』


 画面の向こうで尻尾を振って喜んでいる一宮の姿が想像できて、思わず微笑んだ。こういうのでいいんだよ。今日は頑張ったし、仕事で他人と関わるの疲れたし、一宮くらいでちょうどいい。なんて、上から目線で謎の言い訳をしていたけど、柄にもなく部屋を片付けてみたりした。一宮と直接会うのは本当に久しぶりだ。

 あの一宮が、と思うけど、高校を卒業してから一宮も一宮なりに俺達と連絡を取るのを遠慮しているらしい。遠慮ってなんだよ。あの頃はあんなにずけずけ俺達との予定を組んでいたのに。もっと連絡してきてよ。俺達はシャイなので、なかなか自分から連絡したり誘ったりが出来ないのだ。こういう、ペットを触りにくるなんて口実でも無い限り、一宮を誘えない。そもそも、こういうふうに捻くれてなかったら、俺達は一宮との関係性にここまで変に執着していない。……執着? って、俺は、なんで一宮に執着してんだろ。


 ベッド横のサイドテーブルに放置しているフリスビーを手に取って、それを眺めた。高校卒業前に一宮がハナとフリスビーで遊んだ事があった。それが楽しかったらしく、一宮は自分で買おうか迷ってたくらいだ。ただ、フリスビーの難点は、相手がいないと遊べない事だった。もうすぐこんなふうに簡単に遊べなくなるよ、と言ったらしょんぼりして買うのを諦めたらしい。それが可哀想だったので、プレゼントしようと思って新しいフリスビーを買って、結局渡せずに数年経ってしまった。もう今更いらないだろうな。





4

「三好だ! おじゃまします!」

「三好ですよ〜、どうぞ」


 午後9時頃、仕事終わりの一宮がやって来た。驚く事に、成人式以来なので会うのは半年ぶりくらいだ。なんだかやけに明るい。作業服は着ていなくて、どこで買ったのかよく分からない絶妙にダサい大きめのTシャツと高校の時の体操服だったハーフパンツを着ていた。一宮の手には大きめのビニール袋が提げられていた。


「それなに?」

「んひ、お酒!」

「……もしかしてもう飲んだの?」

「うん、2本だけ。はい、あげる」

「うお……あぶないな」

「あ! ハナ!」


 お酒の入った袋を受け取ると、一宮は靴を脱いで若干足をもつれさせながらハナに近寄っていった。いきなり騒がしい。ハナは基本的に人間が大好きなので、最初は興味で一宮に近寄ろうとしたが、何かに気付いたようでワッ! と一鳴きして俺の方に飛び込んできた。


「あれぇ?」

「お酒の匂いが駄目なんだよ、多分」

「えぇ、駄目じゃん!」

「もう今日は諦めな」


 俺がそのままわしゃわしゃとハナを撫でると、一宮はそれをじっと眺めた。なんか、一宮変な顔。


「じゃあ普通に飲む。三好の部屋でいい?」

「もー、いいけど……」


 一宮は強引な足取りで歩いて行き、階段の手前で「あっこちゃん、おじゃまします!」とリビングに向けて叫んだ。そのリビングからは何も返ってこない。ちなみに、あっこちゃんとはうちのお母さんだ。


「今日お母さんもお父さんもいないよ。あと姉ちゃん達もいない」

「え、みんないないの?」

「俺を置いて温泉旅行に行ったよ……」

「いじめられてんじゃん」

「ペットのごはん係がいるからね。じゃん負けした」

「三好んちってそういうとこ容赦ないよな」

「そういうとこってか、何においても容赦ないよ」


 じゃあ俺が今日来てよかったな、と言いながら一宮は階段を上がっていった。それはそう、とは思ったけど声には出さず。

 俺の部屋に入りテーブルの上にお酒を置くと、目の前のこいつは乾杯もせずにチューハイの缶のプルタブを開けて飲み始めた。あんな一宮でも、ちゃんと合法でお酒が飲める歳になったのだ。恐らく年確必須ではあると思うけど。


「明日は? 仕事ないの?」

「うん、普段は土日仕事なんだけど、なんか最近忙しかったから休日出勤多くて、それで振休2日も貰った。珍しいんだぜ、土日どっちも休みなの」

「ふうん、俺と一緒だね。俺も珍しく明日休みだから」

「じゃあ三好もいっぱい飲んで。ほら、酔って〜」

「えー、俺ザルだから酔えるかな……」


 適当に目の前にあった缶ビールを手に取って口にした。一宮もそれを見て酒を煽る。なんか変な感じだな。見た目は高校の時とほぼ変わっていないのに、一宮がこんなに一生懸命お酒を飲んでるの。背徳感すらある。俺はあんまり酔わない体質だけど、一宮はそうではないみたいで、既にほろ酔い状態だった。


「どう? 最近。仕事とかモデルとか」

「あー、順調かな」

「新卒だろ? 先輩とか怖くない?」

「全然。そんなに人数もいないし、みんな優しいし。人に不満はないかな」

「サロン? って、なにしてんの?」

「眉毛サロン。分かる? 眉毛の形綺麗にしてあげるの」

「だから三好の眉毛そんなキレイなの?」

「これはね、自前です」

「ウザッ」


 一宮は早くも1缶を飲み終えたようで、次のチューハイに手を伸ばしていた。苦いお酒は飲めないらしい。


「一宮は?」

「俺ぇ?」

「忙しかったんでしょ。まあ、忙しいだけならいいんだけど」

「なんだよ」

「忙しいだけじゃないんじゃない?」

「……」


 なんとなく、そんな感じがした。俺の家に来た時から既に酔ってたし、というか普段あんまりお酒なんて飲まないし、そもそも俺がペットの写真を投稿しても普段はコメントまでくれないし。一宮も一宮で俺に会いたい理由があったのかもしれない。

 そんな一宮は少し黙って、2本目のチューハイを豪快にぐびっと煽った。勢いの割に優しくテーブルの上に缶を置き、ぼそっと呟いた。


「仕事、辞めたいかも」

「ほお」

「……」

「……なに?」

「いや、そこはもっと掘り下げろよ。なんでとか、何かあったの、とか」

「めんどくさい女子かよ」

「察しろよ! 分かるだろ、俺のこの不満気なオーラ」

「もう、分かったよ。何かあったの?」

「まあ、特に大きい事件とかはないんだけど」

「なんなんだよ」


 テーブルの下で一宮の足を蹴ると、一宮はム、と顔を顰めた。そのままげしげしと無言の攻防を繰り返すと、手にしていたチューハイがぱしゃっと一宮の服にかかった。あ、と口にしただけで、全く焦る様子のない一宮を見て、仕方なく俺が近くにあったティッシュで服を拭いてあげた。それに構わず、缶に残ったチューハイを飲み続ける一宮。もう結構酔っているようだ。多分だけど、そこそこにストレスを溜めているっぽいな。


「先輩? 後輩?」

「どっちもイヤ」

「仲いい人とかいないの?」

「いない」

「……うーん」


 これは俺達が悪いんだろうけど、一宮に友達を作らせなさすぎて、一宮は俺達以外の人間との上手な付き合い方が分からないらしい。申し訳ない。申し訳ないけど、ちょっと気分が良い。なんせ、そうなるように仕向けていたから。いやいや、ホントごめんって思ってるよ。


「後輩にはナメられるし、先輩からはこき使われるし、なんか失敗したら責任なすりつけられるし、俺のせいじゃないのに」

「可哀想に」

「俺ばっかいいように使われるんだよ。彼女もいないし予定ないだろって、欠員出た時に俺ばっか出勤させられる。俺以外も絶対暇なくせに」

「嫌ですって言えばいいじゃん」

「言えないんだよ。振休はちゃんと貰えるから強くは出られないし……予定ないのは事実だし……」

「まあ、そうだよね」

「だから、彼女ほしいのに」

「……おっと」

「でも工場なんて男の人ばっかだし。紹介してくれるような人もいないし、出会いないし……」


 一宮の口から彼女という単語が飛び出すと、なんとなく心臓がドキッとする。いるわけがないと分かりつつも、もし万が一の事を考えると怖い。主に外野が。あいつらが何をしでかすかが分からない。


「後輩にも先輩にも馬鹿にされるんだよ、今まで1回も彼女できたことないの。あんな先輩達に相談するんじゃなかった。すぐ広められた……。俺より年下のやつのが全然経験豊富そうだし、俺完全に下に見られてる。最悪。職場の人みんな好きじゃない。けど、辞めたところで転職活動すんのも嫌だし。でも今の仕事続けるのも嫌だし……」

「……」

「……来週飲み会あるんだけど、俺絶対オモチャにされて終わる」

「断りなよそんなの」

「断れないもん。俺は予定ないの確定してるから……。断ってもどうせぐちぐち言われるし」


 一宮はまた次の缶のプルタブを開けた。

 思ったより根深そう。今の所俺に職場での不満は無いし、就職したばっかだから転職活動なんてしたことないし、というか就活自体もあんまり頑張らなかったし、何もアドバイスできる事が無いので愚痴をこぼす一宮を眺めるしかなかった。

 一宮は嫌な事を忘れるかのように、更に豪快にチューハイを飲み始めた。何故か目が離せない。上手く飲めなかったのか口の端から液体が溢れていた。あー、と俺の方が声を上げて咄嗟にティッシュで拭ってやると、一宮は缶を机の上に置いて、鼻をすすった。


「うう……」

「うわ」

「もーやだぁ〜〜〜……」

「ああ〜……」


 ぎょっとして一宮を見ると、唐突に顔をぐしゃぐしゃにして号泣していた。泣くまでの初速がトップレベルだな。よっぽど溜め込んでいたのだろう。


「やだぁ、大人楽しくない……高校の時に戻りたいぃぃ……」

「……」


 ぐしぐしと手で涙を拭いながら隠しもせずに泣いている一宮を見て、表現できない感情でいっぱいになった。自分がどんな表情をしているのか分からなくて、口元を手のひらで覆った。危ない。可哀想だなって思うけど、それ以上にあんまりよろしくない思いが沸いてくる。


「う、う……俺、一生こんなんだったらどうしよう……」

「……うん、イヤだねぇ」


 アルコールの匂いが漂う一宮を抱き締めると、涙をこすりつけるかのように俺の肩に顔を押し付けてきた。

 ンー、可哀想で超可愛いな。どうにかして助けてあげたいという気持ちと、どうにかしてめちゃくちゃにしてやりたいという気持ちがせめぎ合う。 俺も並に男だから。


「一宮、」

「んぅ……」 

「……はは」


 声を掛けると一宮は顔を上げた。真っ赤だし、ぐしゃぐしゃだし、みっともない顔。それが本当に可愛いな。今この家には他に誰もいない。家族もいないし、あの3人もいないし。だから、ちょっと魔が差した。いいよな、だって俺と一宮の関係だし。


 一宮の顎の下に手を添え、こしょこしょと指先で撫でるとくすぐったそうに身をよじった。そのまま手をゆっくり移動させて耳の裏や頭皮を触る。一宮は目尻を下げて微かに息を零した。あー、堪んない。


「一宮、俺がハナ撫でてる時、自分がどんな顔でハナの事見てたか知ってる?」

「ん、ん……」

「分かんない? 『羨ましい』って顔」

「う……」


 否定はしないらしい。耳まで赤くして俯いた一宮が素直で可愛かったので、頭を撫でてあげると俺に体重を預けてきた。満たされるな、心の中のなにかが。変に笑いそうなのを堪えて、にっこりスマイルをキープする。


「俺が一宮の18歳の誕生日の前に言った事、覚えてる?」

「なに言ってたっけ?」

「20歳まで駄目な事。お酒と、タバコと、あといっこ」

「……えっちなこと」

「うん。ちゃんと守った?」


 一宮は静かにこくりと頷いた。馬鹿だなぁ、一宮は。本当に可愛い。


「ね、昔一宮が言ってたやつ、俺がやってあげようか」

「……?」

「『綺麗なお姉さんに甘くいじわるに責められたい』のやつ」

「ほ、え、……え?」

「俺は綺麗なお姉さんじゃないけど、可愛いお兄さんではあるから」

「おっ……え、え、ぇ??」

「俺達さあ、もうえっちなことしても死なない年齢になったんだよ」


 視線をきょろきょろと泳がせる一宮に、高校時代何回も使ってきた、一宮が絶対言う事を聞いてくれる俺の最強に可愛い表情を向けた。指と指を絡めてをぎゅっと握ってあげると、火を噴く様に顔を赤くした。面白いくらいに唇がふるふると震えている。


「三好、幼馴染ってだけで、ここまで出来るの?」

「……出来るよ。だって俺達、ただの幼馴染じゃないでしょ」

「へ」


 一宮の顎に手を添えて、右の頬に軽くキスをした。本当に小さい頃に一宮とこういうのはやっていた。でも、今やるのは意味が違う。口を離して一宮の顔をじっと見つめていると、一宮は本当に恥ずかしそうな顔をしながらゆっくり頷いた。





5

「ッあ、あ、あぅ、それっ……」

「うん、気持ちいねぇ」

「んっ……」


 部屋にぐちゅぐちゅと生々しい音が響いていた。今一宮は俺のベッドの上で横になり、俺に下半身を晒していた。男なら誰が見ても未使用だと分かるくらい色が薄い。というか、毛も薄いし、本当に成人を越えた男なのか疑うほどだった。これがもしガタイのいい男だったら触るのも躊躇うんだろうけど、一宮のソレはびっくりするくらい抵抗無く触れてしまった。だってなんか、可愛いし。


「ん、は、はぁっ……あ、み、みよし、」

「ん〜?」

「でる、でる……」

「出ないよ、まだ勃ってないもん」

「う、う……」


 ローションでべとべとにした手で、一宮の性器をゆっ……くりと扱くと、じれったそうに太ももを擦り合わせていた。お酒のせいか、なかなか勃たない。でも感度は十分なようで、一宮は浅い呼吸を繰り返しながら必死に声を抑えようとしていた。そんな事をされたらこっちだって頑張りたくなる。

 一宮の耳元に顔を寄せ、ふっと息を吹き込むと、面白いほどびくっと肩を揺らした。


「あンっ!」

「ははっ、可愛い。耳弱いの?」

「ひ、し、知らないっ……」

「そうだよねぇ。ふーーっ……」

「うあああッ!!」


 もう一度耳の奥に息を吹きかけると、今度はビクンと腰が浮いた。腕を見ると、鳥肌が立っていてめちゃくちゃ面白い。一宮は耳が弱いなんて情報、二井とかが知ったら頭抱えるだろうな。


「ふーってされんの、気持ちい?」

「わか、わかんない」

「わかんない?それ多分気持ちいいんだよ」

「あっ、あっ、ん」

「ふぅーーーっ……」

「いやッ! あ、あッ!」


 面白い。これやる度に握った手で顔を隠しながらびくびく震えるのが堪らない。口は一宮の耳元に近付けたまま、ほぼ吐息の声量で優しく囁いた。


「可愛いね。気持ちい?」

「ぅア! そっ、それっ! 喋るの、やめて!」

「気持ちくない?ふぅーーー……」

「あ”っ、あっ、ッ! ひ、きっ……きもち、い、」

「ン、ふふ、んー……」

「ヒッ!? あ、あ”あ”あ”ッ!!」


 そのまま舌を伸ばし、耳の中をぐぽっと舐めると、一宮はほぼ叫びに近い声を上げた。下の方から、バタバタと足が暴れる音が聞こえる。楽しくなったので、更に水音を響かせるようにわざとらしく舐め回してみた。


「ッあ、ッ、♡ ……ッ、ッあ”ぁ、ぐ、ぅ、ッ♡」

「フフ……ン」


 必死に声を抑えようとしてるんだろうけど、メロメロな事は一目瞭然だった。マジで耳弱いじゃん、ハートマークで喘いでるじゃん。敏感すぎて鼻で笑ってしまった。

 耳を舐めている間も、一宮の性器を扱く手は止めなかったけど、ふと下半身を見ると萎えていたそれはちゃんと勃っていたので、一宮が如何に耳舐められフェチだったのかが思い知らされた。誰にも言わないでおこう。二井とかに教えられない。あのムッツリ、絶対やるだろ耳舐め。


 片方の手で耳のふちをくすぐるように触りながら、一宮の顔をまじまじと眺めた。口元に手をやっているけど、もう意味も無いくらい普通に声を出していた。目はぎゅっと固く閉じていて、なんだかいけない事をしている感がある。まあ、いけない事なんだけど。

 反応を見るに、多分カリのところを責められるのが弱いっぽい。そこを重点的に触ってやると、一宮は頭をふるふると横に振った。


「だめ、で、でる……!」

「出ちゃうの?」

「うん、うん、あっ、んぅ、はっ、はなしてっ……」

「えー、仕方ないなあ」

「〜〜〜ッふ、ふ、ぅ……」


 一宮がそう言うから手を離したのに、名残惜しげに腰がガクガクと浮いていた。ほんと、コイツはやらしいな。目を虚ろにして息を整えている一宮にキュンとしたので、汚れてない方の手で頭を撫でると安心したかのように目を閉じた。あー、なんだよ、めっちゃ可愛いじゃん。めちゃくちゃにしたい。こういうのなんて言うんだっけ、キュートなんたら。めちゃくちゃにしたいので、一宮が落ち着く前にもう一度性器に手を伸ばした。


「ひぁっ!? な、なんっ……」

「ここまできたらイきたくない?」

「いっ、いいっ! あ、あし、つるから!」

「へぇ?」


 そう言われて一宮の足元を見ると、足の甲と爪先がぴんと真横に張っていて、所謂足ピンの状態になっていた。足つるって、そういう事か。もしかして、自分でする時もこんな感じでやって足つったりしてるんだろうか。なんなの、一宮マジで面白可愛いな。ここで笑うと馬鹿にされたと思われるだろうから、必死に笑いを堪えて一宮に教えてあげた。


「大丈夫、足の力抜いて。爪先は上に向けて。痛くないし、怖いこともないよ。大丈夫、大丈夫……」

「ん、ふぁ、あっ、あっ……」

「うん、上手だね。そのまま力抜いて……気持ちいね」

「あっ、う、うぅ……も、も、ムリ……っ!でるぅ……」

「おっと」


 一宮の体がぶるっと震えたところで、もう一度手を離した。小さい睾丸がキュッと上がっていてなんか可愛い。望んでいた快感がこなくて、一宮はポカンと間抜けな顔をしながら俺を見上げていた。それが凄く可愛かったので、おでこにチューしてあげた。一宮も何も言わずそれを受け入れている。忘れかけた頃にさわさわと耳のふちを触ってあげると、びくっと肩が揺れて目尻が垂れ下がった。俺の動作でいちいち反応してくれるのが良い。


「ふーっ、ふーっ……」

「出せなかったねぇ。もっかいやろっか」

「う、うん、……ひゃっ!?」

「指の先でさぁ、そーっと弱い力で扱かれるのヤバいでしょ」

「あ”、あ”、あ”ぁッ!! それっ、それっ! や、や、やだぁッ!」

「はははっ! ヨダレ出てる」

「ひぃ、もう、もう、だめ! でちゃうっ__」

「ええ、早いなぁ」


 そしてまた手を離した。ちゃんとお利口に出ちゃう宣言してくれるから分かりやすい。手を離した瞬間、俺の手の動きに合わせて一宮の腰もついてきたのでニヤニヤしてしまった。一宮はもう泣きそうな顔をしている。みっともない顔、可愛いな。


「なんでっ、もぉ、いやだ……」

「甘くいじわるに責めてあげてるんだけど」

「うう、ばかぁ……」

「うん、俺の顔が可愛くってごめん」

「そんなこと言ってない……」


 次はさっきの触り方とは変えて、手のひら全体で覆うように扱いてあげた。でも乱暴にはせず、ナメクジくらいの速度で手を動かした。一宮は俺の言いつけを守って足先に力は入れてないけど、この力加減がもどかしいのか、必死に腰を浮かして俺の手のひらに性器を擦り付けてきた。広角が上がるのが止まらない。堪んないよな、こんなに性知識の無いやつが本能的に快楽を求めてこうなっちゃってるの。手は拘束してないんだから、自分で好きなようにオナニーすればいいのに。でもやんないんだよな、一宮は。俺が与える気持ち良さだけが全てだって思ってる。今俺は一宮の主人で、一宮は俺の可愛いペットなのだ。


「あっ! あっ! ぃ、っ、……っ! っ、……ぐ、ぅ」

「んはっ、分かりやすいよ」

「ぃあッ!……〜〜〜ッ!う、う、う”う”ぅぅぅ!!」


 多分イく瞬間を悟られないようにしたんだろうけど、秘密にしようとしてたのが丸分かりだった。寸前のところで手を離すと、一宮はかぶりを振りながらとうとう泣き出した。マジで可愛い。楽しい、最高。


「うあぁぁ、もうやだ、だしたい、みよし、やだぁ……」

「んー?」

「出したい、ださせて……」

「んー、どうしよっかな」


 考えるフリしてまた性器に触れた。絶対イけないように、1回ストロークしては手を離し、またストロークしては手を離した。擦り上げる度に、びくん!と性器が波打つ。絶対に俺に射精させる気が無いと気付いた一宮は、半狂乱になってジタバタと暴れた。


「あ”あ”あ”ッ!! もうっ! やあぁ!」

「あはははっ! ごめんごめん、流石に辛いよね。じゃあ、可愛くおねだりしてくれたらイかせてあげる」

「へっ……」

「何してもいいし、何言ってもいいよ。でも俺が可愛いって思うまでイかせてやんない」

「……っ」


 一宮の大好きな俺の可愛い顔のまま、べっと舌を出すと、一宮は顔を真っ赤にした。

 正直一宮が何しても可愛いんだけどな。でもエロ本も性行為もなにもかも規制してきた一宮がどんな事をするのか気になるし。

 ここで萎えられちゃうと困るので、一宮のものを扱く手は断続的に動かしたままだった。一宮は悔しそうに、恥ずかしがりながら耐えていたけど、俺に触られる度にヨダレを垂らしながらあうあうと声を漏らしていた。目がぐるぐると泳いでいる。一生懸命なにをしようか考えているんだろう。ちょっと助けてあげたくなって、一宮の耳元に口を寄せた。


「なんでもいいんだよ、頑張って言ってみて」

「はぁっ、あっ、ん……」

「言わないとずっとこのままだよ?」

「う……う、うう……」

「一宮、できる?」

「……」


 一宮の顔を覗くと、目に涙を溜めながら俺を見ていた。そのまま何も言わずに見つめていると、一宮は恐る恐る体を動かし、そして今度は一宮が俺の耳に口を寄せた。俺はピシッと固まった。


「……かなと、」

「っ、え、」

「かなと、かなと、かなと」

「え、え……、まっ、……」

「かなと……」


 そう囁いて、俺にぎゅっと抱き着いた。


 あ、駄目だ、普通にメチャクチャ勃った。


「かなとぉ……。も、むり……」

「ア、ア、ア」

「かなと、かなとくん、出したい、出させてください……」

「アアア〜〜〜〜〜……」


 俺も抱きしめ返した。物凄い力で。

 いや、なに、ほんとなに、可愛くおねだりでそれって、ほんとになに、ナニ……。


「マジでさあ!? どこでそういうの覚えてくんの!?」


 ムラムラが一周しイライラに変わり、その勢いのまま一宮のぷるぷると震えている性器を扱いてあげた。もう、甘くいじわるになんてテーマはとっくに頭から抜け落ちていた。なにが甘くいじわるにだよ。んな生ぬるい言葉で太刀打ち出来ない可愛さだろ、殺人級だ。


 欲しかった快感を手に入れた一宮は、目を大きく開き、だらしなく口からヨダレを垂らしながら嬌声を上げていた。


「あーーーッ! あぁっ! んあっ! きもちい、きもちいっ!!」

「はぁーっ、ヤバ、ちんこ痛……」


 目の前でよがり狂ってる一宮を見て、正直興奮が止まらなかった。女の子相手でも絶対こんなことならないのに。一宮はぐしゃっと顔を歪めながら、一心不乱に俺を見つめていた。心臓がうるさい。可愛い、可愛い!


「かな、っ、も、もういい? ん、あぅ! だしてもいいっ、?」

「うん、いいよ、っ、可愛いね、ほんと可愛い……」

「ひぅ、ううぅ! んぅっ! あっ! あっ!! で、ぅ、ううぅぅぅ〜〜〜ッ……!」


 一宮の目がぎゅっと閉じられた。射精する瞬間のその顔があまりにも可愛すぎて、最後の最後までしっかりとガン見した。

 散々我慢させたせいか、それとも本当に普段から自慰行為をやらないのか、手に溢れ出た精液の量はとても多くてドロドロとしていた。ヤバいな、流石に他人の精液見たらひくかと思ったのに、最早愛おしいまである。

 そして一宮を見ると、大きく呼吸をしながらぼろぼろと泣いていた。それにぎょっとして、ティッシュで手を拭って慌てて一宮を起こして抱き寄せた。


「ワーッ! ごめん、しんどかった!?」

「ち、ちが……きもち、よかったの、びっくりしたから……」

「……気持ちよかったから泣いちゃったの?」

「……ん」

「……えぇ」


 え〜〜〜〜〜。なんだそれ、なんだそれ、可愛すぎる。いやもう、可愛いとかのレベルじゃないな。全てを大事にしたいし、もっとめちゃくちゃにしてやりたい。どう考えてもこの存在を守っていかないといけない。今までよく平気でいられたな。誰のおかげだ?俺らだな。サンキュー昔の俺ら。


「頑張ったね。いっぱい気持ちよくなれて偉かったね」

「う、うん……」

「……? どうしたの、お腹痛い?」


 一宮は自分の下腹部を手のひらですりすりと撫でていた。やっぱり無理させちゃったかな、と思っていると、ううん、と首を横に振った。


「なんか、お腹の奥じんじんする、どうしよ……」

「は……」

「この中、なんかあるの?」

「……え。……え? もしかして、普段アナ二ーとかしてる?」

「? 穴に……?」

「ああ、してないよな……。……え?じゃあ、シンプルにナカが疼くの……?」

「うずく……?」


 一宮はぽかんとしながら首を傾げた。俺は長くため息をついた。


 コイツは、本当に……、なんだこの生き物は。

 経験ないくせに、どこを使ってヤるかも知らないくせに、いっちょまえにそんな事言って……。なんか怖くなってきた。一宮、何も知らないくせに受けのポテンシャルが高すぎる。こんなの、いくら幼馴染であっても絶対誰にも渡せないでしょ。あっという間に食われるよ。……嫌だな。せっかく手垢をつけたのに。


「……一宮、さっきみたいなの、またやりたい?」

「え」

「今やった、気持ちいいやつ」

「え、え……」

「自分でするより気持ち良かったでしょ? 次はもっと気持ちいい事してあげる」

「うぇ……」


 あけすけな質問に、一宮はたじたじと恥ずかしがっていたけど、俺が一宮悩殺スマイルを向けると、恥ずかしがりながらゆっくり頷いた。一宮もちゃんとした男の子だもんな。気持ちいい事は大好きなはずだ。俺は期待通りの回答を貰えて、高らかに笑い出したい気分だった。でも叶斗くんはそんな事しない。いつもみたいにみんなが好きそうな、優しい笑みを浮かべる。


「じゃあ、俺のペットになる?」

「ペ……え?」

「ペット」

「ペットって、あの? ハナとかと一緒?」

「うん、そのペット」

「……そういえば昔言ってたな」

「言ったっけな」

「あの時は楽しそうって思っていいよって言ったけど」

「ならいいじゃん。ていうか、それならもう既に一宮は俺のペットになってたんだな」

「いや、あの……」

「嫌? 俺のペットになったらいいことしかないよ。俺料理出来るし、ごはんあげられるし、俺との予定たくさん出来るから飲み会も断れるでしょ。あと俺貯金いっぱいあるけど、ほとんどペットのために使ってるから、一宮にもお小遣いたくさんあげられるし。あと飼い主はこんなに可愛くて優しいし。俺、動物のお世話なら誰よりもちゃんとするよ。だから、一宮がほしがるんならいっぱい撫でてあげるし、気持ちいこともたくさんしてあげる。今まで寂しくなりそうだったから出来なかったけど、一宮と一緒なら実家出て暮らしてもいいし。働きたくないんなら働かなくてもいいよ。ペットだったら働く必要もないしね。どう? 何が不満?」

「あ、あ、え……? ……いやでも、俺、やっぱりゆくゆくは彼女とかほしいし……ぺ、ペットしてたら、彼女なんて作れなくなる……」

「ほしい? そんなの」

「え……」


 手を一宮の顎に添え、こしょこしょと指先で撫でてあげた。一宮はくすぐったそうに目を細める。もうこれを受け入れてる時点で、確実に落ちてるけどな。


「恋人より、ペットの方がよくない? 恋人なんていつ別れるかも分からない無責任な関係より、ペットと主人みたいに、一生の命を大事にする関係の方が絶対いいよ。飼い主は、愛犬を守り抜く義務がある。大事に育てる義務がある。でも恋人はそうじゃないでしょ。合わないと思ったらもうバイバイなんだよ。俺はペットに対してそんな事絶対にしない。懐かなくても、やんちゃでも、言う事聞かなくても、絶対に捨てたりしない。命を飼うってそういう事だから」

「お、俺は三好に命を飼われるの?」

「うん。でも俺は自由主義だから、束縛はしないよ。ちゃんと大事にするし、束縛もしない。いっぱい可愛がるよ。毎日この顔が見れるし、自由だし、お世話もしてくれるし、この顔にデロデロに愛されるの最高じゃない?」

「あ、う、う……」


 輪郭に沿わせて手を動かし、さっき散々責めた耳のふちを優しくなぞった。それだけで一宮はぶるっと震える。ね、と笑いながら首をこてんと傾けると、そんな俺が可愛かったのか、一宮の唇がぎゅっと固く結ばれた。少し待ってあげると、一宮は小さく、ゆっくりと頷いた。俺、可愛くてよかったな。


「じゃあ、一宮は今日から俺の可愛いペットね」

「……なんか、大事な何かを失った気がする……」

「なんでぇ、いつか俺のペットでよかったって思える日がくるよ」


 手始めに、一宮をぎゅっと抱き締めて頭や背中を撫でてあげた。体重が傾き、俺の体にぽすんとおさまる。満更でもなさそう。一宮、絶対俺に撫でられるの好きだと思うけどな。


「嫌な事忘れられた?」

「え、……あ、うん」

「じゃあチューしよっか」

「じゃあって何!? それどういう接続詞なん!?」

「んふふ、一宮、唇乾燥してる」


 一宮の頬に手を当てて、唇を合わせた。一宮は驚いたのか、目と口をきゅっと閉め、ぷるぷると震えた。いちいち可愛いな。無理やり口をこじ開ける事も出来るけど、今はこれで許してあげよう。


 暫く続けていると一宮は酸欠で顔を赤くし始めた。ちょっと可哀想だったので唇を離すと、大きく鼻で息を吸って、とろんとした目をして俺にもたれかかった。


「ヤバイ、酔った……」

「今更?」


 俺んちに来た時から酔ってたけどな。いや、照れ隠しか。ほんと可愛いな。これだけ可愛いんなら、やっぱり俺が責任を持って育てた方がいいと思う。可愛い人は可愛い人が育てるべき。暴論だけど。


「もしも俺達が一緒に住んだら、一宮に躾けたいこといっぱいあるよ」

「し、しつけ……?」

「一宮は俺の可愛いペットだからね。家に帰ったら絶対チューするとか、毎日一緒に寝るとか、朝起きたらちゃんと髪の毛セットしてあげるとか」

「それは躾なの? ってか、俺は三好と一緒に暮らすの?」

「うん。イヤ?」

「嫌じゃないけど……、うん、まあ、……それでもいっかぁ……。1人で死ぬよりマシ……」

「やったー!」


 一宮を抱き締めると、胸元で小さく笑う声が聞こえた。一宮の言質は取ったし、あとはあいつらを説得するだけだ。それが最難関なんだろうけど。というか、多分無理だと思うけど、一宮はいいって言ってるし。いざとなったら2人で隠居しよう。それでも、死んでも追いかけてくるんだろうな。俺だったらそうする。


「まずはそうだね、お風呂入らせてあげないと」

「いや……ええ、1人で入れるよ……」

「一宮なんて5分くらいでお風呂上がるでしょ?だめだめ、俺がちゃんと丁寧に洗ってあげる」

「いや、でも」

「いやなの? なんで? えっちな気分になるから?」

「……」


 その通りだったのだろう。一宮はもごもごと口を動かし、「そうじゃないけど」「だって俺成人してまでそんなこと」「そういうんじゃなくて、普通に……」とぶつぶつ呟いていたけど、じっと待っていると、分かった、と弱々しく頷いた。チョロい。こんなんでいいのか。いや、こんなんでいいのだ。だってもう俺のペットだし。俺に対してチョロいんなら、ただただ可愛いだけだ。


「あ、そうだ!」


 ふとサイドテーブルをの上見て、それを手に取った。若干埃をかぶっているオレンジ色のフリスビーは、数年ぶりに動きを見せた。


「これあげる」

「え?」

「まさかちゃんとあげるタイミングがくるとはね〜」


 一宮はフリスビーを受け取り、それをじっと眺めた。そして数秒後閃いたかのように、あっと声をあげた。


「ハナの! ハナと遊んだやつ!」

「うん、でもハナのやつじゃなくて、俺が一宮にプレゼントするやつだよ」

「なんで? 俺にくれるの?」

「うん。今度俺といっぱい遊ぼ」


 だって一宮は俺のペットだし。とは言わなかった。一宮はフリスビーを受け取り。胸元でそれを嬉しそうにブンブンと振り回した。可愛い。可愛いな、俺のペット。いっぱいよしよししてあげたい。


「さ、一緒にお風呂入ろっか。んで、一緒に布団入って、一緒に美味しかったご飯の話とかして、一緒に寝よ。明日はハナ達とこれで遊ぼっか」

「うん! ハナ、ちゃんと撫でさせてくれるかな」

「ダイジョーブ、ハナは家族思いだから」


 俺の家族、また増えちゃったなあ、と呟くと、一宮はアホそうに笑いながらかぞく? と返した。可愛いなあ。本当に馬鹿で、世界で一番可愛い。








●一宮 守

多分どの世界線の一宮よりも頭が弱い。これからどんどん三好好みの体に調教されていく。三好のペットになる事によって、他の3人がどうなるかは1mmも考えなかった。


●三好 叶斗

手中におさめたら、デロデロになるまで甘やかすタイプだった。将来の自分のために一宮の貞操を守り続けていたと思うと感慨深い。正直、「恋人にしたい」より重いと思うよ!






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