ゴコイチの番外編🔞です。今回のお相手は…?
⚠注意⚠
こちらは本編とはまた別の世界線です。パラレルワールドです。似て非なる世界なので、本編の将来がこの話とは限りません。
ゴコイチのエロ書こ♪と思って、軽い気持ちで書きました。ですが、エロと呼べるほどの内容じゃないです。挿入無しどころか、それ以下も…トホホ、って感じです。
1
ぐっ、と拳を震わせ、一宮が力なく顔を上げた。
「なあ、俺ってやっぱり変なのかな。俺、おかしい?」
若干顔を赤らめ、目に張った水の膜がゆらゆらと揺れている。
「……いや、そんな事……ないんじゃない?」
「……」
コンプレックス、なのだろうか。いや、多分言われて初めて自覚したのだろう。コンプレックスを刺激された一宮は、しどろもどろに俺に訴えた。
「だって、だって……。みんな、俺を馬鹿にしてきた。18にもなって、って。みんなだよ、その時その場所にいたみんな」
「……たまたまだろ。別に18歳全員がそういう訳じゃないし」
「……じゃあ、お前は」
「……」
曖昧に無言を貫いたのが逆にいけなかったのか、一宮はまた顔を険しくし、俺に迫ってきた。
「やっぱり!俺、やっぱおかしいんだ。絶対そう!よく考えれば、俺の生きてきた世界って狭すぎるんだよ。生まれてから高校卒業まで、ずっとずっとお前らしか周りにいなかったし、ケータイだってずっとフィルタリングかかってたから、俺はちゃんとそのまま使ってたし、だから、そういうの、見なかったし、ていうかそもそも……、俺、モテなかったし……」
「ま、まあまあ。いいんじゃん、潔白で。誠実な方が大人になったらモテるよ」
「うるさいっ!」
まさかこんな相談をされるとは思っておらず、ベッドに腰掛けていたのがいけなかった。
ずかずかとこちらまで歩いてきた一宮は、俺を押し倒してベッドに乗り上げてきた。つまり、襲われている。自分の状況を把握してしまった俺の心臓は、今までに経験した事のない奇妙な音を立てた。ドゴドゴ、みたいな。
逆光によって影で覆われた一宮の顔は、真っ赤になってぷるぷると震えていた。
対して俺は、冷や汗がつー、と流れ、恐る恐る口を開けた。
「……あのー、一宮さん?」
「……するから」
「は?」
何かを決心したような表情の一宮は、声を震わせて俺に宣言した。
「キス、するから。その先も。だから、手伝って、五藤」
「__は」
誰だよ、この魔物を隔離して育てた挙句、そのまま外界へ手放したのは!!俺らだよ!!
2
まあ、全ては一宮自身の純粋さと、俺達幼馴染の過保護具合に起因するものであるというのは置いておくとして。何故こんな事になってしまったかと言うと、まず、高校卒業後の進路が問題だった。
頭の良い二井は偏差値の高い大学へ、四ツ谷もそこそこの大学へ、そして俺も至って普通の大学へ進学した。三好は美容系の専門学校へ。どうやらモデルの仕事もしているらしい。
そして、一宮はと言うと。
母子家庭なのもあり、「親に迷惑をかけたくない」という強い思いがあったらしく、高校卒業後、そのまま地元の工場に就職した。
生まれてからずっとひとかたまりだった俺達でも、流石に高校卒業後の進路まで一緒、という訳にはいかなかった。あんなに長い時間を5人で過ごしていたのに、バラバラになるのは呆気ないものだった。今では普通にそれぞれの生活を送っている。
通う学校も違えば、それぞれの忙しさや休みのタイミングだって違う。お互いが新しい環境に身を任せるうち、気がつけば高校を卒業して半年も経ってしまっていた。卒業してから、一度も全員で集まれた事がない。
俺達の中心である一宮も、流石に俺達に気を遣っているのか、それとも仕事の忙しさにそこまで気が回らなかったのか、グループチャットで招集をかけるメッセージがめっきり無くなってしまった。
俺達4人もなかなか素直じゃない面倒くさい人間ばかりなので、「今みんなどうしてるかな」とか「一宮元気かな」とかを思っても、それを文面で表す事がなかった。
そんなさなかの出来事だった。
その日の夜は、定期的に行われるサークルの飲み会に参加していた。高校と変わらず、そのままサッカー部。飲み会と言っても、未成年なので先輩の誘いを上手にかわしながら健全な飲み物を飲んで雰囲気で楽しんでいた。
「五藤、お前さー、マジで顔いいよな」
「いやー、はは、あざす」
「なあ、なんで彼女作らねえの?もしかしてもっと高いレベルがいいとか?」
「いや、別にそんな事は……」
同サークルの先輩にダル絡みされてしまった。どうやら、俺が同じ学科の女子から告白されている場面を見られていたらしい。
「七不思議の1つって言われてるぞ、お前に彼女いないの」
「大袈裟な」
「マジだって!どういう子が好みなん?」
「えー……」
この手の質問が一番困る。俺は当たり障りのない回答をした。
「……明るくて、元気で、裏表のない子、ですかね」
「だってよー!聞いてたか!」
先輩は遠くにいる女子達に向かって叫んだ。もう、やめてよ!と微かな声が聞こえてくる。
あー、なんか全然楽しめねえなー。どうにかして切り上げられないものか、と考えていたら、スマホがブブッと振動した。飲みの場で確認するのは失礼だろ、と思いつつも画面に映し出されたそのポップアップの表示を見て、俺は急いでトークアプリを開いた。
『一宮 守:今家いる?暇?』
横から完全に酔ってしまった先輩の喋りがうっすら聞こえてくるが、何も耳に入らなかった。俺はすぐさまそれに返信した。
『外だけど、なんで?』
『じゃあいいや。なんでもない』
俺はこいつと一緒に人生の半数以上を生きてきたので、なんとなく分かる。これはあまり放っておかない方がいいやつだ。
『すぐ帰るから。今どこ?』
『おまえんちのまえ』
「ハア!?」
思わず声をあげた。確かに昔新居の住所は教えたけど、部屋に一宮を呼んだ事はなかった。
周りがなんだなんだと俺の方へ視線を向けたが、構っている場合ではない。
俺達幼馴染は県内から離れることなく生活をしているが、一宮以外は学校から近い所に独り暮らしをしている。なので、地元とはいえお互いの家を行き来するのは簡単ではない。しかも、一宮は車を持っていないし、電車で俺の家まで行こうにもそこまで本数が多くないし、距離も1番離れているので時間もかかるだろう。
『え、なんで』
『別にいいじゃん。五藤が無理だったら他のやつのとこ行こうとしてたし』
なんか、とても危うい感じが文面から漂ってくる。理由がないし、脈絡もない。それに、なんでこんなに突然。変に頑固なうえ、いきなり突拍子も無い事を言い出す一宮の悪い所が出ている。
俺はひとつため息をついて、千円札を数枚机の上に置いた。
「スミマセン、ちょっと急用で帰ります」
「……お前、怪しいと思ってたけどさ」
「え、なんすか」
横にいた先輩が突っかかってきた。酒臭いし、早く離してほしい。
「いまやり取りしてたやつ、彼女?」
「はい?」
「絶対そうだろ!!なあ、嘘つきやがって!!」
「いや、えー……」
「こんないい男を動かす事ができるやつなんて、彼女しかいないだろ!なあ、コイツ彼女いたぞ!」
と、先輩は周りにでかでかと叫んだ。ああもう、本当に迷惑だ。その言葉を聞いた女子達が反応して俺の元に集まってきた。
「えっ!嘘でしょ!」
「いないって言ったじゃん!」
「いつから、ねえ、いつから!?」
「どんな子なの!可愛いの!?」
ぐいぐいと詰め寄られ、俺はなんだか全てが面倒くさくなってしまい、否定する事を放棄した。
「……超ーーー可愛い。保育園の頃から、ずっと好き」
空間がドッと湧いた。俺は己に降りかかる全ての声をシャットアウトし、足早に店を出た。
3
まさか、授業に遅れそうという理由とサッカー以外で走る事になるとは。先輩の言った通り、俺をこんなに動かす事が出来るのは、多分一宮しかいない。
マンションの前に到着すると、自動ドアの前で仕事着のまま佇んでいる一宮がいた。実際会うのは半年ぶりだけど、なんとなく大人っぽくなった気がする。あの一宮でも、社会に身を置くと少しは変わるようだ。
久々に一宮が大好きな幼馴染に会うのだから、嬉々として飛んでくるのでは?なんなら抱きついてきたりな、とか思っていたが、一宮は意外にも俺を見ても久しぶり、と言ったきり口を閉じてその場から動かなかった。
「え、マジでどうしたん」
「……相談がある」
神妙な面持ちの一宮をこのまま放って置くことも出来ず、俺は自分の部屋の中に一宮を入れた。
初めて俺の新居に入るんだし、いつもの一宮ならはしゃいで当たり前だ。でも一宮は当たり障りのない場所、ローテーブルの前に座りそのまま動かなかった。
「相談って?」
「……」
一宮は暫く黙ったままで、ベッドに腰掛けた俺をチラッと見て、重々しく口を開いた。
「俺、いつもは一人で昼ご飯食べてるんだけど」
出だしがもう可哀想過ぎる。
「ウン……」
「今日は資材運ぶ力仕事多くて、お弁当も配られたからその時一緒に作業してた先輩達とご飯食べてさ。……俺と歳が近い先輩ばっかで、それで、……そういう話になって」
「そういう話?」
「……」
「……あー、はい」
把握。それを察せないほど、俺は天然でも心が清らかでもない。
そして俺はあ〜、と心の中で叫んだ。
何故ならば。
(俺らが無意識に避けていた話題を……)
一宮はびっくりするくらい馬鹿だし純粋だ。どれくらい純粋かと言うと、中学の時、保健の授業で妙な盛り上がりを見せる周りに対して、一宮だけは知らない単語がありすぎて、頭に疑問符をずっと浮かべながら真面目に教科書を読み進めていたくらいだ。授業終わりに俺達の前で、「精通ってみんなにくるの?まだなんだけど、俺って遅い?勝手にくるもんなの?」と聞いてきて、激震させた。二井は面白いくらいに動揺して手にしていた教科書を全て床に落とし、三好はあの人好きのする笑顔のまま凍りつき、四ツ谷は一宮、一宮、と言って慌てて一宮の口を塞ぎ、俺は目を見開いて一宮を眺めるしかなかった。
それから、なんとなーくそういう話題を避けている。言ってもせいぜい「女の子と遊んだ」くらいの報告だ。
なのに!
(クソ、社会人になってそれは盲点だった……)
誰だその先輩、シメて離職させるか。
「……か、彼女いないのって聞かれて、いないですって言ったら、元カノはどんな子だったって聞かれて、いないですって言ったら、ど、童貞かよ、って、……でも、別に、俺まだ18になったばっかだし」
素晴らしい、一宮の貞淑さと潔癖さたるや。貞淑って言っても男だけど。俺達が守り続けた一宮はそうでないと。
「そうだよ、そんなん気にする事ねえって」
「……だから俺も無視してたら、普段なにでぬくの?って」
「おあっ」
「ぬくってなに?って聞いたら、めっちゃ笑われて、AVとか見ないのって聞かれて、見ないって言ったら、また笑われて」
「んあーーー」
「じゃあそういう事一度もやったことないの?って、言われて……あるわけないだろ、だって俺18になったばっかだし」
「そうだね、そうだね、はい、ごもっとも」
「そしたら、いやもう18だろって、女とキスくらいはした事あるだろって」
「……」
「……ないし」
俺は一宮の怒涛の言葉での攻撃を受け、大した返しも出来ないまま顔を手で覆った。
そいつらをセクハラで訴えて豚箱に突っ込んだ後、人前に出るのが嫌になるくらいボコボコにするか。
ていうか、一宮、ぬくってなにって。いやいや、一宮……。あー、そう……。
俺は一宮の余りの箱入り加減に悶々とした。いや、そう育てたのは他でもない俺らなんだけど。
そして、俯いていた一宮はぐっ、と拳を震わせ、力なく顔を上げた。
「なあ、俺ってやっぱり変なのかな。俺、おかしい?」
そして、今に至る。
俺は一宮に押し倒されたままの状態で、なんだか他人事のように反省していた。
(あー、あの時もっと強く否定しとけば良かったな……。なんでこんな事に……)
と、ぼーっと考えていると、ガチガチに緊張した一宮の顔が俺の顔に近づいてきた。俺は慌てて一宮の肩を掴んで引き剥がした。
「いやいやいやいや、待って、落ち着け、いろいろと後悔するぞ、お前」
「しない!!」
「頑固め!!ていうか、なんで俺!?」
「別にいいじゃん!!北から順番に降りていこうと思ったの!!」
「は???」
「五藤に連絡して、空いてなかったら次は四ツ谷にいって、四ツ谷も駄目そうだったら三好、二井って回ろうとしてた」
俺は絶句した。
ちなみにこの順番は、一宮の実家からマンションが離れている順だ。つまり、俺が飲み会を途中で切り上げなかったら、恐らく四ツ谷に連絡していたのだろう。
「……え、じゃあ、もしもみんな駄目だったら、どうするつもりだったの」
「……」
一宮は無言のままだった。俺は一宮の迂闊さとか、別に発揮しなくていいとこで度胸や行動力を発揮してしまう愚鈍さとかに流石にイライラしてしまい、強く当たってしまった。
「なあって、聞いてんの。無視すんな」
「……先輩から、教えてもらったとこ行こうとしてた」
「……」
近所の、飲み屋街付近にある、高架下。そう教えられた場所は、所謂、噂に聞いた事があるハッテン場だった。普通の風俗ですらない。男と男がそういう出会いをする、危ない場所。
頭に血がのぼり、俺はもう普通に怒った。
「それ、どんな場所か知ってんの」
「……」
「馬鹿、ほんと、救いようのない馬鹿。帰れ。もう帰って頭冷やせよ。その先輩と二度と関わんな。高架下も絶対に行くなよ」
俺は一宮を無理やり立たせ、この馬鹿を早く外に出してしまおうと決意した。一宮の背中を押し廊下に続く扉に手をかけた時、一宮は凄い剣幕で俺の方に振り返った。
「分かったよ!!五藤なんてもう知らない、四ツ谷のとこ行くから!!」
「はあ!?」
「四ツ谷が駄目でも、三好と二井のとこ行く!全員駄目でも千田くんのとこ行く!!」
「あ"あ!?千田ァ!?」
「五藤なんか、二度と頼まない!!」
俺は肝が冷え、一瞬で脳みそをフル回転させた。
おいおい、四ツ谷は絶対駄目だろ、大喧嘩するか、文字通りめちゃくちゃにされるかのどちらかだ。三好はよく分からんからこそ怖い。二井は……、マジで分からん。未知数だ。ああいうやつほど和姦が強姦になりかねない。駄目だ、俺の幼馴染、全員不穏すぎる。そして、千田は論外。入ってくんな。ああもう、なんでああいう奴らばっかなんだ。なんで一宮とそういう雰囲気を掛け合わせると、穏やかじゃなさそうな人間ばっかなんだ。あいつらの内の誰か一人に今の一宮を任せたら、もしかしたら一宮は心身ともズタボロになって帰ってくるかもしれない。いや、一宮の事だから、訳もわからないまま流されて「大人になった!」とか言って、満足するか、ハマるかしてまた同じ事を繰り返すかも。駄目だろ、絶対駄目だろ。
__そんな事になるくらいなら。
「一宮」
「な、なに。俺、本気だから。止めないでよ」
「本当に後悔しないの」
「……う、ん」
「……分かった」
俺は一宮の手を引き、もう一度ベッドへと移動した。一宮をその上に座らせると、えっえっ?と同様を隠せない様子で俺を見た。先程までの強引さと自信はどこへやら。
一宮の横に座ると、不安いっぱいの瞳が俺をのぞき込んだ。強気なくせに、微かに手が震えている。こんなの見たら、余計ほっとけない。
「ひとつ、約束守って」
「……?」
「みんなには内緒な」
「……」
ゆっくりと、小さく、でもしっかりと頷いたのを見て、俺は一宮の頬に手を添えた。
4
「いい?」
それだけ聞くと、一宮はきゅっと目を瞑った。同時に、口もきゅっと結ばれる。それじゃ出来ないでしょ、と頬に添えた手の親指で口元をなぞると、一瞬体をびくつかせ、ふっ、と口が緩く綻んだ。
それを見て、俺は静かに自分の唇を重ねた。すぐ、ゆっくりと離すと一宮が目を開いて俺をきょとんとした顔で見つめた。
「……え?」
「……えって、……え?なに?」
「……おわり?」
「……」
あー、あー、あー、もう、はい。よかったね、相手が俺で本当によかったね。なんなのコイツ、本当になに。
「あのさあ、今のファーストキスなんじゃないの」
「……そうだけど」
「もっといい感想あってもいいでしょ」
「だって」
一宮は頬を染めて口をまごつかせた。
「……べろとべろ、くっつけないの」
「ハーーーーーー」
コイツ、本当になに!?
「そういう情報はどこで入手すんの!?」
「だって!海外ドラマだったら絶対やってるじゃん!」
「それは規制できなかったな流石に!!」
ああもう、やっぱり変に箱入り息子にさせるんじゃなかった。好奇心と謎の知識だけ持ち合わせている。厄介すぎるだろこの男。
「はい、もういいだろ。おめでとう、ファーストキス出来たね。終わり終わり」
「……やれるし、終わらないし、俺も出来るし!」
「……は」
すると一宮が突然俺の顔を掴んで口を合わせてきた。しかも、突然過ぎて防御できなかった俺の口の隙間に己の舌を差し込んできやがった。コイツ!!魔性の俺も出来るもんモードだ!!
「っ……」
「……う、……ン」
俺は乱暴に動き回るその舌を咥内から追い出そうとしたが、飼い主に似て頑固すぎて全然出ていってくれない。なんだこれ、気持ちよさとかまるでない。こうなってしまえば俺と一宮の意地の攻防だ。ただの咥内を舞台にした戦いだ。
そして、先に音を上げたのはこういう事に慣れていない一宮の方だった。
「〜〜〜っぷはっ!!はぁ、はぁ……。おい!!思ってたのと違う!!」
「馬鹿!無理矢理すぎる!強姦魔!」
「うるさい!どうすればいいんだよ!初めてなんだよ、こっちは!」
酸欠のせいか、顔を真っ赤にして、涙目で俺を睨みつけてきた。絶対にキャパオーバだー。もう帰したほうがいい。キスさせてやったし、十分だろう。
って、思ったのに。
俯いて、一宮はベッドに敷いたシーツをぎゅっと握って弱々しく呟いた。
「……教えてよ、俺、なんにも知らないから……」
本当にズルい。この男は、いつも俺らを狂わせる。
この魔物を他のやつらのとこに行かせてたらマジで危なかっただろ、と思いつつも、理由は何であれ、俺を一番最初に頼ってくれたんだな、という謎の優越感に満たされてしまった。4人もいるのに、最初に頼ってくれた。俺が相手してくれるって疑わず、仕事終わりにそのまま電車に乗ってここまで来たんだろう。そう思ってしまった。その時点で俺はもう負けなのだ。
「……鼻で息して。舌、乱暴に動かすんじゃなくて、ゆっくり、俺の動きを追って。辛くなったら口離していいから」
「う、うん」
俺はもう一度一宮の唇に自分の唇を押し当てた。今度は、その隙間に舌をくぐらせて。
一宮の舌先にぴたっと当てると、少し呼吸が荒くなった。ゆっくり進み、舌の平を舐め上げると大きく体が震えた。多分、気持ちいいのだろう。それに気を良くした俺は、上顎をざりっとなぞった。
「ン、ふ、ぅ……」
しっとりと、声が漏れた。俺は続けてその部分を舐った。だんだんと口から溢れる声が大きくなる。ぐるりと舌で咥内を一周し、また一宮の舌を絡め取った。形を保っていられないのか、徐々に口が大きく開かれる。口を開けたままの一宮は、ただ俺にされるがままだった。やりやすくなったとばかりに、俺は一宮の舌を軽く啜った。
「あハァ、あ、ん、ンンん」
受けとめきれなかった唾液が、一宮の口の端からぽたぽたと流れていって、首元を伝った。それがなんだか、酷く俺の心を揺さぶった。
だんだんと一宮の意識が朦朧としてきて、かくんと腰に力が入らなくなったところで漸く顔を離した。
一宮の顔をのぞき込む。俺は、ぎゅっ、と喉をならした。
「……ぁ、はぁ、ふ……」
余りにも扇情的すぎる。顔は真っ赤にし、目は虚ろで、微かに腰を浮かせていた。十数年間一緒に過ごしてきたけど、こんな顔一度だって見た事がなかった。
やっぱ駄目だろ、俺達はただの幼馴染で、男同士で。いや、ただの幼馴染と言うには少し枠からはみ出る関係ではあるが、でも、一宮は幼馴染であり、そして大事な親友だ。
そんな、今更すぎる思考回路も次の一宮の発言によって崩れていく。
「もっと先のこと、おしえて、五藤」
本当に、なんなんだコイツ。
誰がこんなふうに育てたんだよ。だから、俺達なんだよ……。
5
俺は正常を取り繕って息を整えつつ、一宮が着ていた仕事着のファスナーをゆっくりと下ろしていった。一宮がじっと俺の手元を目で追った。
「……い、いい」
「いいって、なにが」
「脱がないと、だめ?」
「……いや」
「あの、このままでいいから。着たまま、できない?」
着衣ねーーー。ウン、好きな人は好きだよな、三好とか多分好きなんじゃない?知らんけど。いやほんと、俺でよかったね、一宮。
と、いろいろ言いたい事はあったが、俺はぐっと堪えて一宮の衣服の下に軽くボディークリームで湿らせた手を這わせ、そのまま上の方に動かした。動かす度に体がびくつくのが分かる。怖がっているのか、それか敏感なのか。どちらせにせよ、俺はムラムラ……いや、悶々としながらゆっくりと胸元を撫ぜた。
「ふひっ、それっ、こしょばい」
「……」
「は、あは、ふ、おれ、男だよ、へ、もんでも……ひひっ」
「一宮が言ったんじゃん」
「ふ、へ、え?」
「もっと先の事教えてって。男だからとか、意味ないとか、関係ないから。経験したいんでしょ、"こういうこと"」
「そう、そうだけどぉ、……ヒッ」
俺はわざと避けていた胸の中心を指で引っかいた。くすぐったいと身を捩っていたが、そこを掠めた瞬間、一宮の体がびくっと反応した。
「え……、え……?あ、あ、……え?」
「気持ちいい?」
「え、なんで、おかしい」
「おかしいって?」
「んっ……だってぇ、自分でやるのと、ちがう」
「ハァーーーーー!?」
「んヒィっ!!」
余りの衝撃に、思わず力を込めて摘んでしまった。一宮が目を見開いて大きく体を震わせる。え、エロ。や、そうじゃなくて、そうじゃなくて。
「自分で、やるって、……え?」
「……」
「え、え?触ってんの、ここ、自分で」
「ひっ、あ、あ」
「なあ、一宮」
「う、うう、んっ、あぅ、や、やめ……」
「教えないとずっとこのままだけど」
「ううう〜〜〜っ」
俺はその飾りを摘んでは緩め、爪の先で引っ掻いては撫で、ぎゅっと押し潰しては優しく触り、を繰り返した。一宮はとうとう体勢を保てなくなったみたいで、こちらに倒れて向き合っていた俺にもたれ掛かってきた。
必然的に近くなった俺の耳元に、一宮の悩ましげな声が響いた。
「さ、……さわってた、ときどき」
「……自分で?一人で?」
「……うん」
「スゥ____。……なんでかな?」
「……うう、海外ドラマ……」
「海外ドラマァァ!!」
なんで!!コイツはそういう経験が全く無いしヌくやらそういう単語を知らない癖に変に興味持っちゃうかな〜〜〜!本当にコイツは!本当にコイツは〜〜〜〜〜!!!!!
俺は乳首をそのまま弄り倒しながら天を仰いだ。
良かったな、こんな自己開発途中の一宮の姿を四ツ谷と二井が知ったら、どうなる事やら。考えるだけでも恐ろしい。
ああもう、俺達の教育は失敗したのか?インターネットを制限されていた子どもは、大人になったらどっぷりネットにハマってしまうって言うし、もしかしたら同じ轍を踏むのでは?失敗?いや、これは成功?こんな純粋で見た目だけなら(いや、中身もか)完全に高校生、もしくはそれ以下な少年が実はドエロなの、成功なのか?いやでも、高校生になってもカブトムシとかバッタとか猫じゃらしとかをつかみ取っていたあの手が、興味本位で、自分の、乳首を、弄ってるの、これは、え?大大大成功なのでは?いや!!違うだろ、俺!!普通の男は自分の乳首を弄らない!!
今まで共に生活してきた幼馴染の知られざる一面、それも一番ディープな部分を知り、いろいろと考えざるをえなかったが、その間も無意識に一宮の乳首を弄り倒していたわけで、気が付けば一宮は俺の肩に顔を埋めたまま泣き叫んでいた。
「ひっ、あっ!ああっ、うっ、ンンぅう"う"〜〜〜!!やめて、ごとぉ、やめてっ、ひはっ、あン、んうううぅぅ、ほんと、やめて、やめてっ!!うあ、ああアアア!!」
「えっ」
「____ッあ、あ、あ、ふっ、ふっ、うぁ……?」
一宮が大きく体をしならせて、俺の背中に手を回し力いっぱいしがみついてきた。震えがおさまり体の力が抜けた頃、大きく呼吸を整え出した。
……え、これって。
「……イッた?」
「は、ふ、……え?」
「え、なあ……エッ?……イッたよな……?」
「……?いった?どこに?」
「ワア〜〜〜〜〜」
知らないよね!そうだよね!イクって、知らないよね、AVとかエロマンガ見ないし、ていうか見れなかったし、俺達がそういう話題を遠ざけていたもんね!じゃないんだよ、この野郎〜〜〜〜!!
最早もう誰にこの謎の怒りをぶつけていいか分からない。一宮守、エロい事を知らないドエロに育ってしまった。俺達が育てました……。
「あのな、えっと……。射精する事、イクって、言います……」
「え、そうなの?でも俺いってないよ」
「んん?」
「だ、だしてない」
「____ん?」
「……だから、しゃ、……射精、してない……から」
「???」
一瞬、いや、五十瞬くらい時が止まった。理解が出来なかった。またまた、と思い訳も分からなくなって、なんの断りも無しに一宮が履いていたズボンの中に手を突っ込んだ。俺も俺で気が動転していたのだ。
「ッギャアアア!!おい、いきなりやめろよ!!」
「……うそ、マジだ」
下着周りをまさぐってみたが、あの液体の感触がない。嘘だろ、え、つまり、
「ドライでイッた……?」
「……どらいでいった?次々と分かんない言葉出すなよ」
「…………………………」
イクという単語も知らないくせに己の胸の飾りを自己開発していたこの男は、その開発途中の部分で、メスイキした。は?
自分に何が起きたか全く理解しておらず、きょとんと俺を見ている一宮に、俺は大きなため息を吐きながらずるずると抱きついた。
「はあああああぁぁぁぁぁ〜〜〜、もう、ほんとさあ、え?ドエロ魔神?」
「は?」
「……汚えおっさんに買われなくてよかった……」
「?」
なんかもう、責任を感じてきた。この危うすぎる子どもを、俺がどうにかしないと。本気で。最後まで育てないと。
「……一宮、この先の事は、どこまで知ってるの?何をすれば満足する?」
「え、わかんないよ、でも、セックスするんでしょ?」
「そういう単語は普通に言えるのね……」
「分かんないから、やり方教えてほしい。……そしたら、俺ももう普通になれるから」
「……」
このお馬鹿純粋ドエロ魔神は、どうやら普通をはき違えているな。乳首だけでメスイキしたお前はもう普通なんかじゃないよ、とは言えない。しかしまあ、今まで一宮の痴態を目の当たりにした俺も、流石に我慢の限界だった。据え膳すぎる。あんなのを見て興奮しないやつなんていないだろう。……だって、あの一宮が。純粋無垢だった、俺らの一宮が。
「……やり方ってさ、俺達男だけど。女の子やるのとは訳が違うんだけど、いいの?」
「……い、いい。変な人とやるくらいなら、五藤がいい」
「……ああ、さいですか……」
口を開くたびにいちいちツッコミを入れたくなる。無自覚でこれだろ。怖すぎる。じとっと一宮を眺めると、一宮はむ、と口を尖らせた。ああもう、なんなんだその顔は。ムラムラ……じゃなくて、イライラする。
「どうすればいいの」
「ここ」
「ヒッ」
「ここ使うの、分かる?ここ広げて、挿れるの」
俺は一宮の尻の下に手を差し込み、その場所を目がけて中指を押し込んだ。
「え、嘘?無理だろ」
「無理じゃないの、いれれるとこってここしかないでしょ」
「……マジ?……出口じゃん」
「マジだって。入り口にもなんの」
一宮があんぐりと口を開けて、俺を見た。すると暫くして、いそいそと身なりを整えてベッドから降りようとした。
「……申し訳ない、急用が……」
「おい、逃さんぞ」
「ヒエエ」
俺はすかさず一宮を引きずり込み、ベッドの上に押し倒した。力では確実に勝てないのに、忙しなくバタバタと手足を動かして抵抗をしていた。
「はっ、離せっ」
「一宮が言い出したんだろ、言い出しっぺなら最後までやらないとな。はい、こっちは流石に脱ぎましょうねー」
「うああああ!!やめっ、やめろ!!」
抵抗されて逆にやる気になってしまった俺は、そのまま一宮をねじ伏せて下着ごと下半身の衣服をずりおろした。咄嗟に、一宮の手が中心に降りてきて隠された。
「……今更だろうが。お前の裸なんて何回見たと思ってんの?」
「馬鹿、馬鹿!それとこれとは別だ!」
「我儘言うな!お前が教えろっつったんだろ!全部脱がずにやれると思うのか!?」
「ぎゃあ!!」
一宮の中心を必死に隠していた手を払い除けると、それは緩く勃っていた。まあそうだよな、出してないし。メスイキしたし。
一宮は声も出せずわなわなと口を開閉させていたが、俺は構わずそれを握って上下に動かした。既にカウパーで濡れていて思いの外動かしやすかった。抵抗感は、全く無かった。
「ひっ……あっ、え、え、ま、待ってっ……」
「やってもらった事ないだろ、これ」
「ないっ、ないけどっ、アッ、や、ぁ、はあっ、んあぁ」
「また1つ経験値が増えてよかったなぁ」
「アッ、あ、んんっ、んうっ!ひ、ひ、ハ、ァ、ア」
「あー、これがヌくって事ね、自慰行為の事」
「は、は、ああ、ア、ん、んぁっ、あっ!」
「聞いてんの?」
「はひッッ!?」
ぐりっ、と先端部分の穴に爪を立てた。あまりの衝撃に、一宮の腰が大げさに浮いた。
普段口うるさい一宮がここまで口出しも出来ず俺の言いなりになっているこの状況がなんだか面白くなって、俺は一宮で遊ぶ事に徹した。あ、違う違う、遊ぶんじゃなくて、これも責任のある教育だから。と、意味の分からない理由で己を正当化して、そのまま一宮の先端をぐりぐりと親指で擦った。
「あ"あ"あ"っ!!あ、あ、ア"ッ、で、でる、でる!!でうぅぅ」
「イクって言うの、さっき教えたよな?」
「あ"っ、あ"っ、ッい、く、いく、イク、イク、イッ______〜〜〜ッは、はァっ!!あ、あ、ハ、ハ、ァ、ァ……」
大きく腰を浮かせた一宮は、そのまま体を固く強張らせて俺の手に精を放った。その後も小刻みに体を震わせ、トリップしたかのように目はどこでもない方向を向いていた。
俺はそんな一宮を凝視して網膜に焼き付けた。
「……あ"ーーーーー」
なんか、ヤバイだろ、これ。
こんなに可愛くて、エロくて、でもなんにも知らなくて、一生懸命"普通"になろうとして、でもやっぱりどこかズレてて。
そんな一宮が、俺の前で全てを曝け出して、俺の手で気持ちよくなって、俺の手で大人になろうとしている。三好でも、四ツ谷でも、二井でもなく、俺の手で。
__堪らない。
意識を朦朧とさせ、ぐったりと寝そべっている一宮の頬をそっと撫でた。
「一宮、ほんと、俺でよかったよなあ。他のやつだったら、もっと酷い事されてたかもな。もしかしたら、嫌われてたかも」
「はぁ、ア……」
「俺でよかったな?こんなに優しく教えてくれるやついないぞ。なあ?」
「……っあ!?」
指にたっぷりとクリームをすくって、一宮の後孔に中指を挿れた。流石の俺でもこれは初めてだ。ぐねぐねとうねって気持ち悪いような、生暖かくて心地いいよな、よくわからない感触だ。
「あ、あ……」
「俺もさあ、こればっかりは勉強不足だけど……気持ち良くなれるとこがあるのは知ってる」
「は、あ、……あ、?なに、あ、ぁ……」
「この辺り?」
「いや、そこ……ハ、ハ、へん、へんなかんじ、する、う、う、きもち、わるい……」
「流石に初回じゃ気持ち良くなれないか」
「いやだ、いやだ……」
「そんなに嫌嫌言うなよ、傷つくだろ」
「ん"う"ッッッ!?」
苛立ちと若干の同情で、一宮の萎えたモノを空いている片方の手でまた扱き始めた。十分に手をクリーム塗れにしたうえ強めに亀頭部分を撫でているので、多分さっきより快感が大きいのだろう。一宮は目を白黒させて己の下半身を見た。
「へ、え?……っあ"、あ"あ"あ"!!い"やあっ、つらい、つらいっ!!」
「気持ちいいんでしょ?ほらほら、こういう事、いっぱい教えてほしいんでしょ?」
「いいっ!!あああっ!もっ、もう、いい、いい!!」
「遠慮すんなって」
最早当初の目的なんか忘れた。俺はこの男を目の前に、ただただ自分の欲求を満たそうとしている。
だって、もうこんな機会ないんじゃない?俺達は5人で1つ、ゴコイチだけど、でも、俺だけの特別もほしい。一宮と、俺だけの関係。別に二井や四ツ谷みたいな感情を一宮に抱いてはないけど、でも、俺だって一宮の事大好きだし。
二井と一番一緒にいた時間が長かったみたいに、三好と一番笑い合ってたみたいに、四ツ谷と一番距離が近かったみたいに、じゃあ、俺にも、何か一番をくれたってよくない?
「ひ、ひ、もっ、もっ、やめるっ、ア"ッ、ああぁ、おわる、ぅ、ごめ、ごめなさ、」
「まだ最後までやってないけど?普通になりたいんじゃないの」
「イ"、ッ……ア!ぁ、うぅぅ!いいっ、いらないっ」
「あんなに強気に意気込んでたくせに日和るんだ。気持ちいい事に興味あるのに、快感に耐えられないの?つらい?」
一宮は断続的に喘ぎながら、必死に頷いた。ボロボロと泣いている。一宮の泣き顔なんて何度も見たけど、今が一番興奮する。笑ってる顔が一番好きだけど、それとこれとは別だ。
「気持ちいいって言ってくれないと、俺もやりがいが無いんだけどな」
「ふ……は、は、ア、はぁ、ああ、あ」
俺は一宮の陰茎を弄り倒していた手をぱっと離した。可哀想なくらい膨れて赤くなっていて、呼吸に合わせて震えている。手を止めたら止めたで我慢ができないです、みたいな顔を向けられた。本当にコイツは煽るのが上手い。
意地悪に孔に突っ込んだ指だけぐにぐにと動かしていたら、一宮が悔しそうに顔を歪めて唸り出した。
「うううぅぅぅぅぅ」
「なに?」
「うー、うー、ううう、五藤のバカ、アホ、おに、しょうわる、はらぐろ、うううっ」
「そんだけ元気ならもっと激しくやってもいいよなあ」
「アア!?まって、ほんと、それっ……いや!きもちわる、アア、あ、ううう」
「気の利いた一言でも言ってくれたらなー。楽にしてあげるのに」
「う"う"う"ううっ!!」
「あは、凄い顔」
顔の穴という穴からいろんな液体を垂れ流し、顔を真っ赤にして俺を睨みつけている一宮が可愛くて可愛くて、俺は一宮の頬にキスをし、頭を優しく撫でた。
それに安心したのか、一宮は鼻をズビズビと鳴らし呼吸を整えて俺を見た。涙で濡れた睫毛が、瞬きをする度にきらきらと輝く。
なんでさ、こういう事してもそんな顔で俺を見れるの。俺、今普通にキスしたんだけど?いやまあ、それ以上の事したから今更ではあるんだけどさ、でも、俺、キスしたんだぜ?男の、ガキの頃から一緒の、お前がずっと幼馴染だ親友だって言ってたやつが、理由もなしに何も言わずキスしたのにさ、なんでそんな当たり前に受け入れるんだよ。
なんだかもう自分でもよく分からない、悔しいような、悲しいような、嬉しいような、複雑な感情に襲われて、俺は一宮に覆い被さって抱きついた。もう、なんでこんな事やってんだっけ。
一宮は俺の腕をばしばしと叩き、下で唸っている。
「うー!重い!おい、俺の貧弱さ考えろ!」
「……」
「……おーい?」
「……」
「……五藤?」
頭上で一宮が心配そうに俺を見つめる気配がした。そして数秒後、さっき俺が一宮にやったように、おずおずと俺の頭を撫でる感触が伝わった。
やめろよ、そういうの、ほんと。
どうせ一宮は俺達幼馴染なら誰でも同じように優しくするんだろう。でも、俺だけに、特別にって、勘違いしそうになる。今日一番に俺の所に来たのも、俺が特別だからって思いたくなる。一宮はみんなのって分かってるのに、それでも求めたくなってしまう。
多分これは恋愛なんかじゃない。そんな、綺麗なものじゃない。これに名前なんて付けられないんだ。
そんな俺の思いなんて伝わる訳ないけど、少しでも気付いてほしくて、一宮の首元に顔を埋めて少し息を吐いた。
一宮はそれにびくっと反応し、俺の顔を持ち上げた。そして、
ちゅ、と、俺の口に、キスをした。
「……へ」
俺はそれきり固まってしまった。
だって、え?違うでしょ、それは。最初にやったのとは訳が違う。だって、こんなの、まるで。
俺の心臓は止まっているのか、加速しているのか、それすらも分からない。
そして、一宮がゆっくりと口を開く。
「……あれ、ほんとは、ファーストキスじゃない」
「……………………はい?」
「だから……さっき、五藤と、き、キスしたの、おれ、ファーストキスじゃない」
「__は?」
……咄嗟に浮かび上がった2文字、殺意。
よし、殺すか。全てを焼き払おう。さっきまでの、恥ずかしくもなんか甘酸っぱくていい感じの雰囲気は握りつぶしたから安心しろ。まずは一宮のファーストキスを奪ったというならず者の名前を聞き出すところからだ。ああ、こういう時こそ冷静に、スマートにだ。
「墓石に刻む名前、教えてくれる?」
「なんて???」
前言撤回。
「クソ!違う!じゃなくて!いや、合ってるけど!!クソッッッ!!」
「なん、なんだよ!?お、落ち着け!!」
「は、は?は?え、嘘だろ?なあ、だれ?誰?いつ、え、待って、知らない、俺知らない、は?処す、処す??」
「あばばばばば」
俺は寝そべっている一宮の肩を力強く掴み、大きく揺さぶった。サッカーの大会も、大学受験も、こんなにテンパった事は無かった。だって、だって、あの、俺達が純潔を守り抜いた、あの一宮が!!泣いてもいいか!?!?
「うううう……、なんでだよぉ……誰だよその男ォ……」
「なんで男って決めつけんの……」
「だって、どうせ男なんだろ……」
「……まあ、そうだけどさ……」
「ほらやっぱり!!このっ、……ドエロ魔神めが!!」
「だからなんだよその不名誉なアダ名!!てか勝手に話進めんな、聞けよ!!」
「あーあーあー」
「ああっ、もう!!」
一宮のファーストキスを奪いやがった男は誰なんだと聞きつつも、そんな汚らわしい名前は聞きたくないという矛盾を抱え、俺は耳をふさいで一宮の言葉をシャットアウトした。でも何故かこういう時こそ力が強くなる一宮は、耳をふさいでいた俺の手をがっと掴み、馬鹿みたいに大きい声で叫んだ。
「お前だから!!!!!」
「……え」
「だから、五藤なの!てか、だから、五藤に、いろいろ教えて貰おうと思って、一番最初に連絡したし……」
「ほえ?」
???
俺の幻聴か、一宮の幻覚?俺、そんな事した記憶、ない。
「……ちょっと待って、俺の耳には、俺の名前が聞こえたんだけど……というか、それで、俺を……え?」
「そう言ったんだけど」
「分かんない分かんない知らない知らない」
「そりゃそうだよ、だって後藤が寝てる時にやったもん」
「なあ!?待って、ほんとに待って、情報量、左脳働かない、ええ?」
「……お、お泊り会の、寝てる時」
「いつ!?」
「覚えてない。小4とかだったかな」
「……え、小4の、お泊り会で、俺の寝込みを襲った?」
「言い方にちょっと問題あるけど、まあ、……うん」
「……」
思考が追いつかない。
「なんで……?」
「……」
「……教えてくれないとまたやるけど」
「ゆ、言うから!!」
一宮は自分の急所をバッと隠し、気恥ずかしそうに答えた。
「……興味、あったから」
「なんで……?」
「海外ドラマ……」
「海外ドラマァァァ!!」
何という事だ。じゃあ、中学の頃から必死に俺達が不純交友絡みの話題を遠ざけていたけれど、一宮はもう既に小学生の段階で大人の階段登っちゃってたの?しかも、え、相手、俺?
「な、なんで俺……」
「……だって」
「……」
「……」
「言わないと、凄い事するけど……」
「あー、もう!!分かったよ!!」
一宮は顔を真っ赤にしながら俺をねめつけた。
表情に合わないか細い声が、俺の鼓膜を揺らした。
「……寝てる顔、可愛かったから……」
息を呑み、俺は力加減とか関係なく一宮を抱きしめた。
これはあれだ。可愛さ余って憎さ100倍、みたいなやつだ。もう、それはそれは思いっきり抱きしめた。いや、最早絞めた。
「グエエェ待って待って待って待ってマジで死ぬギブギブギブギブ」
「なあもーーーーー!?可愛ければ無断でキスしていいのか!?相手の意識が無い時にキスしていいのか!?小4だからって許されると思うのか!?この馬鹿!!睡姦魔!!クソ、めっちゃ好き!!!!!」
「し、死ぬ、死ぬ……」
情緒不安定代表と言われてもおかしくない。え、だって、事故とかでもなんでもなく、一宮が俺を選んで、一番に俺を選んで、一宮のファーストキスの相手は俺で、知らなかったけど俺のファーストキスの相手も一宮で、それで、今日俺を一番に頼んだのも、一宮からしたら俺がファーストキスの相手だったから適役だと思ったからで、駄目だ、そんなの。
「ハァーーーー……。よかった……」
「……嫌じゃないの」
「嫌じゃない……」
俺は一宮の顔を見つめた。ああなんか、大学生になってからやっとちゃんと笑えた気がする。ずっと心にぽっかり空いていた穴、埋めてくれるのはやっぱり一宮しかいなかったんだ。頬の緩みを抑えられない。
一宮はそんな俺の顔を見て、顔を赤くさせた。
「なあ一宮」
「……なに」
「キスして、一宮から」
「……」
嫌がるかな、とか、どれだけ時間かかるかな、とか、考える隙もなく、一宮は俺の口にちゅっ、と軽くキスを落とした。本当に、変な所で行動力がある。
「ふは、一宮顔真っ赤」
「……うるさいな」
「……なあ、どうする?続きやる?」
「……や、いい。もう、十分です……」
「いいの?最後までやらなくて」
「……」
「一宮?」
「……こ、今度。また今度……」
小悪魔レベルがカンストしている。俺は頭を抱えた。
別に無理矢理この先を進めてもいいのだろうけど、なんかもう俺はいろいろ満足してしまった。たったキス1つ、一宮の言葉たった1つで満足できるくらい、結局は俺も一宮にメロメロなわけだ。
6
「一宮からキスするなんてさ、意外と大胆じゃん。もしかしてやる気満々だった?」
「……べ、別に、そういうんじゃないし。1回したら、2回も3回も変わんないだろ」
「……へえ、じゃあもっとキスしても文句無いって事?」
「!ちが、え、ま、ちょ、んうううう!!」
●一宮 守
この世界線の一宮はファーストキスを小4で終えているぞ!
「みんなに言ったらなんかヤバイ事になりそう」という、珍しく野性的本能が働いているので、その事実はみんな知らないぞ!残念だったね、他のみんな!
●五藤 空良
大学で話題のイケメン。今回の世界線では一宮とイチャイチャできて良かったね!しきりに相手が俺で良かったね、と言っていましたが、君が一番ヤバイです、ヤバイです!
恋愛感情では無い何かしらを抱いているらしいけど、どうなんでしょうか?
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