⚠注意⚠
ゴコイチ女体化のにょたゆりです。
女子高設定です。
苦手な方は見ないでね。
1.五藤×一宮
私と一宮は同じ女性アイドルグループを推している。地下アイドル上がりで、圧倒的に男性ファンが多い。ライブに行くと大体周りは男性客なので、私達二人は数少ない女ファンとして、協力して応援してる。
そのグループが表紙を飾る月刊誌が本日発売ということで、私達は書店に買いにいくことにした。
「今回の表紙はイマイチそうじゃない? 絶対スタイリングとメイク間違ってると思う。彼女たちが本当に輝くのはこういう系じゃないんだよな〜」
「……」
「? なんだよ」
「いや……」
書店に向かいながら、一宮は私にスマホの画面を見せてきた。今から購入する雑誌の表紙の画像が写っている。それを見た後に、一宮の風貌を一瞥し、いろいろ思うところはあったが突っ込むのはやめた。無地のTシャツにジャージ。私もかなり適当な服を着ているから人のことは言えないんだけども。それでも、一宮はそのセンスで好きな女の子達の良し悪しは分かるんだと不思議な気持ちになった。
「いやー、大きくなったよね。最初は着用衣装のオークションとかやってたのに……」
「プロデューサー変わってよかったよな」
「うん。私にお金さえあれば、おじさんたちにあの衣装渡さずに済んだのに」
「あの衣装、メジャーデビューして興味なくなったからって購入者が転売してたぞ」
「悔しすぎる……」
一宮は足元にあった石を蹴り飛ばした。推し活あるある、勧めてくれた人より自分の方が結果的にハマる。そのアイドルは私が最初にハマっていて、一宮にもちょっと好きになってもらえたらラッキーだな、くらいで布教してみたら、いつの間にか一宮の方が熱心に推すようになっていた。まあ、好きな子が自分の好きなものを好いてくれることは純粋にとても嬉しい。
「今の時期の夕方の気温と風最高じゃない?」
「そうだな」
「一生この時間帯を散歩したーい」
風がそよそよと一宮の髪の毛を撫でた。ふわっふわだ。綿毛みたい。一宮自身小さくて細いので、そのまま飛んでいきそうだ。
「てか五藤よく練習試合の後にこんだけ歩けるよな」
「お前が誘ったんだろ」
「だって五藤しか絶対来ないし」
「二井なら来るんじゃない?」
「えー……。二井はー……。私がアイドルの話したら不機嫌になるから嫌」
「はは、マジで嫉妬深い……」
「二井の方が顔も学力も金も負けてないんだから嫉妬しなくてもいいのにな」
「そういう意味じゃないんだけど」
「金は流石にどっこいどっこいか……」
「そういう意味でもないんだけど」
一宮……。あれだけ二井の近くにいて、あれだけ熱烈な視線を受けているのに、本当に何も分かってない。鈍感というレベルではない。まさか自分が他人から、ましてや同性から好意を向けられているなんて、夢にも思っていない。こういう警戒心のなさが、余計みんなを狂わせている。苦労するよな、私達。
「三好は?」
「三好は兄ちゃん達とデートだって」
「四ツ谷は?」
「家出たくないって」
「……四ツ谷、吸血鬼だしな……」
「まだ六月だよ? これから夏になってくのにさー。もう冬になるまで四ツ谷と外で遊べないかも」
「冬は冬で寒くて外出ないしな」
「あんなに体は大きいのに……。養殖魚ってこんな感じ?」
「鰻だな。今度格ゲーで対決して、負けたら私の練習試合見にこさせよ」
「絶対負けるし、絶対拗ねるし根に持たれるよそれ。怒らせると怖いからやめよ」
「怖くないだろ。力弱いし」
「それは五藤だからそんなこと言えんだよ……。四ツ谷、嫌いな人すぐ刺そうとするし」
「怖〜……」
「去年お祭り一緒に行った時さ、私も誘ったから悪いんだけど……。肩ぶつかった男の人に、『前見ろよデカ女が!』って言われて、咄嗟にその時四ツ谷が付けてたトゲトゲのバングル外して、振りかぶろうとしてたんだよ」
「あっはっはっは!」
「笑い事じゃないよ! 四ツ谷落ち着かせるのに三十分くらい掛かったから!」
「どうやって宥めたのそれ」
「絶対誰にも手出せないように、片方の手は私が繋いで、片方の手にはりんご飴持たせて、私が一方的にひたすら明るい話をした」
「明るい話?」
「動物園で小猿生まれたとか、今年のシャインマスカットは安くて美味しいとか、今までのテストの点数合わせたらギリギリ私の方が三好より高いとか」
「最後の明るいか?」
「この話題出すまで殺気すごかったんだから」
「……四ツ谷みたいなのが一番怖いよなぁ」
「……それ五藤が言う?」
「ん?」
「あ、いえ……」
とうでもいい身内の話をしているうちに、近所の書店に着いた。
新入荷のエリアにお目当ての雑誌が置いてあり、一宮はすぐに手にして表紙をうっとりと眺めた。ちなみに一宮の推しはメンカラがピンクの子。くるくるのツインテール、鉄壁の真っ直ぐな前髪、王道アイドルの顔立ち。自分大好きキャラで売っている。一宮は性格のいいぶりっ子が好きだ。大体にして三好である。
「やっぱ可愛いね〜……」
「イマイチって言ってたじゃん」
「可愛いものは可愛いの」
予算の都合上これ以上の出費はできないらしく、一宮はそのまますぐにレジに向かった。私は漫画コーナーに行き、現行で追っている新刊を手にして雑誌と一緒に購入。既に会計を終えていた一宮は、私の会計を待っている間、雑誌の新刊の方に視線を向けていた。気になり私もそちらを見ると、同じ雑誌を手にして中を確認している男性客がいた。チラッと見えたページには私達が推しているアイドルのインタビューが見えたので、多分同じファンだろう。あまり見ないファン層のタイプだ。若くて、見た目にも気を遣っている。
それを、一宮はじっと眺めていた。
ふーん。つまんな。
会計を終えた私は、一宮の腰に手を回して出口まで誘導した。
「ああいうのが好きなの?」
「えっ」
「え?」
「あ、ああいうのって?」
「さっきの男の人見てたでしょ」
「見てないよ」
「見てたよね」
「見てないって」
「見てたよ」
「……見てたけど、同じファンだなって思って見てただけで」
「興味津々だったけど。タイプだったの」
「え、タイプってか、いや、だって、誰が見てもかっこよかったじゃん」
「かっこいいか?」
「か、かっこよかったよ……」
「ふーん」
含みを持たせて言うと、一宮は気まずそうにリュックの肩紐を握り直していた。
「……五藤は、そういうのないの?」
「そういうの?」
「誰がかっこいいとか」
「私男は二次元しか興味ないしなー」
「まあ、そうか」
「それにさ、」
「?」
私が立ち止まると、一宮も立ち止まった。立ち止まったついでに一宮の顎に指を添えて掬う。
「私より良い人いる?」
「ぉぁ……」
所謂顎クイ。更に少し顔を近付けると、一宮は茹でダコのように顔を赤くして目を泳がせた。
ほら、絶対に私の顔が一番好きじゃん。
これだけ長く一緒にいても、未だに私が顔を近付けただけでドキドキしてくれる。
「も、もぉ! こういうのすぐするから! 私五藤のファンの子に嫌われるんだよ!」
「はは、ごめんごめん」
一宮は私の手を振り払った。耳まで真っ赤だ。やっぱり一宮を揶揄っている時が一番楽しい。
「そりゃあ、さっきの人より五藤のが何倍も顔いいけど」
「どうも」
「そもそも比較するもんじゃなくない? だって性別違うし」
「同じ人類だけど」
「そうだけど……」
「じゃあ、一宮は私のどこが一番好き?」
「えぇ……?」
「聞きたいなー」
「ん、んん、んんん……力?」
「……いや、顔じゃないんかい」
「お前……それ私以外の前で絶対言うなよ……」
2.三好×一宮
今日は一宮とお買い物なのだ!
お買い物と言っても、今巷で大ブームのアイス屋さんに並ぶだけなんだけど。
一緒に来てくれる人なら誰でもよかったけど、二井はそういうの全く興味ないし、五藤は部活だし、四ツ谷は論外。まあ、じゃあ、一宮か〜、と思って声を掛けたら、前向きに乗ってくれた。
一宮の嫌なところ、新しく可愛い服を卸してもなんにも言ってくれないところ。あと、髪型も可愛いのにしても、全然気付いてくれない。その分、自分からアピールしにいったら全部褒めてはくれる。もっと自分から気付いてくれるようになったらいいんだけどな。今日だって、誰が見ても絶対可愛いし。服は一宮が好きそうな女の子らしいものにしたし、髪は巻くのも編み込みするのも頑張ったし、メイクだって失敗した部分がひとつもない。可愛くないはずがない。
可愛くないはずはないけど。
でも、どうでもいい人に振る舞うための可愛さじゃない!
「お姉さん一人ですかー?」
「僕達この辺あんまり来ないんですけど、オススメとかってあります?」
「……えー」
男二人組に絡まれてしまった。
しまったな、こんな外で待ち合わせじゃなくて、適当な商業施設の中にすればよかった。
「オススメですかー。あそこいいんじゃないですか。公園、手洗い場あるし、水とか飲めるんじゃないですか」
「ははっ、水道水ってこと?」
「お姉さん面白ーい」
うっざ、ムカつく、面白いわけないだろこのタコ。いつもだったらもう少しノリよく返してるかもしれないけど、今日の私は空腹と暑さでイライラしているのだ。この二人、全然かっこよくもないし、尚更腹立ってきた。
「誰か待ってます?」
「待ってます〜」
「女? 男?」
「えー、あー、彼氏ですー」
「彼氏なの? こんなに可愛い子待たせるなんて酷くない?」
「酷いですねー、そうですねー」
「一人で待ってたら危ないですよね? カレシさん来るまででいいし、僕達とそのオススメの公園で遊ぼうよ」
「お兄さん達についていくより、一人で待ってる方がよっぽど安全だと思うんですけど〜」
「え、僕達のこと危ない人だと思ってます?」
「違うんですかー?」
「そんなことないって。一人でかわいそうだなーと思って声を掛けただけだから」
ハァー? かわいそう? どっちがかわいそうだよ!
穏便に済ませたいという気持ちと絶対にこの男達に負けたくないという気持ちがせめぎ合い、全然後者の方が勝ってしまった。でも私は一宮にこれから可愛いって言ってもらわないといけないし、髪型もメイクも崩したくないし、暴力沙汰にはしたくない。よろしくないことに、私は殴ろうと思えば全然殴れてしまう。
最終兵器、兄ちゃん達に連絡するか。兄ちゃん達はみんな私のことが大好きなので、グループチャットにちょっとでもSOSサインを送れば誰かしらは飛んできてくれるだろう。全員に私の位置情報は把握されてるし。
「ありがとうございますー。じゃあちょっとだけ」
「おっ、ノリいいね」
「その前に、彼氏に連絡だけしていいですかぁ?」
スマホを構えて早急に兄達にメッセージを送ろうとした時だった。
「っあ、あっ、あのっ」
「!」
「え」
「ん?」
上ずった声を上げながら、私の前に立った十分遅れの女の子。一宮がやっと来てくれた。
「あの、あの、や、やめてください……。こ、困ってるんで……」
「一宮……」
一宮はその小さい背中で私を隠し、ぶるぶると震えながら男達と対峙した。
それを見た瞬間、私の心臓がぎゅ〜〜〜〜〜んっと高鳴った。……私より小さいのに。私より力弱いのに。私より口も頭も回らないのに! 身を挺して私を守ろうとしてくれてる! なにそれ! 可愛い!
「あ、妹?」
「いっ、妹っ!?」
「小学生? カワイ〜」
「なっ……」
「俺子どもの面倒見るの得意だよ。一緒に遊ぶ?」
「あ、遊ばないです! 妹でも小学生でもないっ──」
次はぷんすこと怒っている一宮の腕に手を這わせ、そして指を絡めた。一宮はびくっと肩を揺らした。一宮の手、汗をかいてる。きっと凄く緊張したんだろうなあ。
「ごめんなさいお兄さん、私この子の彼女なんです〜」
「え」
「え」
「エッ!?」
「残念ですが、男の人は興味ないんでー」
一宮があんぐりと口を開けながら私の方を見た。面白い顔ー。
「ってことで、私達これからデートなんで、ラブラブする予定なんで、ごめんなさ〜い」
「ちょ……」
私は一宮の手を握ってそのままダッシュで逃げた。最初こそ全力疾走していたけど、次第に楽しさと嬉しさで大きくスキップをしながら移動した。一宮はスキップができないので必死に足をバタつかせて着いてきていた。全部可愛い。
信号が赤になったタイミングでやっと足を止めたけど、握った手はそのままにしておいた。一宮は苦しそうに呼吸をしていた。
「一宮ー、かっこよかったね!」
「ッはぁ、こっ、断り文句にしても、無理があるだろ!」
「えー、じゃあ、無理なくする?」
「……?」
「私このまま一宮の彼女になってもいいよ」
「……えぇ?」
「ノー無理! 自然な関係!」
「……」
どうかな? 一宮バカだから、うんって言っちゃわないかな。
「……絶対ヤダ」
「えー、なんでよ」
「三好のファンの子に怒られるから」
「ふふ、そこなんだ」
じゃあ周りが何も言ってこなかったらいいんだ。そういうことだよね。
「ねー♡」
「んー……?」
私はもう一度強く手を握り直した。首を傾げながら一宮を見ていると、一宮はやっと私の全体を見て、目を輝かせながらあっと声を上げた。
「髪の毛、前言ってたやつ?」
「うん、そうだよー!」
「服も、前買おうか悩んでたやつ?」
「うんっ、そうなの!」
「凄く似合ってる。可愛い!」
「えへへ……」
全部一宮のためだよ!
っていうのは、メイクも褒めてくれるようになったら言ってあげようかな。
……でも、一宮の方から可愛いって言ってくれた。今日は雨降ってないけど、虹がでるかもなあ。
「ねー、アイス半分こしよー」
「まだ買ってもないのに……」
「ん、あれ? ここどこだ?」
「ん? ここどこだろう?」
「兄ちゃん、助けてー」
「え、三好まだ兄ちゃん達に位置情報把握されてんの?」
「うん、だからこのまま一宮とホテル行ったら多分誰かは飛んでくるよ」
「なっ、えっ、な、なんでそんなこと言うの!?」
「冗談ですやーん」
3.四ツ谷×一宮
頭がガンガンする。脳みそをぎゅっと縛られているような痛み。今日は起きた瞬間から気圧の低さを覚悟した。昔から低気圧の日は頭痛が起きてしまう体質だった。
薬は朝しっかり飲んだのに、もう効果が薄れてきたのか、お昼前なのにまた頭が痛くなってきた。次はお昼ご飯を食べるまで薬を飲めない。最悪だ。気分が悪すぎて、三好や五藤にも伝えずに保健室に来てしまった。
私は保健室の常連なので、部屋に入っただけで先生が私の顔色で察知してベッドへ寝かせてくれた。
本当に嫌な身体だ。頭は定期的に痛くなるし、体力はないし、無駄にデカいし。保健室のベッドだって小さい。
あーあ。こんなに身体の長さ持て余してるんなら、どうせなら男に生まれたかった。私の人生では、この身長でいい思いをしたことがあまりない。運動が得意なわけでもないので活かせないし。
あー、頭がガンガンする。
グラウンドから声援がよく聞こえてきて、目を開けた。どうやら寝ていたらしい。痛みは少しマシになったかもしれないけど、まだダルい。今の時刻は何時なのか時計を見ようと体を起こすと、ベッド脇で何故か一宮が漫画を読んでいた。
「え、なんでいるの」
「あ、起きた? 頭痛は大丈夫?」
「いや、あんまり……」
一宮は腰掛けていた椅子をベッドに寄せた。私が変なのだろうか。未だに寝ぼけている感覚がする。
「今って授業中?」
「うん。バリバリ四限目」
「なんでいるの?」
「体育、サッカーなの嫌すぎて逃げてきた。一組と合同だし、五藤いるから醜態見られたくないし」
「サボり?」
「サボりだね」
「一宮はいつから不良少女になったの?」
「今日だけだよ!」
本当にそれだけだろうか。一宮は馬鹿だし運動もできないし全科目成績が悪いけど、授業態度が悪いわけではない。普段は嫌だからという理由で体育は休まないはず。
「本当は?」
「なんだよもう、ネタバレしない方がかっこいいと思ったのに」
「そういうのいいから」
「……さっきの休み時間、四ツ谷が凄い顔しながら教室出てくの見えたから。保健室だろうなーって」
「当たったね」
「当たってたね」
「でも御見舞なら授業終わってから来ればよくない?」
「だって、一人だと四ツ谷寂しがるだろー?」
「……別に、そんなことないけど」
私のこと何歳だと思ってるんだろう。いつまで経っても妹扱いするのはやめてほしい。
「まりあちゃんは?」
「私が保健室来た時にはいなかったよ。だからサボってるのバレたら怒られちゃう」
まりあちゃんとは、保健の先生のこと。私を対応してすぐどこかに行ったのだろう。その後、一宮はこっそり私の枕元で番人をしていたのか。
「また寝る?」
「んー……。いいや。一宮がいてくれるんでしょ」
「もしかして私いる方が安静にできない?」
「一宮がいてもいなくても変わんない」
「ああ、そう……」
一宮はしょぼんと苦笑いした。
嘘だよ。本当は嬉しい。
「……一宮、隣で寝てよ」
「え、駄目だろ。バレたら怒られるって」
「サボってること自体駄目だから別に何しても一緒だって」
「サボった上に病人の横で寝るのはめちゃくちゃ駄目でしょ」
「嫌なの?」
「嫌とか、そういうのじゃないけど」
「じゃあ、寂しいから隣来てよ」
「そんなことないって言ってたのに……」
私はベッドの端に寄り、一宮がいる方のスペースを空けた。布団を持ち上げてアピールすると、一宮は恥ずかしそうにしながらそろっと布団の中に潜り込んだ。
一宮はいいサイズ感だ。家にある抱き枕より少し大きいくらい。だから抱きつきながら寝やすい。いつものように一宮を抱き締めると、一宮は縮こまって私の中におさまった。
ふわふわの頭に顔を埋める。いい匂いがする。整髪料を使っていない、太陽に当たったみたいな自然な甘い匂い。私はこれ以上に落ち着く香りを知らない。一宮は自分の髪の毛を嫌っているけど、私は可愛くていいと思う。私がこの身長を嫌ってても一宮が憧れてくれてるみたいに、お互いの嫌いなところはお互いが好いていたりする。
一宮の息がこまめに首筋に当たり、くすぐったくて口角を緩めた。
「一宮、呼吸速い」
「ご、ごめん」
「んーん。いつものお泊りの時と一緒じゃん。なんで緊張してんの?」
「なんでだろうね……」
「制服だから?」
「……うん」
「ふ……。一宮はさ、やらしーよね……」
「え」
一宮の胸元に手を伸ばし、セーラー服のリボンを抜き取った。何も分かってない顔。
「制服着てこういうことしてたら、緊張しちゃうの?」
今は本気で手を出すつもりはない。だけど、一宮がのこのことベッドに入ってきてくれたから、ちょっとくらいイタズラしてもいいんじゃないか。
と、思って、一宮のセーラー服の裾から手を突っ込むと、肌でも肌着でもない感触がした。
「……体操服着てんの……?」
「え、うん。体育の予定だったし」
「え、一宮って体育の日は制服の下に体操服着てくるの?」
「うん。だって着替えるの面倒だし」
「……」
私は大きなため息をついた。別にそれが悪いことではないけど。ただタイミングが悪かった。一気に萎えてしまった。
「半ズボンも履いてるよ」
「一宮って、やらしくないね」
「え?」
萎えたけど、ただ、まあ、一宮らしくて少し安心した。落胆と安堵を込めて一宮の頭に鼻先を押し当ててぐりぐりとこすりつけた。
「ぐりぐりすんのやめて〜」
「一宮、私病人なんだよね。労わってよ」
「じゃあ余計こんなことすんなよ」
「私がまた保健室に行ったら、一宮は来てくれる?」
「行くよ、可能な限り」
「ふふ」
一宮、勿体無いなあ。私なんかのせいでただでさえ低い成績を下げちゃって。でも一宮の中では、私の方が大事なんだ。
「……このまま一緒に溶けちゃいたいね」
「今溶けちゃったらお昼ご飯食べられなくなるよ」
「ふふ……私は別にいいよ」
「私は嫌だよ」
他愛もない話をした数分後、一宮は寝息を立てた。病人よりガッツリ寝ていた。そして、授業終わりに保健室に入ってきたまりあちゃんと二井と三好と五藤に見つかってめちゃくちゃ怒られたとさ。
4.二井×一宮
四限目が体育とか身体測定とかだと、昼休みの時間を削って着替えないといけないの不公平だよな、なんて不満をもらしつつも、一宮はご機嫌に着替えていた。なんならちょっと聞き出してほしいというオーラまで感じる。
「……何cmだった?」
「え、気になる? 気になる?」
「……」
可愛いとムカつくの境目。正直どうでもいいと言えばどうでもいいけど、断ることはできないので頷いておいた。一宮はにぱっと笑った。
「前より1cm伸びてて153cmだった! 絶対止まったと思ってたのに!」
うん。これは可愛い。身長を気にしてる一宮は可愛い。私にとって数字はどうでもいいけど、小さいことで一喜一憂している一宮は可愛い。
「よかったな」
「平均はほしいなー。158だっけ」
「もう少しだな」
「うん、もう少し」
一宮のあと5cmが果てしなく遠いことは知っているが、応援しないわけにもいかない。頑張れ一宮。
「二井は何cmだった?」
「私は……168cm」
「へー、もうちょっとで170だ」
「流石にそこは超せない気がする」
「さっき一組のみんなにも聞いたけど、お前ら身長高すぎるんだよ」
「三好はそうでもないだろ」
「そうでもあるよ! 三好だって普通に160超えてるもん! みんなの感覚がおかしいんだよ!」
「三好ってそんなにあるのか?」
「二井から見たら全員小さく見えるだろうな……」
「い、いや、五藤は私より大きい」
「あー、173って言ってたな。男の平均身長より高いらしい」
「逆ナンされることも多いしな……」
「ちなみに四ツ谷は教えてくれなかった。でも自販機と同じくらいの高さだったのは覚えてる」
「……多分、先生含めてもこの学校の誰よりも高いんじゃないか?」
「四ツ谷から私の顔って見えてんのかな」
身長トークを繰り広げ、一宮が購買に寄りたいと言っていたので一緒に着いていき、クラスに戻るとクラスメイト達が何やら異様に盛り上がっていた。一宮はそれが気になったようで、すぐさま輪の中に入っていった。
「なんの話?」
「キスとかハグしやすい身長差が12cmから15cmなんだって」
「へー……」
「あたし160cmだから、172cmくらいの人が理想なんだよなー。二井は何cmだった?」
「え、ああ、168だった」
「あー、じゃあ駄目かー。172cmあったらハグしてもらおうと思ったんだけど」
そういうことか。ぴったりの身長差の二人でそいううことをして盛り上がっていたのか。
「逆に二井くらい高いと最低でも12cm差探すの大変だね」
「まあ……」
そう言われてもあまりピンとこなかった。自分より高い人なんて今まで一度も想像すらしてこなかったから。だって今までずっと私は視線を下げてきたし。
ちらっと一宮を見下ろすと、一宮は指折り数を数えていた。
「あ、じゃあ私、165cmから168cmの人ってこと?」
「え」
思わず声が出た。周りのみんなもピンときたようで、一斉に多くの視線が私と一宮に刺さった。
「……おお〜?」
「真横にいるじゃん」
そう言われて一宮は一瞬考え、閃いたように私を見上げた。
「あ、二井か」
「……あ、いや……」
「えー、一宮よかったじゃん! 理想の身長差体験できるよ!」
「ハグしろ! ハグ!」
「え……!」
「い、いや、そういうのは……」
「いけいけ、キスだよキス!」
「チューしろ!」
「はい、キーッス、キーッス!」
女子校の悪ノリが出てきた。周りは盛り上がりに盛り上がって、手を叩いてコールをしている。こんなところでできるわけがない。一宮も真に受けて、顔を赤くして慌てて首を横に振った。
「あー、もう、やめやめ! しないから!」
「えー」
「ノリ悪いな」
「ノリ悪いとかじゃなくて! ご飯食べる時間なくなるよ!」
「それもそうか」
「ていうか一宮と強制キスさせられる二井も可哀想だな」
「可哀想とか言うなよ! 私にも配慮してよ!」
はぁ、むしろありがたい場でしたが。とは言えず。
一宮はぶつぶつと文句を言いながらお昼の準備をした。その場は解散となった。
放課後になり、いつものように一宮と下校する。教室にいる間はまだよかったが、二人になって玄関に向かう時はちょっと気まずかった。特に一宮がいつまでもお昼のくだりを気にしていたようで、いつもよりお互いの距離が遠めだった。めちゃくちゃ遠い。尾行されてる距離感くらい遠かった。変に意識されている。意識されているのが嬉しい反面、よそよそしさがこのまま残ってしまったら嫌すぎる。私はただ何事もなかったかのように、いつも通りに振る舞うしかない。玄関で靴を履き替える時、一宮に話題を振ってみた。
「一宮、別に何もしないから警戒しなくていい」
……いつも通りに……振る舞う……はずだったんだけど……。馬鹿か私は。
「え」
案の定、一宮はぎく、と体を固めた。ああ、失敗した。こんなの、何かする前提の考えだろ。
「……あ、いや、その……さっきのは悪ノリだったって私も分かるから」
「……さっきのって、ほんとかな」
「え」
「ハグとか、キ、キス、しやすいって……」
「……」
私は目を閉じて、深呼吸をした。
サッカー部の声出し、管楽器のアルペジオ、廊下を走り抜ける足音、生徒の笑い声、生命の煌めき(心臓の音)──。
あ、駄目だ。意識が飛んでいた。こんなに鴨がネギを背負って来ることってあるんだ。
私はローファーを履くのを中断し、一宮に近付いて手を取った。
「や、やってみ……ますか」
「……え」
「わ、私達の、相性が、いいか……」
「えっ、えっ、えっ」
「ハ、ハグ、と、キッ、キス、を──」
「10cm差って、手繋ぎやすいらしいよー!!」
「え?」
いきたり、弾丸のような速さで一宮が連れ去られた。目をぱちくりと見開き、外に体を向けると、いつの間にかやって来た三好が一宮と手を繋いで入り口で立っていた。
「み、三好……」
「あれ、三好補習は?」
「サボった!」
「えー……大丈夫それ?」
「いやあ、凄く下劣な思想を読み取ったもんでぇ」
「っ……」
三好はにたにたと笑いながら俺を見た。
「二井、マジでムッツリなんだからさ〜……」
「いやっ、そ、そういうのじゃ……!」
「どういうのですかぁ? いっそお昼の時にやっちゃえばよかったのに。意気地なしの陰湿ムッツリめ〜」
「……〜〜ッ!!」
クソ、クソ、クソ! 三好! 腹立つ! なんで全部知ってんだよ! こいつ本当になんなんだよ!
一発くらい殴ろうと三好に向かって走ると、三好は笑って一宮と手を繋いだまま逃げ出した。
ちゃっかり手を繋ぐな!!
①一宮 守
どんな世界線にいても99%何も気付けない
②二井 虎太郎
この世界線の二井は行動力と本能の塊だ! いつだってラブラブできないか隙を狙っているぞ
③三好 叶斗
この世界線の三好は逆にお兄ちゃん三人から溺愛されている。お兄ちゃん三人は、なんなら叶斗ちゃんの大事なお友達の一宮守ちゃんのことまで大好き
④四ツ谷 天音
この世界線の四ツ谷はドメンヘラ・ドヤンデレなのでいつもギリギリ。一宮がなぜかいつも紙一重で回避している
⑤五藤 空良
この世界線の五藤は自分の才能と顔に頼りすぎている。実際誰も文句がつけられないのが難点。自分の完璧な人生において、一宮の興味が自分に向かないのだけが許せない
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