ゴコイチが肝試しに行った話

⚠注意⚠

整合性がなくなったので非公開にしていたやつです。

ゴコイチが中学時代に肝試しに行く話です。

が、本編では一応この時期は三好が荒れていてこんな展開にはなっていないはずなので、これは別世界線ということにしておきます。



 ミンミンジリジリと日本の夏らしい音が窓越しに聞こえてきた。

 夏休みも中盤に差し掛かってきたが、全く課題が終わっていない俺達を見かね(主に俺と三好)、二井が課題合宿と称して俺達を二井家に招いてくれた。


「ねえねえ、今日マジ怖だって」

「えっ、みんなで見よ」

「お前らなあ……」


 俺と三好は早々に勉強に飽きてしまい、シャーペンを手放して興味を違う所に持っていってた。

 二井はそんな俺達を見て心底呆れていた。五藤がこちらを見て首を傾げる。


「マジ怖?」

「マジであった怖い話」

「ああ、毎年やってるやつ」


 毎年この時期に放送する、ホラー特番。視聴者から提供されたノンフィクションの恐怖体験をお茶の間に放送するアレだ。

 俺はホラーは普通に怖いと思うけど、それよりも興味の方が勝ってしまう質だった。だからみんなとマジ怖を見れるなんて楽しそうだと思い、三好の提案に乗っかった。


 が、そこで課題をとっくに終わらせソファでうとうとしていた四ツ谷がのそっと起き上がった。


「嫌だ」

「えー、みんないるからいいだろ」

「……他に見たい番組ある」

「四ツ谷、テレビなんて普段見ないだろ」

「……」


 四ツ谷はじとっと俺を睨み、ふてくされたようにまたソファに顔を埋めた。四ツ谷がホラー苦手なのはみんなも既に知っているし、もっと強く出ればいいのに。恥ずかしいのか、ここで何も言えずに流されるのが四ツ谷らしい。まあ見ないなんて選択肢は無いけど。今回も四ツ谷の抱き枕になってやるか。


「てかさー、俺らも体験したよね、マジ怖」

「……あー」


 二井がスマホでマジ怖のサイトを見ながら呟いた。それを聞いて、五藤は思い出したかのように課題を進める手を止めた。

 あの時の事を思い出し、俺も背筋に寒気が走る。


「あれって、やっぱりマジだった?」

「マジでしょ」


 あまりの怖さに数年間俺達の間でタブー視されていた話題。ここに来て記憶が蘇ってしまった。


 それは、中2の時の林間学校での出来事だった。




「去年の先輩達さ、この近くの廃墟になったお化け屋敷に行ってヤバイの見たって」


 そう言って、三好が取り出してきたのは随分昔のお化け屋敷の宣伝チラシだった。


「どこでこれ手に入れたの?」

「俺が林間学校でここ泊まるって言ったら、ねーちゃんが引っ張り出してきた」


 俺達は林間学校で、山奥の宿泊施設に泊まっていた。そして、この施設の近くには今は廃墟となったお化け屋敷がある。

 最悪な立地に建てられているが、どうやら昔、各所にあるホラースポットを巡る「ホラーツアー」なるものが存在し、それ用に山奥に建てられたお化け屋敷だそうだ。今はもうやっておらず廃屋となっているが、どうやら「出る」との噂だった。


 普通に山奥に泊まるってだけで怖いのに、お化け屋敷なんて。しかも廃墟だし。触らぬなんたらになんたらナシだ。


「ね、みんなで行かない?」


 三好がにんまりと笑う。


「パス!」

「え〜。せっかくだし行こうよ。五藤は乗り気だよ」

「あ、ええ?まあ、楽しそうだし別にいいけど」

「オイ五藤!」


 五藤は三好に肩を組まれ、苦笑いを浮かべている。このイケメン、怖いものなしかよ。


「俺は反対だぞ。そういうとこ、おもしろ半分で行ったら駄目だろ!」

「ホラー映画は好きなのに、体験すんのはイヤなの?」

「イヤとか、そういう問題じゃない。ほら、四ツ谷を見てみろ」


 四ツ谷は俺の背後に隠れて(隠れられていないが)俺の体操服の裾をギュッと握り、首を永遠に横に振り続けている。


「可哀想だろ。四ツ谷の首が駄目になる前に撤回して」

「えぇ〜?もしかして一宮クン、ビビってるんですか〜?」

「はっ?」

「まあ仕方ないよね。流石に怖いか。おこちゃまの一宮は無理かなあ」


 三好が態とらしく肩を落とす。

 俺達ももう中2になったのだ。コイツらの扱いもお手の物。何年付き合ってきたと思うんだ。こういうのは乗らずに軽くかわすのがコツ。


「はぁ!?別に行けますけど怖くないですけど行きますけど!?」

「はい、みんなで行こ〜♡」


 俺のお馬鹿!!!!!


 後にいる四ツ谷が顔を真っ青にして俺を見た。俺は気まずくなって顔を逸らす。スマン、四ツ谷。

 そして、そんなやり取りを見て二井がズバッと言う。


「俺は行かないぞ」

「なんで!!」

「だって夜の外出禁止だろ」

「真面目ちゃん……」


 二井は規律に厳しい男なので、こう言ったらてこでも動かないだろう。


「四ツ谷、二井は残るらしいし、無理に来なくていいよ」


 背後にいる四ツ谷に呼びかけると、弱々しくまたふるふると首を振った。


「いや、行く……」


 絶対強がりじゃん!こんなデカくて一見怖そうな男が健気に強がっている!可愛い!!


「四ツ谷〜ッ!偉い!凄いぞ!」

「……」


 俺は後ろを振り返り、四ツ谷を思い切り抱きしめて物凄い勢いで頭を撫でた。ほわっと表情が緩んだのが分かった。満更でもなさそう。

 すると二井が割り込むように声を張った。


「知らないからな。先生に何言われても」

「大丈夫でしょ!先輩も裏口からいけば簡単に抜け出せたって言ってたし」


 三好が笑いながら写真撮ってきてあげるから楽しみにしててね、と二井に言った。


「とはいえ、今日は流石に山登りで疲れたから……明日の夜行こっか」

「そうだな。体ベトベトするし。早く風呂入ろ」

「あれ、一宮……お前、後ろに……」

「おい五藤そういうのやめろって!?」


 その日は結局しっかり休む事にして、本番は明日になった。なったはずだった。




 ぺた、ぺた、ぺた。


 夜中、ぐっすりと寝ていた俺だったが、物音が聞こえて起きてしまった。

 眠気眼で体を起こし、横を見てみたら隣で寝ているはずの二井がいない。扉の方を見るとゆっくりと外に向かって行こうとする二井の後ろ姿が見えた。

 多分、トイレだろう。そう思ってもう一度布団にもぐろうと思ったが、なんだかそわそわしてしまい、起き上がって二井の後を追いかける事にした。


 廊下は非常灯の明かりしか灯っておらず、夏の夜特有のひんやりとした空気が漂っていた。

 二井はぺたぺたとゆっくり前を歩いている。この視界の悪さにも関わらず、まるで行く先を確信しているように迷いがない。俺はそれが不安になった。

 そして、二井はトイレの横をすっと通って行った。あれ、トイレに行くんじゃないの?


「二井?トイレここだぞ」


 俺の声が聞こえなかったのか、二井は歩みを止めない。俺も俺でこんな夜中にそこまで大きい声を出せないので、仕方なく後をついて行った。走って追い掛ければいいのに、何故か今の速さ以上のスピードを出せなかった。


 そのまま進んでいくと、この施設の裏口に到達した。すると二井は何も言わず、内鍵を回し、裸足のまま外に出て行った。


「え、ちょ……」


 外に向かって二井!と声を掛けるが、ぴくりとも反応しない。

 勿論靴なんて持っていなかった俺はこれ以上は追い掛けられないと判断して、元いた部屋に戻る事にした。


 __なんか、ヤバくない?


「なあ、みんな起きて」


 俺は部屋の蛍光灯の明かりをつけ、みんなを起こした。みんなは文句を言いながら起き上がる。


「んん……何よ」

「トイレくらい一人で行って……」

「ヤバイんだって!二井が出てった、外」

「……え?」


 俺は二井の布団を指差す。そこはもぬけの殻だった。他のみんなも俺の指先の方を見て目を見開く。


「外って、部屋の外ってこと?」

「違う、マジで外、この外、裸足で出てった」

「……本当に?」

「本当に。俺、二井の後追ったんだけど、裏口から出て行った。なんか、ずっと喋んなくて……怖かった」

「……」


 俺達は黙り込んだ。これはヤバイとみんなも思ったのだろう。だって、よりにもよってあの二井が。冗談でこういう事をやる人間じゃない。


「二井、どこ行ったんだろ……」

「……やっぱ、あそこじゃない?」


 俺達はお互い目を配らせた。


 あそこ、つまりお化け屋敷。


「なんで……」

「なんでかは分かんないけど、でも、そこしかないでしょ」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。


「……行こう、連れ戻しに」


 三好と五藤がこくりと頷いた。怖いけど、でもどうせ行こうとしていた所だ。それが一日早まっただけ。自分にそう言い聞かせた。


「四ツ谷はどうする?待ってる?」

「……一人になる方が嫌だろ」


 四ツ谷は苦い顔をして起き上がった。俺達も鞄から懐中電灯を取り出して準備をした。


「よし、行くぞ。作戦Oだ」

「オー……?」

「お化けのO」

「アホが滲み出てる……」




 山道を更に上に進んで数十分、俺達は例のお化け屋敷に到達した。看板や建物はボロボロで、一目で「入ってはいけない」という雰囲気を感じ取れた。管理者はこの施設を放棄しているのか、扉や割れた窓からは入り放題、というくらい侵入が簡単そうだった。

 風が吹き、周りの草木がガサガサと音を立てる。

 俺はさっと五藤の背後に隠れた。


「行け、五藤」

「ええ……」

「先頭は任せた。お前しかいない」


 五藤は仕方なさそうに懐中電灯の明かりをつけ、さくさくと前を歩いて行った。

 なんなんだよあいつの度胸は。五藤が一番怖えよ。


 そして、俺達はお化け屋敷の中に足を踏み入れた。大分老朽化が進んでいるようで、歩くたびに床がミシミシとなった。なんだか天井あたりからミシミシ意外の音も聞こえる気がするが、きっと気のせい気のせい。


「んぎゃああああっ!!」

「うわあっ!?」

「エッ何!?」


 横にいた三好が突然悲鳴を上げた。思わず俺も一緒になって叫ぶ。

 三好が俺の方を見て、眉を下げた。


「虫」

「オイ〜〜〜ッ!!マジでそういうのやめて!?」

「俺、虫駄目なんだよ〜」


 うう、とすすり泣きながら三好が俺に寄り添った。


「こわーい。一宮、手繋ご?」

「えー……まあいいけど……」


 一宮が俺の右手をすくい、指と指を絡め、所謂恋人繋ぎをしてきた。


「一宮、手汗凄い」

「うるさいな」


 自分から繋いでおいてコイツは。

 三好の手を引いて先に進むと、背後から俺を包み込む圧を感じた。


「……」


 四ツ谷が無言で俺に抱きついてきた。顔も俺の肩に埋めている。多分何も見ずに前を進もう作戦だろう。なんだか四ツ谷が可哀想に思えてきて、俺は空いている方の手で四ツ谷の頭を撫でた。


「やっぱお化け屋敷だな。すげーのいっぱいある」


 五藤が懐中電灯で照らした先には、精巧に作られた人型のロボットが椅子に座っていた。目玉は飛び出て、服も血に染まっている。普通に怖い。多分五藤がいなかったら叫んでいただろう。


「なんでお前そんな大丈夫なんだよ……」

「いや、怖いけど」

「全然そう見えない」

「まあ結局人間が一番怖いしな。それに比べれば」


 この状況でこう言えるこいつの感性はなんなんだ。どこか狂っているだろ。やっぱり五藤が一番怖い。


 俺達は道に沿って先に進んだ。もともとはお化け屋敷だったので細い一本道だった。周りには当時は客を驚かせていたであろう機械がたくさんあったが、それも作動しておらず固まったままだった。


「おーい、二井ー」

「二井、いるー?」


 しきりに二井の名前を呼んだが、返事はなかった。大分進んだが、二井がいる気配もなく、そろそろ二井が本当にこの場所にいるのかが疑わしくなってきた。


「なあ、やっぱりここにいないんじゃ……」


 そう言った直後、俺達の背後で突然ガタン!!という音が鳴った。

 それを聞いて四ツ谷がまるで飛び跳ねるように、俺の体に腕を回したまま俺ごと引っ張って五藤の体に隠れた。手を繋いでいた三好が足を縺れさせながらついてくる。


「キャーーーーーッ!!!」

「何何何何何何何」

「五藤ッ!確認!!」

「ちょ、押すなよ!」


 五藤が音が鳴った方に体を向け、懐中電灯を照らしてあたりを探った。


 そして、その先には。


「……え?」


 お化け屋敷の仕掛けの人形だろう。

 かろうじて人型を保っているようなその人形は、まるで肉塊が腐敗したようにドロドロとしていて、顔も体もボロボロだった。


「……なんだ、人形か」

「ふう、びっくりさせんなよ!」


 こういう人形はここに来るまでに何体かあった。そういうやつだろう。

 それを見て、三好が俺の手をギュッと握る。


「……どこから出てきたの、コレ」

「……」


 その人形は、作り物にしては大分リアルだった。まるで、本物の人間の残骸のように。

 怖くなり、俺は五藤の手を引いた。


「なあ、もう行こう。多分二井ここにいないって。さっさと出て……」

「__おかしくない?」

「……?」

「口、動いてる」


 五藤は懐中電灯でその人形の口元を照らした。


 微かに、口がカタカタと動いている。


「え……?」


 そしてその動きはだんだん大きくなっていき、ボロボロになった歯をカチカチと噛み合わせ出した。


「なあ、これ、ヤバイんじゃない」

「俺も、そう思う」

「こういうのって、ホラー映画じゃ、追ってくるんだよな、ハハハ」

「ハハハ……まさか……」


 ガタッと頭を動かしたその人形は、体を持ち上げて不自然な動きで起き上がった。俺達の方を向いて。


「……いやいや……」

「オイ、お前ら……」


 そして、その人形が機械の音を鳴らし俺達を目掛けて歩き出す。


「逃げるぞ!!!!!」


 俺達はがむしゃらに走った。なんなんだよアレ!!機械にしては精巧すぎる!!


「やば〜っ!!動画撮っとけばよかった!!」

「それどころじゃないだろ!?」


 必死に走りながら、横で三好が悔しそうに声を上げる。五藤はその俊足な足を活かしさっさと先に進んで行った。あんなに俺にしがみついていた四ツ谷は俺なんか目もくれず、五藤といい勝負なくらいすぐさま飛んで行った。そして必死に走る俺の横にはシャッターチャンスを逃して後悔している三好。なんなんだよコイツら。そして遠くから四ツ谷の鳴き声が聞こえる。


「う"う"う"う"う"う"う"う"」

「ヤバイ!!四ツ谷が狂った!!」


 後ろをチラッと振り返ると、その人形はまだ俺達を追い掛けていた。


「はあっ、これっ!いつまでついてくんの!?」

「っヤバイ、みんな!」

「なにっ!」


 前の方から、五藤の声が聞こえてきた。俺はまさか、と思い鼓動が更に加速した。

 俺と三好は二人の元まで辿り着き、そして目を見開いた。


「行き止まり……」


 最悪だ。俺達は壁を必死に叩いた。

 後ろを振り返ると、人形はもうすぐそばまで近付いていた。


「……やば……」


 カタカタと人形が俺達に迫る。


「……だ、大丈夫。これ、人形だし」

「そうだけど、そうだけど……!!」


 そして、先頭にいた俺の顔のすぐそばまで来て、カパッ大きな口を開けて、


「ぎゃーーーーー!!!!!」


 食われる!!

 俺は目を瞑った。瞬間、バコン!!という音が空間に響く。あまりの怖さに体を縮こまらせた。


 が、数秒たってもなんの衝撃もなく、俺は恐る恐る目を開けた。顔を上げると、そこにはとある人物が。




「おい、大丈夫か?」



「二井ーーーーーッ!!」

「お前ぇぇぇっ!!」

「クソォ!!よくやった!!」


「は、え、何」


 そこには二井がいた。俺達はわんわんと二井に抱きついた。床を見ると、先程の人形は首を落としゴロンと生気なく転がっていた。二井の手元には、この廃屋にあったであろう角材が握られていた。


「二井っ……お前マジ……クソっ!!」

「感謝すればいいのか、怒ればいいのか……」

「もともとはコイツのせいだからな!?許してはおけん」

「はあーっ、マジで怖かった……」

「だから、どうしたんだよお前ら」


 混乱しながら俺達を見ている二井を俺は睨みつけた。


「どうしたんだよはこっちのセリフですが!?謝れよ!!びっくりしたんだからな、突然!!」

「はあ?」

「謝れ!!」

「……はあ、スマン……」

「なんだよそのやる気のない謝罪……」


 二井はなんだかよく分からない、という表情だった。そして、安堵している俺達を置いて、床に転がった人形の頭を持ち上げた。


「なあ、この人形なんだ?動力はどこから?この廃屋、電気通ってるのか?」


 二井の発言に俺はびくりと肩を揺らす。

 二井が掴んでいるその人形の顔を見る。ぴくりとも動いていない。


「え……?」


 俺は目を疑った。

 先程のようなドロドロのゾンビみたちな面影はなく、古めかしさはあれど普通の顔をした人形だったから。


「え、え?」

「あれ、こんなんだった?」

「……見間違い?」


 四ツ谷が俺の腰に腕を巻きつけ、ぎゅうっと力を込めた。


「……」

「……帰ろっか」

「うん……」




「あれなー、マジで怖かったな……今でもあの人形がなんなのか分かんないし」

「あのお化け屋敷もう取り壊されて、跡形もないみたいだよ」

「じゃあ本当にもう確認できないんだ」

「まあもう二度と行きたくないけどな」


 はは、とみんなが苦笑いをした。

 あの後の林間学校の行事は何も覚えていないほど、お化け屋敷での出来事はインパクトが大きかった。


「っていうか、なんで二井はあんな所に一人で行こうとしてたの?」

「あ、それは俺も気になってた」


 あの時の事は暗黙のルールで話題に出さない事にしていたから、二井が起こした謎行動も結局理由不明のままだった。


 二井は首を傾げて俺達を見る。


「いや……俺はお前達を追い掛けただけだけど」


「……は」


「次の日に行くって言ってたのに、みんな無言でいきなり外に出て行ったから……何言っても反応しなかったし、変だったから追い掛けた」


「「「「は?」」」」


 俺は目をまんまるにして二井を見た。それは他のみんなも同じようで、なにも分からないというような顔で二井を見ている。

 俺は声を震わせた。


「いや……俺達は一人で外出てった二井を追い掛けたんだけど……」

「は?嘘だろ」

「……」


 じゃあ、あの時俺が追い掛けた二井は、なんだった?


 二井が追い掛けた俺達はなんだった?


「はは……」


 乾いた笑いが部屋に響く。


「今日はお笑い番組でも見るか……」

「ウン……」


 俺達はまた、その話題を出さない事を暗黙のルールにした。

 



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