贔屓とかじゃないけど


お題:十倉さんと一宮が二人っきりでご飯を食べているところに出くわすメンバー(アイドルパロ)




1


 十倉朔美、25歳。

 UPS5という5人組男性アイドルグループのマネージャーをしている。全体的な仕事を管理したり調整したりするチーフマネージャーは他にいるので、俺はメンバーの現場に付いたり雑務をこなしたりメンバーのメンタルケアに回ることが多い。


 今日は沖縄で新曲のMV撮影があった。

 夕方には撮影が終わり、東京に帰るのは明日ということで、これ以降の時間帯は自由時間となった。

 バラシ後も撮影スタッフと現場に残って話していると、メンバーの1人である一宮くんだけがまだスタッフに混じって残っていることに気付いた。木にもたれ掛かり、心もとなさそうにスマホを触っている。周りには他のメンバーはいなかった。


「どうしたの。みんなは?」


 近付いて声を掛けると、一宮くんは顔を上げた。


「多分ホテル戻った」

「一緒に帰らなかったの?」

「うん」


 みんなと一緒に帰るのが気まずかったんだろうな。


 このグループはデビューしてまだ1年も経っていない。個人個人の下積みは長くても、グループとしての歴はまだまだ浅い。


 特に一宮くんは、ほぼ一般人みたいな立場から突然アイドルになるように命じられてこのグループに入ったから、ちゃんとアイドルとしてデビューするために努力を重ねてきた他のメンバーとは違う。


 だからこそ一宮くんはみんなに対して引け目を感じている。顔合わせした頃は、みんなの方が一宮くんに嫌悪感を抱いていたので、そりゃ一宮くんもやりづらいだろうなという感想しかでてこない。


 でも、今はそんな雰囲気はない。随分マシになった。

 初期の頃の雰囲気はないんだけど、いかんせんみんな思春期真っ盛りで、手のひらを返して好きになった子に対して素直になれず、結果としてお互いが歩み寄りたいけど気を遣って避けてしまっているような、微妙な関係になっている。


 そんな一宮くんは、他のメンバーと肩を並べてホテルに帰ることすら気まずいのだ。


「俺も一旦ホテル戻るけど、一宮くんも一緒に帰る?」

「うん」


 心細そうにしていた表情がやっと緩んだ。

 一宮くんは俺に懐いてくれているのがよく分かる。

 メンバーより俺の方が喋り掛けやすいのだろう。


「十倉さん、この後予定あるの?」

「うーん。観光できるような時間もないし、どっか食べに行こうかな」

「へー、いいなー」

「……一宮くんも一緒に来る?」

「うん!」


 待っていましたと言わんばかりのこの笑顔。

 このために俺を待っていたのか。

 まあいいんだけどね。わざわざマネージャーとご飯を食べたがるのなんて一宮くんしかいないし、可愛いし。






2


 俺達は撮影スタッフからおすすめしてもらった沖縄料理のお店に向かった。狭くはないけど広くもない。店内は賑わっており、空席の方が少なかった。

 一宮くんは最近修学旅行で沖縄に行ったばかりらしい。でもその時は班が微妙であまり楽しくなかったと言っていた。


「俺ソーキそばの定食ー」

「はいはい」


 俺の目をしっかり見つめて言い放つ。自分は奢られる存在だと認識しているような口ぶりだ。それでいいんだけどね。一宮くんは子どもだし。

 注文を終えると、一宮くんは水を飲んで大きく息を吐いた。お疲れのようだ。汗をかいたせいでさらに癖が出ている髪の毛が暴れている。


「撮影どうだった?」

「なんか……みんな凄いよね。自分のことちゃんと分かってる。どうやったら自分が良く映るかとか知ってるもん」

「そりゃあみんな芸歴長いからね」

「俺毎回みんなに着いて行くの必死で自分がイヤ」

「必死でいいんだよ」


 今の一宮くんがファンを獲得するには、それしか方法がない。一宮くんの余裕たっぷりな姿なんてまだ誰も望んでいない。


「うーん」


 当の一宮くんは納得がいってなさそうだ。口を尖らせて頬杖をついた。


「俺も五藤みたいならなー」

「なんで?」

「なんでもできるじゃん。一番かっこいいし、一番ファン多いし」

「え? 五藤くんが一番かっこいいと思うんだ」

「え? うん」

「……それ、みんなの前ではあんまり言わないほうがいいかも」

「なんで?」

「……。いや、やっぱり言ってみてほしい」


 おもしろそうだから。

 とは口に出さず。

 最悪な空気感が簡単に想像できてしまう。


「いやいや……言えないよ。絶対五藤にキモがられるから」

「そんなことないと思うけどなあ」


 むしろ五藤くんめっちゃ喜ぶんじゃないか。


「喜ばないって。俺なんかに褒められても、はあ、そうですかで終わるよ絶対。五藤、あの中じゃ優しい方だけど内心俺のこと馬鹿にしてるだろうし、俺のこと意見聞き入れる対象とも思ってないよ」

「卑屈だなあ。みんな優しくしてくれてないの?」

「三好は優しいけど……」


 言い淀んだところで、頼んだ定食がやってきた。俺も一宮くんと同じものを頼んだ。一宮くんは合掌し、今日一日の疲労を噛みしめるかのようにソーキそばをすすった。


「二人は?」

「ん?」

「二井くんと四ツ谷くんは? 優しくないの?」


 咀嚼し、斜め上を向いて熟考。

 思い当たる節はないようだ。


「うーん……。分かんない。でもあんまり喋んないし、俺のことよく睨んでくる」


 それ多分睨んでないよ。


「一宮くんから話し掛けてくれるの待ってるんだよ」

「ええ?」

「ちょっと怖いなって思った時ほど、自分から話し掛けてみたら?」

「ええー……無視されない?」

「されないよ。もうみんなチームメイトでしょ」


 昔ならまだしも、今なら、それこそあの二人は、一宮くんの方から話し掛けてくれたら内心超喜ぶんじゃないか。

 一宮くんは気付いていないかもしれないけど、一宮くんと絡めた時のあの二人は雰囲気がほわほわしている。


「無視されなかったとしても、俺みんなとプライベートなことで会話続けられる自信ないよ。共通点ないし」

「アイドルのことで盛り上がればいいじゃん」

「俺歌もダンスも全然知識ないからみんなの足引っ張ってるし、音楽の話もできそうにないし。俺が低レベルすぎて盛り上がらないよ」

「一宮くんアイドルなんだよね」

「……俺本当になんでアイドルになったんだ?」

 

 一宮くんは訝しげに首をかしげた。

 社長とプロデューサーの意向だよ。

 一宮くんの意思なんてほぼ関係なかった。俺はこのアイドル結成のプロジェクトに関わってはいなかったけど、あまりにも強引にアイドルにさせられた一宮くんを思うと罪悪感はある。そんな一宮くんはたまに俺に愚痴を零すくらいで、表立っては一生懸命練習をして努力を重ねているので、更に罪悪感が増し増し。


「じゃあさ、もしも……嫌なら辞めてもいいよーってなったら辞める?」

「え?」

「このグループ、アイドル」


 意地悪な質問をした。少し気になったのだ。

 一宮くんが、本当はどんな思いでアイドルを続けているのか、何をモチベーションにして頑張っているのか。

 一宮くんは咀嚼を続けながら静かに考え、飲み込んで口を開いた。


「でも、俺がアイドル辞めたら、俺のマネージャー十倉さんじゃなくなるんでしょ?」

「まあ、その可能性が高いよね」


 一宮くんはこれでも一応芸能人だ。もし仮にアイドルを辞めたとしても、芸能界で何かしら仕事は続けるだろう。でもそうなると、俺の担当はこのグループなので、一宮くん個人のマネージャーとしては外れるかもしれない。

 一宮くんはふるふると首を横に振った。


「じゃあ辞めない。俺十倉さんとずっと一緒に仕事したいし、アイドルしないと十倉さんに会えないんならアイドル辞めない」

「えっ」

「俺今十倉さんに褒めてもらうためだけに頑張ってるから」


 えっ。

 なにそれ。

 か、かわい〜。

 なにそれ、可愛い。


「わ、なに」

「いやちょっと……父性……、兄性……?」


 思わず一宮くんの後頭部に手が伸びた。

 くるくるの髪の毛を思いっきり撫でて梳いた。

 気恥ずかしそうに目を伏せる一宮くん。

 うーん。うん。可愛い。


「マネージャーのためにアイドル辞めないって変?」

「本当はファンのために辞めないでって言わなきゃいけないんだろうけど……。いや、なんか、嬉しいね」

「へへ」

「もしも俺がマネージャー辞めちゃったらどうすんのさ」

「えっ、そんなこと考えたこともなかった! やだ、俺も辞めるかも」

「辞めちゃうか〜」

「呑気すぎる! 辞めないでって引き止めてよ!」

「ははは」

 

 マネージャーという職業は性に合っているとは思うが、正直、このグループを担当してからは何度か辞めたいと思う事もあった。なんせあの四人と後から加入した一宮くんとの反りが合わない。四人の方がなかなか一宮くんに歩み寄ってくれない。一宮くんも自分の方からずけずけ行くタイプではなかったし。

 なのにグループをまとめたりメンタルケアをするのは俺の仕事のうちだと上から言われて、勘弁してくれよとは思っていた。


 それでも一宮くんの焦りから来る必死の練習量を見ていると、どうしてもサポートせずにはいられなかった。

 みんなの方も次第に一宮くんを認めていき、今ではきっと……かなり一宮くんの事を好きだと思う。思春期がゆえ愛情表現を全くしていないけど。だから一宮くんもみんなから認められていることに気付けていない。


「大丈夫だよ。一宮くんがアイドル辞めても俺がマネージャー辞めても、一宮くんが会いたいって言うんなら俺は飛んで行くよ」

「だから辞めないでって言ってよ! てか十倉さんも絶対マネージャー辞めないで!」

「何があっても味方だよって言ってるんだよ」

「そうやってさ! 誰にでも言ってんでしょ!」

「何よ」


「あのさ、すみませんがいいですか」


 盛り上がった場を静止する声。

 明らかに空気感が違う声色だった。

 デビューしたてではあるが、芸能人のオフらしく全員がキャップやビーニーを目深に被っている。

 一宮くんは顔を上げ、目を丸くして固まった。


「えっ……」

「十倉さん、いろいろ言ってくれますよね」

「えー、お疲れ様ー、偶然ー」

「ええ、えっ、なんっ……」


 俺達に声を掛けたのは、五藤くんだった。そしてその周りに他のメンバーもいる。

 俺達は完全に別行動だった。打ち合わせもしていない。だけど、たまたま一緒になってしまった。勿論一宮くんは一人でパニック状態になっていた。


「なんでって、俺達の方が先にこの店にいたからな」

「え、そうだったの!?」

「へー、そうだったんだ」

「十倉さん、最初から俺達がいるって分かってたくせに……」

「いや、こんなとこで立ち話しないでよ。お店の人に迷惑だよー」

「すみませーん、ここの席の二人あっちの席に移動してもいいですかー? お会計一緒でいいんで!」


 三好くんが店員さんに伺う。何勝手なこと言ってるんだ、誰がその支払いをすると思ってるんだと挟む間も無く、店員さんの気遣いでOKが出てしまった。無下にはできない。


「三好くん、その行動力もっと他のところで生かしてよ」

「草の根運動ですよぉ」


 意味を分かって言っているのか分からず使っているのか。

 結局俺達二人は他の四人のいた小上がりの広いスペースに通された。一宮くんは奥に奥に流され、四人に囲まれるようなポジションについてしまった。何故だか雰囲気の悪い四人を前にして、ガチガチになっている。可哀想に。


「てか君らもさ、俺達来たって分かってたならその時点で声掛ければよかったのに。内緒で盗み聞きしたかったのー?」

「人聞きの悪いこと言わないでくださーい!」


 三好くんは口を尖らせながら一宮くんの空いたグラスに水を注いだ。図星のくせに。


「そんなこと言うんなら、十倉さんだって俺達を誘えばいいのに。一宮のことちょっと贔屓しすぎじゃないですかー?」

「君らプライベートの時間に連絡すると怒るじゃん」

「プライベートの時間に『仕事の』! だから! ご飯行かない? は別です」

「……普通にプライベートの時間でも仕事の連絡あったらちょっとは気に掛けてほしいけどね」

「話はぐらかす〜」


 三好くんと舌戦とも言えないやり取りをしていると、隅に追いやられた一宮くんが身を縮こまらせながら俯きがちに呟いた。


「あ、あの……。ごめん。十倉さんはみんなのもの……す」

「す」


 一宮くんは、自分ばかりが俺のリソースを割いていると思ったのだろう。否定はできないけども。

 ただ、他の四人は一宮くんに対してとやかく言おうと意図していた訳ではなさそうで。全員が一宮くんの恐縮具合を見て気まずそうにした。


「いや、一宮を責めてるとかじゃ……」

「いやいや……あの……ハイ。俺ももうちょっと一人でちゃんと行動できるようにするから……」

「……」


 無言。気まずい。

 誰か一人でも一宮くんに、マネージャーじゃなくて俺達を誘えよとか言えばいいのに。なんで言えないんだろ。

 四人が目配せで何か喋ろよと無言の圧をかけ合っているのが分かる。三好くんに肘で小突かれ、緊張気味に口を開いたのは二井くんだった。


「一宮」

「は、はい」

「えー……っと……、あー……。明日の飛行機、朝早いからな」

「え、うん」

「だから……えー……。……朝、起きられなさそうだったら……、お、起こしに行く、から」

「え……いや、俺朝弱くないし大丈夫だよ。三好とかのが起こしに行った方がいいんじゃない?」

「……そうか……」


 簡単に、あっさりと断られた。


「ふっ……」


 哀愁を漂わせている二井くんを見て、その目の前にいた四ツ谷くんが鼻で笑う。二井くんはじろりと睨んだ。


「えー、じゃあそんなこと言うんなら一宮が俺起こしに来てよ。俺は朝弱いし」

「やだよ。自分で起きられるだろ」

「さっきと言ってること違うじゃん」

「一宮、起こしてやってよ。三好はいっつも俺か十倉さんに起こされてるから」

「じゃいつも通り五藤か十倉さんが起こしてよ」

「一宮俺に冷たくない?」

「俺明日の朝海に散歩行くもん。三好起こす暇ない」

「じゃあ早く起きるんでしょ。ならついでに起せばいいじゃん。俺も一緒に行くからさ」

「やだって。絶対起きないの分かってるし」

「えー、起きるって。一人で行こうとしてんの?」


 一宮くんはちらっと俺の方に目線をやり、すぐにそらした。


「うん」


 短い返事。

 もしかして俺を誘おうとしてた?


「俺頑張って自分で起きるし。起きたら一宮に着いてくからね」

「ほんとに起きられる?」

「起きますー」


 一宮くんはやや眉を下げ、じゃ、うん、と言って食事を再開した。

 三好くんは嬉しそう。他の人も便乗したそうだったけど、俺もと言う機会を逃し、なんとも言えない空気が流れていた。

 ちなみに、三好くんよりももっと朝が弱い四ツ谷くんはずっとそわそわしていた。自分のターンが回ってこなくて不満気だった。かまってちゃんだ。


 そして、その後はなんだかんだ雑談をしながらご飯を食べた。一宮くんが自分から喋ることはほとんど無かったけど、三好くんや五藤くんに振られたら答えていた。まだ慣れていないのだろう。一宮くんは声を上げて笑うことすら控えているようだった。

 それでも、時間が経つうちに、俺の方に助けを求めるような視線を送ることは段々と無くなっていった。

 なんだかんだ、これがチームになっていくんだよな。




 そして翌朝。

 三好くんは起きられなかったらしい。








●一宮 守

まだ信頼できる人も安心できる人も十倉さんしかいないと思っている頃。

スマートでかっこいい大人の男性に強い憧れを抱いているということもあり、十倉さんは特に大好き。

十倉さんに依存気味なので、たまにある仕事現場に十倉さんがいない日は、どうしようもなく不安になる。


●十倉 朔実

元芸能の仕事をしていたマネージャー。

不均等な扱いはしないと心がけつつも、どうしても一宮は肩入れしてしまう。

将来的にこの五人を大人気アイドルにまで成長させる。そして多分このグループのマネージャーも辞めると思う。


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